2010/2/25 16:19
見事だ…。
ものの見事に橋板が抜け落ちて、橋は裸になっている。
そしてそこから容赦なく竹が育っている。
まるで「空中竹藪」(a bamboo grove in the sky)だ。
これは朽ちかけていた橋板に引導を渡したのも、タケノコの猛烈なノックだった可能性がある。
前方約5メートルの位置に、トレッスルの橋脚と一体になった主塔が橋門構を形成している。
橋板がシースルーなお陰で(笑)、渡りながらにして下部構造を確認できるのが面白い。
主塔部分のアップ。
主塔間の幅すなわち橋の幅は、両手を広げても左右の欄干を同時には触れないくらいだから1尋(約1.8m)以上…おおよそ2m。
主塔の高さは路面より3.5m程度だが、橋脚を兼ねているので、柱としての高さは9mくらいだろう。
なお、吊橋の橋脚と主塔が一体になっている構造自体は、多径間の吊橋で一般的なものだが、一体のトラスであるのは初めて見る。
金属バットで思いっきり叩いたらひしゃげてしまうのではないかと思うくらい華奢に見えるが、実際のところはどうなんだろう。
吊橋という形式である以上は主索の次に重要な部分だから、これでも結構頑丈なのだと思う。
塗装もまだほとんど禿げてはおらず、廃止されてからそれほどは経っていない(10年くらい?)っぽい。
渡橋開始から5mの地点。
すなわち、主塔直下 = トレッスル橋脚の直上。
トレッスル橋脚を上から見下ろすと、まるでジャングルジムのようだ。
近付くまで気付かなかったが、ここで主桁材の本数が3本から4本に変わっていた。
主桁の部材も異なっており、ここまでは「H鋼」だったものが、ここからは「L鋼」となる。
そして内側には木材が充填されている。
この先も橋板が崩れ落ちて骨組みが丸出しのようだが、私にとってはむしろ好都合。
中途半端に橋板が残っていて踏み抜く恐怖と戦うより、一見怖そうに見えても、主桁が丸裸のほうが全然ラクだ。
ラクじゃねーし!
こう言うのが嫌なんだって思った(書いた)ばっかりジャン…。
「空中竹藪」から脱出した途端、
ない方が10倍ありがたい橋板が、大量に出現した。
最初に遠方側方から見たときにはほとんど無いように見えたのだが、それは橋板が余りに薄っぺらなせいだった。
さすがにこの板に体重をかけるのは、ありえない。
それにしても、いろいろと…
歪んでる。
吊り橋の部分に入って、はじめて対岸を見通すことが出来た。
この吊り橋部の長さは、25〜30mくらいある。
水量の割に谷幅が広い赤平川だけに、結構長い橋となっている。
高さは8〜9mくらいだが、現実的な怖さを感じる高さといえる。
もちろん、堕ちれば絶対に死ぬと確信できる高さよりは怖くないのだけれど、堕ちて骨折して川原で「ヒイヒイ」言うイメージが再生しやすいと言う意味で、痛い。
渡らないという選択肢は、とりあえず無い。
さて、どうやって渡るのがいいだろう?
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渡り方は2つ考えられた。
どちらにしても肝になるのは4本ある主桁であり、それ以外を踏むパターンは全てNGである。
ひとつは私がやった方法で、片方の端にある主桁のみを足場にして渡るのだが、上体のバランスは欄干と主索を頼りにする。
この方法のメリットは、主索という一番信頼のおけるパーツに体を寄せられるという安心感で、デメリットは橋の片側にのみ荷重がかかり、傾くリスクのあることだ。
もう一つ考えたのは、中央よりの2本の主桁に左右の足をそれぞれ乗せて歩くことだが、バランス的には申し分ないものの、転倒したときのリスクを考えて止めることにした。
本橋の下部構造は甚だシンプルであり、中央付近で転倒した場合はそのまま身体が橋下に放擲される危険度が高い。
すごく、揺れてます。
…期待以上つうか、以悪つうか…。
つうか、いくら吊橋といっても、
L鋼桁の揺れ方ではない。
重いモノがグワングワンと慣性をまとって揺れる感覚があって、共振破壊の危険を感じる。
そのため極力歩速を緩め、緩衝に留意して進んだ。
耐風索の死は、ここにも間違いなく影響している。
第一印象の通り、この橋はかなりキテます。
川面の風がスースーして、きもちいい。
ここは吊り橋部の中央付近で、主索が腰くらいの高さに来ているので、これに身体を預けてしばし佇んでみる。
周囲には誰もおらず、私の姿は旧国道からしか見えない。
その旧国道も滅多に通る人はないようで、静かだ。
風も川も、音をたてずに流れている。
この探索日は2月下旬で、奥秩父のほうでは朝方にサラッと雪が積もったくらいだから、寒い日ではあった。
日も落ちかけで、なおさら底冷えがする。
だが、背徳とスリルに火照った身体にはちょうどいい、束の間の「空中休息」(a rest in the sky)であった。
え、さっきからつたない英語はなにかって?
深い意味はないけど、ただ何となく…
一定のペースでゆっくりと慎重に歩みを進めていく。
中盤にかけて少し余裕が出たので、動画を撮影してみたりした。
進むにつれ、行く岸の主塔が間近になってくる。
こちらにはトレッスルの橋脚はなく、吊橋が直に陸に接している。
もしかして、これは渡れないようにわざと橋板を墜とされているのだろうか。
こちらも最後は丸裸の骨組みを渡って上陸。
おおよそ6分間の、スリリングで楽しいグラグラ空中歩行が終わった。
こちらの橋台はコンクリート製で特に特徴のないものであるが、岸からは3mほど突堤のように張りだしており、なかなか大がかりな工事となっているのが目に付いた。
16:24
こうしてやっと辿り着いた赤平川右岸であるが、地図を見ればすぐ先を国道299号が通っている。
というか、既に見える。(少しガッカリする展開…笑)
うっかり現国道の開通年を調べるのを忘れてしまったが、雰囲気的には10年くらい前だろうか。
いずれにせよ、現国道の開通によって旧国道と右岸の「日影平」を結んでいた本橋の役目が終わった。
そう考えて間違いないだろう。
日影平は赤平川の河岸段丘上にある猫の額ほどの小平地で、道もその平地と招かれざる現国道に向かって最後の登りである。
浅い堀割の登りは、現国道の「田ノ頭橋」のたもとにぶつかって終了。
悲しいかな、合流地点では築堤に阻まれて、繋がってもいなかった。
足元にこんもりと出来た枯草の茂みが、廃道になっている現状を教えてくれる。
この道は、橋の規模からみて重量のある自動車は無理だが、行きは肥料を帰りは収穫物を満載にした猫車がとっても似合う、農道兼生活道であったようだ。
満足して引き返す。
「山行が」生まれ。ヨッキれんが執筆に加わった本たち。
さらに深く廃道遊戯 |
全てはここから! |
マニアック&上級向け |
廃線探険を提唱 |
もう一度
と思ったが…
…やめようかな。
結局、渡れる橋を渡らず、
近くの斜面から川原に降り、浅い川を跳ね越して戻った。
残念ながら今のところこの橋の素性がわからないから、私の印象で総括させてもらう。
本橋は変わった形状の持ち主であることは間違いないが、橋梁史に残る「名橋」ではないだろう。
地形的にもこの橋である必然はなく、いわゆるオーラが感じられない。
吊橋&トレッスル橋脚という組み合わせの意図は、技術への挑戦というよりも、
切実な節材の願いに尽きると感じた。 特にL鋼の多用には(笑)。
全体的に田舎っぽい橋。
結果としてさほど長持ちはしなかったようだが、必要十分であったと思う。
なにせ、向かう先には数畝のあるだけ。
独り占めの許されない「名橋」よりも、お前が好き。