二十六木とどろき
静かな余生を送る、県内最古級の長大橋。 
秋田県本荘市 二十六木
   
 県南沿岸部の唯一の市、本荘市。
市を南北に縦貫する子吉川の左岸に市街地は集中しており、右岸は田畑や山野が主だ。
難読知名に数えられる「二十六木(とどろき)」地区にかかる橋は、そんな対照的な両岸を結ぶ。
現在、新二十六木橋が国道107号線に供されており、昼夜を問わず通行量が多い。
しかし、元来の二十六木橋は、国道の橋の100mほど北側に架けられたものであり、これは現橋からもよく見える。
この、元祖、二十六木橋が旧道となってから、もうかなりの年月がたっていると思うが、幸いにして、この橋は未だ現役である。
驚きの、昭和8年竣工。 県内最古級の現役橋の今を、お伝えしよう。




 本荘にて輪行を解いた私は、一路横手市へ向け、国道107号線の主要な旧道のトレースを開始した。
そして、この日の私にとって、最初の旧道となったのが、子吉川を渡る、二十六木橋であった。

 橋の200mほど手前で、写真のように現道と別れを告げる。
明らかに旧道と分かる分岐点である。
 分岐点の先は、至って普通な生活道路であり、一見して旧国道と分かるようなものは見つけなかった。
そして、橋が現れる。




 この橋が相当の古橋であることは、この景色を見ただけで一目瞭然である。
凝った造形の親柱に然り、石で出来た欄干といい、無様に盛り上がったアスファルトといい、その両側に茂る雑草といい。
これらすべてが、この橋の有する歴史の長さを、証明している。
 対岸に写る景色は、多分、この橋が現役であった当時とあまり変わってはいないのではなかろうか?
そのせいか、この橋は、あまり違和感を感じない。
そもそも、昭和初期からここにある先人に、"違和感"などということが、とんだ見当違いなのかもしれないが。




 写真が逆光気味で申し訳ないのだが、橋の真ん中付近の景色。
少し下流には、朝のラッシュに沸く現道の橋が見えていた。
背中いっぱいに、重い車列を抱えて窮屈そうな現橋の姿を見ていると、なんか、この旧橋が幸せ者に思えてきた。

 私がのんびりとここを走っているさなか、一台の軽トラが、通り過ぎた。
この橋も現役なのだと、思い出させてくれた。


 早朝の澄んだ空気が、鏡のように静かな水面に地上の世界を映しこむ。
朝のラッシュの喧騒は、橋の下に広がる世界の美しさを知る暇を与えはしない。
橋は、その機能の重宝さの為に、際限なく量産されていく。
しかし時々は、橋の景色を楽しみたい。

 二十六木の名は『轟き』に通じると思われ、川沿いのこの地名は、ごうごうと唸るような早瀬や激流を想像させるが、この景色からは想像しがたい。
むしろ、現道の騒音…でもまだ足りぬ、現橋袂の巨大なパチンコ屋の喧騒こそが、その名にふさわしいと思われる皮肉。





 渡り終える。

対岸に立って、もと来た方を眺めると、そこにはきわめて今風な、しかし平凡な町並み。
やはりこの橋とは不釣合いな景色だが、それもまた良い。

 橋の袂には朽ちかけた標識が一本。
「4.0t」の重量制限だった。
しかし私は思った。
一台が4.0t以下でも、この長い橋、渋滞にでもなったら、どうなるのだろう?
100台くらいが橋上に犇く可能性だって無いとはいえまい。
…つまらないことを考えてしまった。




 と、ここでレポートを終わってもいいのだが、今回はもう少し。

 橋の袂から河川敷のほうに護岸を降りてゆくと…。
うーん、なにやら様子が変だぞ。この橋。




 ぎょぎょ!
すっげー。
この錆つきぶりは。
しかも、えらい重厚な造りだ。
これぞ、昭和の工業のエネルギッシュ感なのか?!
上に乗っている車道部分よりも明らかに偉そうな、基礎部である。




 しかも!
なんとも立派な表札ではないですか!!

東京 昭和参年 製造
  杉浦鐡工場

 うーん、大迫力。 くらり…(←その魅力にヤラレタのを表現してみました。)
それにしても、昭和8年竣工の橋の基礎部が、その5年も前に東京で製造されていたというのは、今では考えられないスローペース?なのか?
いや、ペース云々よりも、東京にしかこの橋一本作るだけの設備も無かったのだろうか、ということが気になる。
なかったのかもしれないなぁ。



 このように、終始長閑な雰囲気の中での、県内でも有数の古橋(しかも現役)とのふれあいでした。




 オマケ。

 すぐ付近、三六(みろく)温泉入り口近くの旧道部に見つけた小さな橋。(名称不明)
もはや足元の川は、用水路のようにしか見えませんでしたが、立派な親柱の痕跡があります。
これも二十六木橋と同時期の竣工ではないでしょうか?

2002.9.2

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