廃の一


雲上に取り残された、国道跡

 これが、廃道だ!
そう、高らかと宣言したくなるほどの、最高の景色だ。
写真を見ただけで、ここがどこか気が付かれたあなた。
あなたは、相当に秋田の道を愛してらっしゃる!

 秋田県を代表する廃道と信じてやまないこの道。
国道46号線仙岩峠だ。
一度聞いたら、決して忘れられないインパクトのある峠の名もさる事ながら、この地に残る景色は、さらに衝撃的かつエキサイティングだ。


 北日本の脊梁たる奥羽山脈を、単独で貫く峠道が、かつてあった。
この地に、自動車交通に耐えうる道が拓かれることの、両県繁栄に与える功績の大きさを信じ、人々は熱狂と共に開通を待った。
そして、日本全土が高度経済成長を迎えんという、昭和40年、大いなる喝采と共に、開通を迎えた。


 その日から、40年。
列を成すトラックの群れも、ドライブを楽しむ乗用車の姿も、いまは、ない。
それどころか、まったくといっていいほど、この道で人に出会うということはない。

 両県知事が列席し、盛大なパレードが峠を駆けた、あの日から、僅か40年。
だが、
すさまじい峠道をたどるという、記号的でしかなかった「繋がり」は、実際の経済活動には、期待通りの成果を与えはしなかったのだ。
すぐに、当初の熱狂は醒めた。
そしてついに、その役目を開通から僅か12年目にして終え、入り口の重いゲートが閉ざされたのだ。

 峠は、まるで夢のあとのように、元の静けさを取り戻している。
残されたものといえば、千尋の谷間を埋め尽くす膨大な量の白い瓦礫と、まるで闇雲に地を這った大蛇ように、緑を切り裂くアスファルトの帯。
こんなものは、「まったく美しくない」と考える人もいるだろうし、間違っていないとおもう。
自然を侮り、無謀な計画を推し進めた、人の愚かしい過ちの記録だろうから。
しかしどうにも、私はここが好きで好きでたまらないのだ。


 標高800mを越え、もし現役ならば、東北でもっとも険しい国道峠のひとつに数えられていたであろう、仙岩峠。
長大なトンネルと橋の連続で、この地を越える現国道46号を通ったことがある秋田県民は、非常に多いと思う。
しかし、県民の平均年齢よりも遥かに若い廃道が、雲上に眠っていることを知るものは、どれほど居るのだろう…。






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