その58東ノ又林道 旧道2004.6.2撮影
秋田県北秋田郡森吉町 森吉



 平成22年の完成を目指し森吉山ダム工事が急ピッチに進められている森吉町森吉地区から、森吉山(海抜1454m)の北側山腹にある森吉スキー場までの町道は、建設当初「東ノ又林道」と呼ばれていた。
この道は開通後半年で町道に編入され、現在まで冬季はスキー客を、それ以外は登山客や山菜採りの客達を、立派な二車線舗装路で導いている。
その開通は昭和62年。

この途中に、不思議な旧道がある。
旧道ではないかというのも私の推測に過ぎないのであるが、まずはご覧頂こう。





 標高差500m以上で全長8kmあまりの町道は、全線に亘って勾配がある。
この道の先はスキー場などがあるが、最終的には行き止まりであり、私はこの道を往復する事を余儀なくされた。
スキー場付近に存在すると思われた林鉄の痕跡を探す旅の帰りのことである。

来るときはかなりのアルバイトを強いられた道だったが、下りとなればあっという間に景色は流れていく。
平均速度は40kmをも上回るペースで、爽快にヘアピンカーブと直線をかっ飛ばす。
山チャリの醍醐味の一つである。
速度には以前ほど熱狂しなくはなったが。




 スキー場から下ること2kmほどで、写真に撮ることさえ忘れてしまうほどの、なんて事はない分岐がある。
下り方向で左側に分かれる砂利道なのだが、一見して林道っぽくない。
どこへ行くのか興味があり、ちょっと踏み込んでみることにした。
もちろん、地図にはない道だ。

写真は、この砂利道に入ってすぐ、ガーレールの外を見た景色。
大きなヘアピンカーブで、下の段へと繋がっていく。
林道にしては、ダイナミックな造りだ。




 別アングルからヘアピンで繋がる謎の道を撮影。
遠目に見てもゆったりした姿が特徴の森吉山だが、その懐に分け入ると、なるほどなだらかなものだ。
しかし、注目はこの道だ。
結果的にあと2kmほどで、この道は町道に再び合流してしまい消える。
この2kmほどの区間に、現道と接続する箇所はあるものの、それ以外の分岐はなく、なんのための道なのかが分からない。
みたところ、かなり手の込んだ施工が成されている道で、このまま舗装してしまえば充分に現道利用が可能にも思える。



 道幅は2車線規格の7m。
築堤上を真っ直ぐ下っていく場面でも、しっかりと両側にガードレールが設置されており、まるで未舗装の広域農道だ。
あるいは、造り途中で放棄された道?

これが旧道なのだとしたら、なんか勿体ないくらい。



 再び現道に合流するまで、ずっと急な下り坂が続き、その所々にヘアピンカーブがある。
一部のガードレールは、取り外され地面に置かれている。
これは、ガードレールが冬の間に積雪で破損しないように行われることだ。
しかし、この道が現役で利用されているのかは、微妙だ。
なぜならば、現道はすぐ傍を別のヘアピンカーブで通っており、そちらは完全に舗装されてるからだ。
しかも、まだ廃道と言うほどではないが、側溝の周りから植生が進んでおり、数年後には藪となってしまうのかも知れない。
なぜ、この道を舗装して使わなかったのだろう。
完璧に2車線規格である。



 この道の前身が「東ノ又林道」と言う道だというのはもう書いたが、その建設にまつわる、きな臭い話もある。
実は、ほぼ同じ場所にもっと古い林道があって、それはブナ岱林道と呼ばれていた。(なお、ブナ岱林道はスキー場より上部の林道として現在も一部現役である)
ある大手ゼネコンによる森吉スキー場の建設話が持ち上がった昭和50年代後半、町ではその誘致に夢中となり、県と町のみの財政で、その唯一のアクセス道路となる予定だったブナ岱林道を改良し、東ノ又林道として昭和62年に開通させたのである。
この際、通常の林道改良では幅5mと言う規格が上限であったため、県では「地域振興林道」と言う新しい枠組みを用意して建設した。
スキー場のアクセス道路としての建設が毛頭にあったからこその、後にも先にも唯一の、幅7mの林道工事だったのだと言われている。(大規模林道などの採択基準には満たない)




 さらに、突貫工事で完成した東ノ又林道だが、砂利道のままではスキー客は寄りつかないだろう。
それで、僅か半年後に町道に編入され、町道として全線舗装の工事が成されたのである。
ここまでの数十億円の支出は、全て県と、町のみで賄われている。

幸いにして、森吉スキー場は「当たり」で、現在でも存続しているのだが、かなりリスキーかつ、ご都合主義的な林道事業だったと言えるだろう。

で、こんな話をしたのは、私なりにこの不可思議な旧道区間を考えたときに、先述のきな臭い逸話に通じるものがあると思ったのだ。
おそらくは、今は利用されていないこの砂利道、これが改築で生まれた東ノ又林道の元もとの姿ではないだろうか。
幅7mで砂利道という共通点がある。
そして、現道はと言うと、やはり7mで、しかも舗装されている。町道だ。
それに、何でもかんでも町道に編入できる訳ではなくて、ルールはある。
町道だけに、町民の役に立つような公共施設とか、もちろん集落などがあれば完璧だが、集落はないので、いずれにしても、何かが必要だろう。
山上にあるのがスキー場だけというのでは、余りにも露骨ではないか。




実はあるのだ。
この区間の現道にあり、旧道にはないものが、舗装の他に。
この僅かな区間だけを切り捨てて、林道を町道に編入する為の口実にされたのではないかと疑われるものが。

それは、一棟の山小屋である。
名を「テレマーク山荘」という。
舗装された道の途中、登山道でもない道の途中に山荘である。
またも、不自然さ満開である。
たかが8kmほどの舗装山岳道路の途中に、山荘が必要だろうか。
実際に、夏場は自販機以外が稼働している雰囲気はなかった。

哀れ切り捨てられた新設林道(おそらく半年間しか使われていない!)は、その誕生から廃止まで、観光開発によって支配されていたっぽい。

どう見ても、この道は殆ど使われた形跡がないもの。
轍は浅いし、側溝なんかも、かなり浮いている。

あなたは、どう思います?


 で、合流点。
またも何の案内もないT字路で現道に接続。
この先、同様な旧道の発見はなかった。
この分岐から少し現道を上れば、テレマーク山荘はある。



 現道側から、旧道を撮影。
ところどころ横断する側溝がかなり浮いているのが怖いが、それ以外は砂利の状況もよく、ドリフトして遊ぶのにいいのかも…なんて、経験もないくせに、不謹慎なことを言ってしまったり(笑)。

でも、

みんな何かに使ってあげてよー。 この道。
勿体無いから。





 オマケ。

現道のテレマーク山荘付近からみた旧道のガードレール。

あな立派な道だ。


2004.6.28作成
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