その63林道 沖ノ沢火石田線2004.7.14撮影
秋田県平鹿郡増田町〜雄勝郡皆瀬村


 今回は、林道の紹介だ。

山行がで林道を紹介する事は稀で、それには理由がある。

ずばり、林道は距離が長く、ネタとして冗長なのだ。
このカーブを曲がると、今度はこんな景色で… などとレポートしても、余り楽しくない。
そして、林道は余りチャリに適さない。
通常であれば、バイクの機動性や速度性には叶わないし、林道ネタに終始するならば、バイクを主機動力とする探索者には到底及ばないであろう。
その様な打算があり、そして、そのことが私に林道を敬遠させている。
そして、これは私の趣向の問題だが、一度歴史ある遺構を探して走る楽しみを覚えてしまうと、たかだか十数年内に完成した林道を走る事への興味が薄れてしまった。

山行がを取り巻く林道情勢は、明るくないのが実情なのである。

だが、例外的に林道を走ることがある。
例えば、道が荒れているなど、興味深い状況にある場合。
隧道など、見るべき物件がある場合。
そして、目的地に向かうための最短最速のコースであると思われる場合などだ。

上記のような条件に合致して、山チャリの計画上に林道が組み込まれた場合でも、大概は通過点に過ぎず、レポート化することはますます稀だ。
ならば、なぜ今回はこの林道なのか?

それは、一般に知られていない、地形図にも記載されていない林道で、かつ通り抜けが可能という状況にあるからだ。
つまりは、林道を走ることを私以上に楽しめる方々への、情報提供である。
既に実地調査などで通り抜けをされている方、ローカルな林道ネタに興味がない方、
どうぞ今日は更新が無かったものと思って頂きたい。

それでは、前置きが長くなったが、本題に移ろう。


林道名は、沖ノ沢火石田線といい、平鹿郡増田町の狙半内川沿いと雄勝郡皆瀬村落合川沿いとを繋ぐ、恐らく正統派と言って良い峰越林道である。
なぜか、あらゆる地図から抹消されている道なのだが、先に結論から言ってしまうと、乗用車を含め通行が可能である。

この林道の意義は、山と山を走り繋ぐ林道ライダーさんでもなければ、余り感じないであろう。
殆ど交流人口のない山間集落同士を繋ぐ、約10kmの林道は、ほぼ全線砂利道のままだ。
勾配も厳しく、乗用車でも通れはするが、一般道路を迂回した方が早いかも知れない。
そして、その方が確実に安全だ。



 ここは、増田町狙半内川沿いの火石田。
このまま舗装路を山中へ直進していくと、上畑温泉を越えて約4kmでダートとなり、メジャー林道の一つ(私は走ったことがないが)広域基幹林道狙半内上沼線で東成瀬村に至る。
しかし、私は敢えてここを右折する。
何の変哲もない。
標識一本、林道標柱一つ無い、民家の引き込み線に見まごうばかりの、舗装路である。





 数軒の民家の脇を通り抜け、そのまま林道は山に分け入る。
ここで林道標柱があり、砂利道となる。
ここまで、起点から40m。
標柱には、大石沢林道、延長2580m、幅3.6m、竣工昭和46年、管理主体増田町、などと、ありがちな文字が並ぶ。
この段階で、峰越であることを予感させるものは一切無く、距離表示も到底峠には及ばないものだ。

大石沢という狙半内川の支沢を遡る行き止まりの林道であるとしか、思われないだろう。




 砂利道は大石沢に沿って、平凡に2kmを過ごす。
当たり前のように、誰にも会わない。
梅雨の真っ最中で、この林道を走っている最中も大粒の雨が頻繁に落ちていた。
既に私はパンツまでぐっしょりであり、空の気が済むまで濡らしてもらっても結構なのだが、カメラが壊れることだけが恐ろしかった。

林道は、地図にない分岐を迎える。
ここから峠までの2kmほどが、地図にない区間なのだ。
左の舗装路が峰越を成す本線である。



 ここから2kmで一気に標高200mを稼ぎ峠に一直線だ。
急勾配箇所はコンクリ舗装となっているが、4度ばかり勾配「16%」の標識が現れ、ウンザリさせる。
雨が凄まじくなり、霧だか雲だか分からない靄が視界を奪う。
仮設林道かと思うような無茶な勾配が続く。
通行量が少ないであろう事は、刈られず路上に大きく張り出した雑草から見ても明らかだ。




 峠に立つまで、執拗に16%勾配が押し寄せてくる。
猛烈な雨に、いよいよデジカメの沈胴式レンズが上がらなくなってきた。
私のカメラ特有の持病であり、こうなると、撮影のためには一々手動でレンズを引っ張らなければならないし、ますます濡れが進むことになる。
もう、手を含め、体のどこにも濡れていない場所はないのだ。
カメラも、風前の灯火となってきた。
こんな林道で、遂にカメラという記録手段も失ったら、何のために来ているのか分からないではないか?!



 峠が現れる。
そこは少し広く、稜線上に続くらしい支線が分かれる。
休憩する気にもなれず、すぐさま下りに転じる。

淡泊だ。
レポートも淡泊だし、実際に走った私も、雨であらゆる感情も一緒に流されてしまったかのように、無表情、無感動で、現れる勾配やコーナーを坦々とこなしていく。

面白くないな。

山チャリって。




 もしも天気が良ければ、かなり眺めも良いかも知れない。

しかし、現実の山チャリに「もしも」はない。

寒い。



 峠直下にある、まるで古代の集落跡か、或いは牧草地なのか、それとも自然の湿原なのか…。
分からないのだが、ちょっと気になる草地である。
幽玄な感じが、ちょっとステキだ。




 下りも上り同様、恐ろしい下りだ。
ブレーキの効きも衰え、限界までレバーを引いても、下りでは静止が出来ない。
峠より東成瀬側が表題とした沖ノ沢火石田林道と呼ばれているが、上り始めにあった大石沢林道の表示以外は、現地で一切確認できない。
比較的よく整備された峰越林道でありながら、なぜ地図にも載らないのか、分からない。






 東成瀬側は九十九折りも多い。
しかも、曲率半径5m程度の、ねじり込むような下りカーブの連続だ。
一気に、谷底へと急降下していく。
私のチャリはここで、一度一定以上の速度を出せば、転倒するか吹っ飛ぶまで止まれないであろう状況だった。




 沖の沢に沿うようになると、畑が現れ、集落が現れ、舗装となり、林道は残り2.5kmとなる。
あとはもう、普通の道だ。



 ごめんなさい。
写真にコメントを付ける形でレポートする訳なのだが、雨によるテンションの低さは、写真を撮った私の体に染みついており、レポートもそのままのテンションとなってしまった。

とりあえず、通れると言うことが分かればそれで充分な方達に、このレポを捧げます。

私は言いたいのは、本当はそれではなくて。
雨の日に無理して山に入っても、いいこと無いよ。  と。



おわり。



2004.8.2作成
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