廃線レポート  
森吉森林鉄道 その3
2003.10.15



 深渡から入り、小滝へと続く小又川沿いの軌道跡は、森吉森林鉄道本線の貴重な痕跡である。
この間、県道は小又川の対岸を通るため、廃止後ほとんど人の手が入っておらず、当時の景色を色濃く残している。
今、地獄のような叢を乗り越え、その核心へと迫る。


深い森の中
2003.10.8 10:14


 豊かな恵みをもたらしただろう、古里の森。
木漏れ日が優しく降り注ぐ森のなか、深まりつつある秋の凛とした涼しさ、鼻腔をくすぐる木の香り。
本当に気持ちよくて、ここが水没してしまわなくて本当によかったと思う。

誰かが管理しているわけではないのに、軌道の通った道筋は、確かな痕跡となって残っている。
それは、地面の微妙な凹凸であったり、次の写真のような…。


こんな石垣であったりする。

誰も踏み込んでいないのか、それとも、みなマナーがよいのか。
とにかく、ゴミなどがぜんぜん落ちていない。
車道から遠い(直線距離は近いのだが、川が間にある)ので、不法に投棄されるものなどが無いのだろう。




 動植物については全然無知な私でも、これまた一目見て食べられそうと感じられるキノコ。
喰えるんでしょ、これ。
そんな感じするよ。
誰も取りに来ないんだねー。



 進めば進むほど、軌道跡とも、古道ともとれる味わい深い景色が次々と現れる。
命懸けの廃道探索の目くるめくスリルも嫌いじゃないが、まったりと失われた道の痕跡を探しながら森を彷徨う事も、
また、愉しいなり。

相変わらずチャリに跨ることは適わず、それは重い荷物となっていたが、そんなことはどうでもよくなるくらいの喜びに、満ち溢れていた。

謎の集落跡??
10:18

 発電施設から軌道跡に分け入ってから、既に50分が経過しようとしていた。
注意深くこれまでの経路を地図と照らしあわせてみれば、だいたい小滝集落まであと1km位の位置まで近づいているらしいということが分かる。
だが、その小滝集落もダムによる集団移転により定住する人はいないと聞く。

前方に景色に変化が現れた。
倒木の向こうにはまぶしい太陽が照りつける。
森を出るのか?
なんか、その先の緑の深さ… 嫌な予感がするんですけど…。



 あへー。

みちないよー。

腰よりも背の高い笹にチャリともどもどっぷりと漬かる。
まだ朝露が残る笹の葉を掻き分けて進むうちに、気がつけば下半身はびしょ濡れに。
それにしても、この状況はやばい。
まったく足元の地形が分からず、軌道跡を見失う恐れが高い。
とりあえずは、可能な限り真っ直ぐ進むように心がけよう。
森林鉄道といえども、そうそう急なカーブは無いだろうから。



 ともすれば見落としたかもしれない小さな人工物が、森の中に取り残されていた。
それは、小さな鉄塔である。
全体が赤茶けた錆に覆われ、木々と同化してしまっている。
はたして、これは何だったのだろう?
鉄道用の設備だったのか、それとも、集落用の電線か何かだったのだろうか。

周囲は地面すら見えないほどの圧倒的な笹薮であり、これ以上の痕跡は見つけられなかった。



 さらに進むと、小又川の湾曲の内側に形成された小さな平地に出た。
そこは、一目見てかつて集落があった場所という感じがした。
いや、間違っているかもしれないのだが、私がそう思った根拠というのは、この若い杉の植林地である。

平坦な土地に、周辺に比べそこだけ異様に若い植林地があるとき、これが廃集落の痕跡である可能性は高い。
集団移転か、はたまた自然消滅か。
住み慣れた土地を離れるのみならず、地名自体が半永久的に消えてしまうとしたら…、集落の消滅というのはどんなにかショックなことだろう。
私は幸いにしてそういう経験は無いが、それでも失われた集落を歩くたび、残照の様ななにかを感じられるような気がする。



 はじめ、蕨が茂り若杉と共存していたかに見えた植林地も、奥へと進むにつれその力関係がはっきりしてくる。
まるで枯れ木の森のような異様な、そして不気味な景色。
これは、良質な杉の生産に必要不可欠な下枝刈りがされなかった結果だ。
日光が届く部分だけは生きているものの、幹の下半分はまるで死んでいる。
この下枝はさらに日光をさえぎり、地肌は殆ど真っ暗。
そこは堅く、養分も少ない死んだ土地だ。
苔くらいしか生えない。

身震いするような不気味な情景に、道を誤った可能性を模索したが、こんな密林ではどこに軌道があったとしても区別はつかないだろう。
あきらめて、先へと進む。


 これが、究極的に管理を放棄された植林地の姿か。
たしかに、ここは止むを得ないかもしれない。
大規模な林業を行うにもこの植林地は狭いし、なんといっても交通の便が悪すぎる。
重機などを搬入することは困難だろう。
それでも、無人となった土地をただ遊ばせておくよりはと、植林をしたのであろうが…。
むしろ、これでは土地がかわいそうではないかなどと、感傷的になってしまった。

この気持ち悪さのため、早足で通り過ぎたが、私はただひとつだけ、きっと昔の住人が置き忘れたであろう物を発見した。
それは、ひとつの陶器の瓶子(へいし)。
これは、神棚にお神酒をささげるのに使うもので、昔の家庭には必ずあったもののひとつだ。
集落の痕跡の全てを強引に消し去るようにして作られた森に、ただひとつだけ、ぽつんと落ちていた生活の痕跡。
余りにも不自然。
幹と幹の間に、半ば埋もれながらも白く冷たい光を空ろに湛えたそれは、私の進路に待ち受けるように、あった。
なぜ? だれが? どうしてひとつだけ?

分からない。
馬鹿げているかも知れないが、何かを私に伝えたいという土地の意識が、こんな発見をもたらしたのだろうか。



そして、ついに現れる
10:32


 恐い森を脱出することが出来た。
そして、私の勘が鋭かったのか、運がよかっただけなのか、すぐに軌道跡を発見することが出来た。
また、この道を辿っていこう。
もう少しで、最近まで人が住んでいた小滝集落に出られるはずだ。

それにしても、また嫌な感じの藪になってきたかも…。




 もしこんな場所で先へと進めなくなったらどうするのだろうかと、戦戦兢兢としながら怪しさを増した軌道跡を慎重に進む。
やっぱり人が行き来している痕跡は無く、どれほどの期間放置され続けているのか。
そして、不安材料はもうひとつあった。
なんと、チャリに正体不明のアクシデントが発生していたのだ。
それは、『車輪が回ればペダルも回る。』というもの。
普通はこの逆でしょ。
ペダルをこげば車輪が回る、でも、今はその逆もあり。
これが、気持ち悪いだけじゃなく、えらい不便なことに気がついた。
どう不便なのかはご想像にお任せするが(言葉にしにくい不便さだった)、とにかく、なんなんだこれは???
直るの?



 で、いよいよ見えてきた、お目当てのモノが。
それは、やっぱり隧道。
「山さ行がねが」には欠かせない廃隧道がお出ましである。
この隧道のことは歴地形図で知っていたが、もちろん実物を見るのは初めてだし、現存しているかは半信半疑だった。
いやー、それにしても、この隧道へのアプローチは難しかった!!
無茶にもチャリ同伴だったというのもあるが、初めの頃が特につらかった。
万感を込めて隧道へと迫る!


 意外に大きな坑門だが、延長は短いようだ。
小又川にせり出した巨岩を貫くだけの隧道は、切り通しにならなかったのが不思議なくらい短い。
そして、かなり痛んでいるようだ。
ここまで接近しても、まるで自然の洞穴のようにしか見えない。



 残念ながら名称は不明のままの隧道。
以降、便宜的に「小滝隧道」と呼ばせてもらう。

岩石の崩落が進んだ為に当初の口径よりもかなり大きくなってしまったようにも見える。
断面もかなりいびつであり、いつ全体が押しつぶされてしまっても不思議では無い気がした。
かなり危険な隧道と思われる。

だが、ここまできて引き返せるわけは無い。
すぐそこに出口は見えているし、もちろんここを迂回して進む道も無い。
右手はすぐ谷になっているのだから。
坑門に1メートル以上降り積もった岩石をチャリを担いで超えると、ひんやりとした坑内に入る。


内部から入ってきた方向を眺める。
特に坑門の痛みは激しく、それはこのいびつさからも十分に分かるだろう。
昭和43年頃までは、毎日ここをガソリンカーが行き来していたはずだが、最後まで補強されたりすること無く素掘りのまま利用されていたらしい。


 隧道は短いわりにウェットだった。
内壁はご覧のように苔が一面に生え、庭石のよう?
ほんと、自然洞窟にしか見えない隧道である。



 苦労してたどり着いただけに出来るだけじっくりと探索したかったが、こんなに短ければそれにも限度がある。
もう二度と来ることはなさそうな隧道に、別れを告げた。
最後にもう一回振り返って、その姿を目に焼き付ける。



集落の気配
10:38


 さらに進むと、徐々に徐々に足元の轍が鮮明になってきた。
やはり、このあたりまでは以前車道として利用されていた時期があるらしい。
先ほどの隧道も車が通ったことがあるのだろうか。




 そして、ついに決定的に新しい轍が出現。
この段階でやっと、“突破成功”を実感できた。
とりあえず、ひとつ攻略が進捗したことに「やったー」の笑みがこぼれる。
ここは、かなりのハードさだった。
隧道までならば、こちら側からなら比較的容易にたどり着けると思うが、この全線を通るものは、もういないかもしれないとさえ思う。
森が終われば、いよいよ集落か?!



 森を出ても、そこには荒野が広がっていた。
しかし、これは明らかに集落が縮小する過程で捨てられた土地だと思う。
大きな木のない明るい荒野が、ずっと続いている。



 ちょうどこの森の出口に、一台の車輌が捨てられていた。
どうやらこれは、耕運機などに連結して利用するテーラーと言われる荷台らしい。
昔の農家はたいてい一台は所有していたというが、最近はあまり見ることがないものだ。



脱出!?
10:42


 脱出!!

そこに待ち受けていたのは、集落というには余りにも寂しい景色だった。
数軒残った家も、庭も、みな叢の海に没していた。
宙を伝う電線と点在する電柱は、明らかに現存する家屋の数に対して多い。
ここにはもはや、住む人はいないようだ。

2003年現在、定期バスの終点は根森田になっており、かつては数十軒が軒を連ねる小又川上流の最大集落だった小滝も、二度目のダム建設で命運を絶たれたか。

ここまで軌道上の距離で、発電施設から約4km。
この距離を、ほぼチャリ押し&担ぎで65分ほどかかって突破したことになる。
はあ、楽しかったけど、それ以上に、しんどかった。


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