廃線レポート  
森吉森林鉄道 最終回
2003.10.22



 森吉森林軌道。
ついに行き詰る。
それは、どこで、どのようにして?
今回、明らかに。



再び崖を上り…
2003.10.8 13:00


 頭上に見える朽ちかけた築堤へ向け、今一度登攀を試みる。

文章にすると、あっという間なのだが、
実はこれ、
大変骨が折れる…、危険な作業である。

二度目は、慎重さを欠いたか、滑落寸前であった。

 ……ヒヤヒヤ…。


 先ほどと様子に変わりはない上部の軌道跡。
そして、今度は湖畔を目指し、左へと進路をとる。

やはり、路盤があった場所はすっかりと森と化し、進行は困難を極めたが、あっけないほどすぐに、黒い穴が見えてきた…。

第3隧道
13:04

 この隧道を、第3隧道と称することとする。

本隧道の坑門付近には、路盤を横断するようにして小川が流れ、それは谷底へ落ち込んでいる。
足場が悪いので、注意するポイントだ。

坑門はかなり荒れているが、一応コンクリート製である。
再び装備を整え(隧道の外も長靴で歩くのは、大変危険であるので禁止)、暗闇へと向かう。
この隧道は、抜けられるのか…?



 坑門の近影。

足元の小川は、大雨時など相当に増水するようで、一面に濁流の跡を認める。
大量の枕木と思われる材木も散乱している。
本隧道内への影響が心配である。

内部に、反対側の明かりは見えない。

…だが、かすかに、風を認めた。



 内部の様子は、ぱっと見たところ、きれいである。
出口は、やはり見えない…。
先ほどの隧道も、出口は見えなかったが、なんとなく、嫌な予感がする。

一歩踏み出す。
すると、

  ズボーーッ

ぎゃぎゃぎゃ。深いぞ。
足元の泥は、深い!






 入洞10mで、既に長靴は泥まみれ。
やはり、坑門から土砂が流入することがあるようで、一年中このような路面なのだろう。
しかし、こういうときのために長靴を着用しているのであって、しかも、この興奮状態の中、この程度の障害ではへこたれる訳には行かない。
「脚のいっぽんにほん、くれてやろう!!」
(↑それは大げさだろう…)


ついに… 
13:08


 ますます深さと粘度を増す足元。
そこは、チョコレートの海のようだ。

 ずぼっズボッずぼっ…。

 ツゥポンッ!

歩くたびに、いろんな音が静かな洞内に木霊する。
まだ、行く手に明かりは見えてこない…。


 なおも泥に苦戦しながら進行中。
前方に、点のような光を発見。

あの色は、見紛うはずもなく、間違いなく外だ!
行ける…のか?!



 遥かに遠い気がする出口の明かりを黙々と目指していた私の目に、衝撃的な光景が飛び込んできた。
第2隧道同様、この第3隧道も内部に未覆工の部分があるのだった。
しかも、第2隧道のそれとは異なり、未覆工部分の荒廃は、明らかだ。
出口の光に照らし出されるシルエットとして、側壁からの大量の土砂の流入箇所が、複数認められる。

この隧道は、寿命尽きかけている。
だが、今なら、まだ抜けられるはず。 ぬけたい!


 ついに


 やってしまった。

路面を横断している水流を横断する際、足場の泥が意外に深く…。

「長靴外装部にて級特殊警戒水位突破!」
「水位上昇止まりませんっ!」
「だめですっ、浸水しますっ!!」
「きゃーーーっ!!」
 じゃーーーー。
「…長靴内部、浸水しました…現在状況を整理中です…。」
「両脚部長靴内部および、両脚本体の46%に、重度の浸水が発生しました。」
「残念ですが、復旧は不可能です…すみません…」
「…艦長、 退却しましょう。 (←低い声で)

ならんっ! 全速前進っ!! (←太い声で)」




 両足をびしょ濡れにしてしまったが、もうこればかりはどうしようもない。
これから、何時間続くかわからない探索を、濡れた不快な足で行うのは気が重いが、むしろ、濡れを恐れなくて済むようになったのは、良かったかもしれない。
これで、心置きなく探索を続行できる。
そう割り切って、すぐ傍に見えてきた明かりを目指す。
内部には幾つものプールが発生しており、本隧道を濡れずに突破することは困難と思われる。



 やっと、脱出だ。
要した時間は約6分間、延長は短くはなく、350m前後だろうか。
この坑門からは、小川が流れ込んでいる。
しかし、衝撃的なのは、その先。
出口から明かり区間は僅か30mもない。
すぐ先に、次の隧道が控えているではないか!!

アツイ!
アツ過ぎる!!
森吉森林鉄道の、本気を少しだけ垣間見た気がした。
この軌道なら、本当に長大隧道の連チャンで湖を突破して見せるかもしれない。
そう確信した。
短い休息、そして入洞
13:11


 次の隧道(第4隧道とする)は、すぐそこだ。
この短い明かり区間は、ちょうど路盤が水路のようになっており、次の隧道へと続く。
そして、ここを横断する一本のブル道がある。
左の谷底から右の斜面上部へ向け、草に覆われた仮設道路である。

位置的には、このブル道を下れば、地点に続いている気がするが…。
帰路は、ここを行ってみよう。




 ブル道に立って、上部方向を臨む。
右が第3隧道坑門で、左が続く第4隧道である。
このブル道を利用した作業員がどれほどいるのかは分からないが、彼らは路傍に口をあけるこの穴たちを、どんな目で見ていたのだろうか…?
ふと、そんなことが気になった。
もし彼らのうち誰かが、「両側に廃隧道が口を開ける場所で働いているんです」と、当サイトへ投稿していただければ、もっと早く訪れていたと思うのだが…(←無理な注文)。
 それにしても、この山々は本当に未開だと思う。
いや、ご覧のように、軌道が通い、その後に敷かれただろうブル道も通り、林業と言う産業的には未開ではない。
しかし、観光的、或いは生活的には、本当に未開だと思う。
なぜならば、森吉ダム近くで入山して以来、ここまでただの一度も、ゴミを見ていない。
正確には、ここで一つの「錆びたジョージアオリジナル」を見つけたので、こんな考えが浮かんだのだが。
軌道が棄てられてから、そこを実際に歩いてみようと言う同好の士は、余り多くなかったのだろうか。
あるいはー、マナーがすこぶる良かったのか。
この辺り、山深さでは上回る“万世大路”とは大きく異なる。
なんせ、あそこでは廃止後40年を経過した隧道内部で、最近の新聞が落ちていたり…、人の痕跡があったもの。


 濡れた足を乾かすどころか、長靴に溜まった水を捨てることもせず、13時13分、第4隧道へ、入洞。

坑門は、やはりコンクリート製。
隧道の向こうの明かりは、見えない。

風は、  

…分からない。


感じられない気もする…。

正直、分からない。




第4隧道
13:13


 坑門付近に、見慣れない構造物が。
これは何だろうか?
路面を遮るようにして、コンクリート製の高さ30cm厚さ20cmほどの直方体が置かれている。
中央やや右よりの上部には小さな切れ込みがあり、何らかの機能を有する物体だったのだろうか?

全くの想像だが、水を塞き止めておく為のものだろうか?
だとしても、何のためにあるのかは分からないし、奥から流れる出る水流も物体の下をすり抜けてしまっているが…。
考えていても分からないので、これを跨ぎ、奥へと進む。




 入洞僅かで、再び覆工が途切れた。
ゴツゴツとした素掘り隧道というのは、なかなか見慣れると言うことがない。
と言うか、見ていて飽きない。

まだ、出口の明かりは見えてこない。

天井にピカッと光る、二つの点、お気付きだろうか。
これの正体は…。

この、物体である。
天井に碍子を介して設置された、長さ40cmくらいの木の棒。
しかも、点々と約20m置き位に設置されていたようだ(現在では脱落したのか、不規則に並ぶ)。
電線が通っていたのは間違いないと思うが、これと同様の物は第2隧道内でも目撃されている。
まさかこの軌道は電気化されていたのだろうか?



 前方に、今回の探索では一度も感じたことのなかった、“圧迫感”を感じた。
ま、まさか、この感覚は…  …閉塞している?!

全身にはしる嫌な予感を払拭しようと、前方を凝視した。



 無題
13:15


 洞内にまるでえらの様に張り出した、白い滲みのある巨岩。
これは、元来このような形であったと思われるが、問題はその先。
見たくない光景が、現実になっていた。
天井近くまで累々と積み重なる土砂と瓦礫。
あきらかに、閉塞、いや閉塞一歩手前の状況だ。
まだ、この上部を潜り抜けることが出来るかもしれない。

大崩落は隧道の断面の形自体を大きく変容させていた。
まるで、枝分かれした鍾乳洞のように右手は深くえぐれ、その奥から勢い良く地下水が流れ出していた。
きっと、この地下水路が崩落の犯人だ。




 土砂の山を登りながら、それは一瞬の時間なのだが、全身が熱くなるのを感じた。
この先がどうなっているのかと、期待と不安が(もっともこの場面では不安が大きいが)交錯し、その激しい感情のエネルギーが私の体温を上昇させたのだ!

どうなっているのだ!!
この先に、道はあるのか!
旅は、おわるのか?!







 天井に頭を打たぬよう細心の注意を払いつつ、その先の暗闇を凝視する。

やった!
まだ、先に空間がある。
少し滑らかな天井が続き、そこには点々と、少なくとも4つの碍子が見えていた。 出口は見えないが、まだ、終わらない!




 ?!


そ、そんな…

そんなあんまりだ。

水没している!

崩落の向こうは、プールだった。
しかも、並みの深さではない。
水深は、1mを超えている。
迂回する手立ては、この狭い隧道内にありえない。

くやしい!
悔しすぎる!

 だが、
 …これで、終わりだった…。



 ここが、2003年10月末現在、私が到達しえた森吉森林鉄道最奥の地である。

第4隧道、南坑門より約50m地点。
森吉ダム手前のガーダー橋の入り口からは、軌道上の距離約4000m。
この先に存在が予想される軌道の延長は、本線のみでも10000m以上。

この数字が物語ることは、敗北なのか。


残念だが、森吉側からの探索は終点を迎えた。
いや、まだ進める可能性は残されているが、明かりのない地底湖を泳ぐことは私には出来ないし、泳ぐ以外に先へと進む手段を用意していなかった。
現在考えている、“次の手”だが、もちろん、粒様沢側からのアプローチが第一である。
多分、次回探索は、この方向でチャレンジするはずだ。
そして、第二の手としては、この地底湖の突破である。
もちろん、泳ぐわけではない(泳ぐ気があるのなら、今泳ぐ)。
折りたたみの出来るゴムボートを持ち込んで…、と言うプランなのだが…一人では実行不可能である。
協力者が必要だ、もちろんボートも。

この地点を突破するあなたのアイディアを募集する。
よろしくお願いします。


まだ見ぬ出口は、果たしてこの先にあるのだろうか?!



 振り返ると、まだそんなに遠くない場所に、入ってきた“出口”が見えていた。

第4隧道内で、撤収かー…。
まさか、一度で完全攻略できるとは考えていなかったが、ここまで順調だったし、収穫も多かっただけに、入洞僅かな距離での撤収は、本当に悔しい。
もっと、奥まで行ってみたかった!

この隧道を含め、手持ちの地図はみな小縮尺のため、どの隧道が地図上の隧道のどれに該当するのかが分からない。
だが、位置的には、本隧道こそ、湖畔に抜ける隧道そのものである可能性は高い。
出口のすぐ足元に、青々と水を湛えた太平湖が広がる。
いつの日か、見てみたいものだ。
また、この隧道の延長だが、少なくとも100mはあるだろうが、不明だ。
もし、これが地図に描かれた一本目の隧道だとすると、その延長は優に500mを超えるとも思われる。

後ろ髪を引かれる想いで、隧道を引き返す。
そして、脱出。

帰還 しばしの別れ
13:29

 ブル道を、下ってみる。
使われなくなって久しいらしく、深かったはずの轍も風化している。
30%を超えるような急傾斜で、伐採地から深い森へと、急降下。
この僅か数時間で一帯を知り尽くしたわけもないのだが、このブル道が地点に続いているであろう事には、なぜか確信があった。



 案の定、ものの3分ほどで、地点に脱出できた。
これにより、次回以降の経路の大幅なショートカットが可能になった。
というか、如何に森林軌道が自動車道(作業道)に対し、小回りが利かずに不利であったのかを痛烈に感じた。
こうした一般論を生で体験できると言うのも、実際に山を歩き、現地を探索することの、かけがえのない収穫だったりもする。

写真の地点で合流するので、ここを右に行く。
右はおぞましい藪であり、ここから来た者でなければ、よもや入って行こうとは思わないだろうが…。

 13時38分、入山地点であるガーダー橋まで戻った。
入山時間は90分ほどだったが、もっと長い間探険していた気がする。
それだけ、色々な景色を見たと言うことだ。
正味4kmほどの軌道跡を確認、道中4本の隧道を発見、うち3本は攻略することが出来た。
初回の収穫としては、十分と言って差し支えないだろう。

いよいよ本レポートも最後になった。
だが、森吉森林鉄道の、特にこの太平湖畔については、今後必ず再調査を実施する。
今回は、哀れにも敗退となったが、リベンジに期待してほしい。




 県道309号線より俯瞰する太平湖。
左奥の高い山は八幡平方向だ。

この湖畔には、まだ見ぬ長大隧道が眠る。

さらに、軌道最大の遺構である、湖にかかる長大橋も、確かにそこにある。

私がその全容を解明できる日は、来るだろうか…。





 付録 探索地図






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