早川町新倉集落の“2トン制限一方通行路” 前編

公開日 2012.08.15
探索日 2011.01.02

今回は、私が山チャリの最中に偶然見つけた、とても印象深い道 をご覧頂こう。


所在地は、南アルプスに深く抱かれた、山梨県早川町。

そのほぼ中央にある 新倉(あらくら)集落 である。

新倉集落について、『角川日本地名大辞典山梨県編』は、集落人口470人(昭和54年)で「町内で最大の集落としており、町役場がある薬袋(みない)集落などを差し置いて町内随一の都邑を形成していた事が伺える。(ただし、同書の刊行は昭和59年であり、現在も「町内最大」であるかは不明)

早川町といえば、以前に角瀬トンネル旧道を紹介しているが、あそこから早川沿いに12kmほど奥地へ入った所に新倉集落は位置している。




カシミール3Dを使って新倉集落周辺の鳥瞰図を表示した。
南アルプスのイメージに恥じない、峻険な山々に取り囲まれている事が一目で見て取れる。

集落があるのは早川沿いの低地で、その標高は500m前後である。
対して周辺の山上は、この図の範囲内でも1200mくらいある。



で、今回の表題である“2トン制限一方通行路”というのは私の勝手な命名で、正式には早川町道のひとつである。
しかし、地形図には描かれていない。

新倉には既に2本の道が南北を縦貫して描かれている。
早川沿いの県道37号南アルプス公園線(愛称「南アルプス街道」)の現道と、集落内を通る旧県道である。

そして、地図には描かれていない「町道」は、集落北側の「矢印」のあたりに始まり、集落の東寄りを貫通して南側へと抜ける経路であった。

2本の県道(新道と旧道)が平坦地を通っているのに対して、「町道」は山の斜面を通る。
しかし、そこはただの山ではなく、家屋がたくさん描かれている。
しかもその密度は平坦な部分に劣る事が無い。

あなたなら、
ここにどのような集落道の姿を想像されるだろうか。

実際の風景を、ご覧頂こう。



“2トン制限一方通行路”


2011/1/2 15:28 《現在地》

新倉集落の北端、中之島トンネルを背負う位置に、この分岐地点がある。

冒頭にも書いたとおり、私がこの道を探索したのは、偶然であった。
事前情報もなければ、地図にない道の存在を予め計画に組み込むわけがないのである。
私はここで偶然にこの道の入口を見つけ、そしてそのまま素通りすることなく、“入った”。

なぜ入ったのか。

この入口に、ただならぬ雰囲気を醸しだすものがあったからだ。
それが誘い込んだ。




“これら”が、本編表題の由来である。

2t車以上は通行できません。早川町

「一方通行」 の標識。

この“2点”が、苔と蔓が茂る素掘の法面に、「地味〜」な感じで、取り付けられていた。
一見して飛びつくようなインパクトがあるわけではないが、この組合せはただならぬ道の気配を匂わせていた。

…ところで、「一方通行」の標識に「軽車両を除く」などの補助標識がないので、自転車でも逆走すれば道路交通法違反に問われる危険がある。




予想通り、道は急坂であった。
そして、そこを登り始めるとまもなく、路肩の下に不気味な蠢きを見せる真っ青な水面が現れた。

その正体は、人間による“川”の略奪だった。

ここは、上流の早川第3発電所と下流の早川発電所を結ぶ長大な水路隧道が地表に現れたものであり、調整池である。

早川沿いの電力開発は、大正時代に早川流域の大半の集落を巻き込んで行われ、新倉の第3発電所は大正14年に完成した。
この工事が新倉集落へ与えた影響は大きく、『角川歴史地名大辞典』によると、「集落は最初山裾部分に集中していたが、大正期に始められた発電所建設工事によって早川に沿った地点に集落が発達。次第に街村型集落を形成した」というのである。

そんな新倉集落は、この道の先にある。




15:29 《現在地》

ひーこらひーこら、カメさんの速度で自転車を漕ぎ上げていくと、その坂の上に小さな闇の部分が見えてきた。

そこは覆いによって空を塞いでいるのであって、さらに背後にコンクリートの壁を背負っていた。

この組合せ、よく見るパターンである。

トンネルの坑口と、それに連続するスノーシェッド(或いはロックシェッド)という組合せにそっくりだ。

しかし、それが“見間違い”だったと気づくのには、時間を要さなかった。 だって…。




それは 砂防ダム に突っ込んでいたのだから!


こんな奇妙な組合せ、初めて見る!

それでは、このロックシェッドに似た架け屋根されたコンクリート路盤の正体は、何なのか。




ガレージ

…なんだろうな。

……たぶん。

ちょうど車1台を収納する大きさがあるし、頑丈そうで、使い心地は悪くなさそうである。




しかし、私には疑問がある。


どうして、こんな場所にガレージ(だけ)があるのか? という真っ当な疑問。



……思えば、これは前兆だった。



「2トン制限」の理由はまだ分からないが、「一方通行路」になっていた理由は既に判明したといえる。

ここまで入口から150mくらいの上り坂には、例の“ガレージ”を除いて一切離合出来る余地が無かったのだ。
集落の出入りに毎日それなりの数の車が往来しているはずであるから、一方通行というルールは必要そうだ。




で、そこからさらに50mほど急坂の狭路を上っていくと、カーブの先に“ひょっこり”という感じで民家が見えてきた。

いよいよ新倉集落に立ち入るようであるが、この石垣によって屈折した部分を曲がって先が見えた瞬間、私はギョッとなった。




狭いッ!
今までと比較しても段違い!

あなたはこのカーブに、大切なマイカーで入り込む気になるだろうか?

おそらく、初めて来るドライバーの中には、ここで怖じけ付く人も大勢いるのだろう。
そういう人への配慮でもなかろうが、車を転回させられるだけのスペースが用意されていた。

まあ、一方通行だから戻れないんだけどな……(ニヤリ)。

気の毒な一般ドライバーがこれ以上犠牲にならないために、あの入口に本当にあるべきなのは、「2t制限」ではなくて1.6mくらいの幅員制限だという気がする…。
それより幅の小さな車で2t制限に抵触する事は無いだろうし。

それと、この路肩の大きなスギの木は見たところ完全に周囲の地表をコンクリートで塗り込められているのに、よく枯れていない。




さて、私は自分が自転車なのを良いことに、

ニヤつきながら、先へ進んでみると…。




やっぱり狭い!!

路上から手を伸ばすだけで、沿道にあるお宅の浴室やW.Cの扉を開けてしまえる。

さらにそのすぐ先では、三角屋根が道路脇に同じ高さで並んでいるという奇妙な光景もある。

この三次元殺法的かつ日暮れの似合う雰囲気は、ちょっと【ラピュタの鉱山街】(by 天空の城ラピュタ)っぽい。


「一方通行」なので絶対に通り抜け出来るのは分かるけど、それでも(だからこそ?)ドキドキしちゃうよー!