道路レポート 北海道道1045号千歳白老線 第1回

所在地 北海道白老町
探索日 2023.10.31
公開日 2024.07.18

《周辺地図(マピオン)》

胆振地方の中央部、太平洋の直線的な砂浜に面した白老(しらおい)町は、内外に支笏カルデラや倶多楽(くったら)カルデラなどの活火山を有する温泉の町であるとともに、先住民族であるアイヌ人と和人の共生を基本政策に据えたアイヌ文化振興の町としても知られている。

今回の探索の舞台は、この町にある。




白老町と伊達市を結ぶ唯一の道路である道道86号白老大滝線、通称“四季彩街道”は、町市境であるホロホロ峠周辺の雄大な景観で知られており、大滝で接続する国道276号美笛峠を経由して道内有数の観光地である支笏湖へ至る周遊ルートの一部としても活躍している。

白老町の北部と支笏湖がある千歳市の西部は、地図を見ると長い境界線で接しているが、支笏カルデラの外輪山にあたるこの山域を越える道路は未だ無いため、白老から支笏湖へ行くには上記のようにホロホロ峠と美笛峠を越える大きな迂回を余儀なくされる。

だが、未だ繋がってはいないものの、この間を結ぶ一般道道1045号千歳白老線が認定されていることをご存知だろうか。

同路線のwiki解説ページによると、道道認定は昭和58(1983)年で、全長12.1kmのうち2.3kmが未供用区間というから、あと2km強の区間さえ開通すれば白老と支笏湖が直結するようだ。

昭文社のスーパーマップルデジタルVer.24(SMD24)は、この路線の未供用区間を予定線として描いており、そこから起点の位置を確認できる。起点は千歳市美笛の国道276号栄橋東詰附近のようであるが→(ストビュー:道道1045号線起点位置)→ そこをストリートビューで見ても、あるいは地理院地図を見ても、道道の気配は全くない。道道がどうという以前に、分岐自体見当らない。

どうやら、千歳市側では全く建設は行われていないようだ。

一方で、終点がある白老町森野を見ると、道道86号線から分岐して北上していく道道1045号が、実在の道としてはっきり描かれていた。
これは地理院地図でも同様である。


右の地図を見較べてみて欲しい。
これらは、SMD24と地理院地図で、いずれもごく最近のものだ。

SMD24だと、この道道は白老側の終点からおおよそ10km先の末端までが実在する道路として描かれており、末端はほとんど町市境に迫っている。しかも、約4km地点から末端までは非常に高規格そうな(いかにも最近新設された道道らしい)広幅員で緩やかな線形を持つ道路として描かれているので、典型的な未成道というか建設途上の道路を思わせる。そして、末端から前述した美笛の起点までは約2.3kmの道路計画線が描かれている。

地理院地図だと、やはり白老側終点から約10km先まで都道府県道であることを示す黄色い道が描かれているものの、約4km地点から末端までの道はSMD24とは異なるものとなっている。同じ川に沿ってはいるが、SMD24では現道に並走する旧道のように表現されていた無色の道を道道として描いており、SMD24にあった高規格な現道は全く描いていないのである。

果たして、どちらが正しいのか?

当然そういう疑問が浮かぶわけだが、答えはグーグルマップの航空写真を見ればほとんど一目瞭然で、SMD24にはさも実在する現道のように描かれていた道は、全く、一切、欠片さえも存在しないようだ。

SMDシリーズが描いている道が、存在していない新道(未成道)だったケースはこれまでもあったものの、これほど長距離(約6km!)の非実在道路を描いた場面に遭遇したのは初めてだ。
しかも、2000年に発売されたVer.1でも全く同じように描かれていたので、この誤記は20年間以上も修正されていない!

これを昭文社の怠惰と見るか。
あるいは、昔から噂される、第三者による地図の不正コピーを見抜くための意図的な誤記なのか。
否。
現地探索を終えた私の考えは違う。
ここには昭文社の怠惰も罠も存在せず、もっと単純に、この場所に興味を持って訪問し、そのうえで誤記に気付いた人の数が少ないだけだ。

私にそう思わせる力があった、入っちゃイケナイ片道10kmの行き止まり道道。 危険を感じるその深さを、とくと見よ!



 存在感のない存在感がある道道終点


2023/10/31 6:02 《現在地》

本年3度目の北海道遠征の最終日(7日目)となったこの日、朝一番で、往復20kmを予測する長大な不通道道への挑戦を開始した。
片道10kmある行き止まりの道は、十分に警戒して臨まねばならない規模だ。ましてここには、ヒグマという圧倒的敵対生物の恐怖もある。
航空写真を見る限り、末端まで道自体はあるようだが、実際に訪れた記録がほとんど見つからず、どのくらい大変な行程になるかの予想が付きづらかった。それで、時間を最大限に使うための朝一の挑戦だった。

近くに車を停めた私は、自転車に乗り換えてから、道道86号白老大滝線を少しだけ移動。
写真は、森野地区の広大な開拓地の西端で白老川を渡る、山岳区間の玄関口ともいえる森野橋だ。
チェンジ後の画像は橋の上から下流方向を撮影した。散り際の紅葉がとても鮮やかだ。
間もなく始まる道道1045号は、この川の左岸を下流に向かって延びるが、橋の上から道は見えなかった。



6:03

森野橋を渡り終えたところが、直ちに道道1045号の終点である交差点だ。

確かに、意識して見れば、橋の袂から右に1本の道が分れている。
ただ、案内標識は(大抵の都道府県道にある“卒塔婆標識”も含めて)全くなく、右折レーンとかもないので、本当にただの脇道の雰囲気でしかない。
というか、橋の袂という立地は、良くある旧道の入口を思わせた。

……そんな、存在感の恐ろしく乏しい道道1045号の行先に目を向ければ……

直ちに!



6:04

賑々しく物々しい封鎖ゲートがお出迎え!!!

この道道、なんと最初の一歩さえ踏み込むことを許さない状況になっていた。

約10kmの道道がこの先にあるのに、一般の通行に解放されているのは、ほぼ0メートルという有様。

しかも、わざわざ「この先の道路は人も車も通ることはできません。」と、車輌通行止ではなく全面通行止であることを看板で強調していた。

それだけではない……(↓)



この先の道路は
通行することが出来ません!!

この先の道路は道路法第46条1項の規定により通行を禁止しています。

違反者を見かけた場合は、下記まで連絡をお願いします。

違反して通行した者は、道路法第101条により、「6ヶ月以下の懲役または10万円以下の罰金に処する。」と罰則が定められているので警察署に通報します。

室蘭土木現業所登別出張所
TEL 0143-85-2311

……と、このような大変に恐ろしげな警告文が、でかでかと掲示されている。

設置者の名前だけを変えた同一文言の看板は、道内の他の通行止である道道でも見たことがあるので、フォーマットがあるのだろう。

日本の道路122万キロ大研究』という、道路法と道路の仕組みをテーマにした道路ファンに向けの解説文を執筆している私は、道路法を知らない訳ではない。ここに書かれている【道路法46条】第46条 第1項
道路管理者は、左の各号の一に掲げる場合においては、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限することができる。
一  道路の破損、欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合
二  道路に関する工事のためやむを得ないと認められる場合
や第101条も少しは知っているだけに、ただの脅しではないかもしれないという怖さを感じる。少なくとも、「駐車罰金10万円イタダキマス」とかよりは明確に根拠がある内容だ。
なお、設置者とされる室蘭土木現業所という機関は既に存在せず、現在は北海道胆振総合振興局室蘭建設管理部になっている。確認したところ電話番号は引き継がれているようだ。(別に自己通報したわけじゃないよ)



物々しいゲートには、上記の警告看板の他、大きな通行止の道路標識、通行止の理由と期間を表示する看板(内容は空白)といったカッチリとしたものに加えて、何か手書きの文字がゴチャゴチャと書かれたベニヤ板切れが取り付けられていた。
ベニヤ板きれをよく見ると……「作業車入林中 車を止めないで下さい 白老森林事務所」……と書いてあった。

白老森林事務所は、林野庁北海道森林管理局白老森林事務所という歴とした国の機関だが(昔の北海道営林局白老営林署)、このベニヤ板きれはどうなんだ? 和むを通り越して、ちょっと心配になるわ…笑。
いやまあ、そんなことはどうでも良いのか。



しかしこの道道、なんでこんな厳重に封鎖してあるんだろう。

道路法46条に則った(道路の荒廃を原因とした)封鎖自体は珍しいことでは無いが、歩行者さえ入って欲しくないという厳重さは、この手の明らかに行き止まりでしかない不通道路では少々珍しい。
これが実は支笏湖まで通じていて、無理矢理にゲートを突破してでも通り抜けようとする需要があるなら厳重な封鎖は納得だが、地図上でも航空写真上でも、明らかに行き止まりの道だ。
実は深い意味もなくて、フォーマット通りの看板を設置してあるだけというのが、真相なのかも知れない。

なんて言いながらヨッキれんは立ち入っていったけど、実際に道路管理者から通報があって大ごとになったら、このレポートは削除されるだろうから、それで察してね。ああ、あの看板はガチだったんだって。そうして、オブローダーとして語り継いでいって下さい。あの道だけはヤバイ(別の意味で)と。

あと、なぜか道路情報提供システムにこの通行止は反映されていない。こちらも理由は不明。



6:04 《現在地》

謎に満ちた道道1045号、終点より探索開始!

支笏湖を1度でも見たことがある人なら、まぶたを閉じればきっと思い浮かべることが出来るだろう。壮大で壮麗な【あの眺め】を。

この道道は、そんな支笏湖を目指して10km先まで延びている。

力の及ぶ限り、その結末を見届けたい!!




 禁断領域の一丁目で心細くさせられる


6:04

稀に見る厳しめの文言を持つ通行止看板が取り付けられた封鎖ゲートだが、ゲートの造り自体は北海道標準(なのかは分からないが北海道の道路ゲートは大抵この形の片開きゲート)のそれであった。
また、ゲートの裏側には一切表示物がなく、起点側からここへ到達する人はいないと確信しているようである。



ゲートイン直後の様子。

ひとこと、香ばしい。

もちろん、文字通りの意味ではない。
オブローダーの言う香ばしいは、道から放たれる隠しきれない廃臭を察したときの言葉だ。
ゲートイン直後だが、もうこの時点で、真っ当な道道ではないと理解した。

封鎖されている時点で真っ当ではないと言うつもりはない。封鎖しながら工事をしているとかならいい。それは真っ当だろう。
でも、これはもう明らかに車の出入りが極端に少ないと分かる路面の状態だ。
工事車両や管理車両でさえ滅多に出入りしてないと、封鎖しっぱなしであると、そう分かってしまう。

舗装はされているが、むしろそのせいで余計、降り積もった落葉が道を香ばしくさせていた。
また、古ぼけた警戒標識が半ば笹藪に埋れるように設置されていて、その有様も廃道を思わせた。
こんな怪しい道道でも、かつては利用者の安全を考えたこともあったんだなぁ、と少し感慨深く思ったけれど…。



6:06

これでも舗装路ですよ、一応……。
積もった数年分の落葉が路上で土に変わりつつあった。
道幅だって本当はもっと広いはずだが、両側から笹藪が覆い被さってきて車1台分しか残っていない。
舗装があるだけマシではあるが、先が思いやられる…。なんつっても片道10kmだからな……。

なお、スタート地点(道道としては終点)の標高は約180mで、そこから全体的には支笏カルデラの外輪山越えを目指して登っていく路線であるが、最初の500mくらいだけは逆で、もの凄い勢いで下る。それで30m以上も高度を下げたところが、路線全体の最低地点となっている。
だからなんだと言われると、実はこの最初の下り坂だけは「●●●●●の●●」だった。

って、伏せ字じゃ意味が分からないよね。
私もその答えを知ったのはずっと後の帰り道でのことなんで、今はまだ「変な道だなぁ」という素朴な感想で、ひとつご勘弁。



6:07

最初は下り坂なのでどんどん進む。まるで深みに吸い込まれていくように。

そんな中、突然道幅がめちゃくちゃ広くなって驚かされた。
それは、【ボロボロのコンクリートブロック】が獲得せしめた広さであって、たぶん実際にはどこにでもあるような2車線道路の道幅に過ぎなかったと思うが、今にも笹藪に隠されてしまいそうな道が急に開けた先だったからインパクトがあった。



そしてここにも道路標識を発見した。
それも、旧制の「注意」である。
旧制道路標識としてはおそらく“白看”の次に多く残っているこの「注意」は、昭和25年から46年まで、ずいぶん長い期間にわたって設置が行われた。

そうは言っても、廃止された旧道というわけでもない、むしろこれから開通しようとしているはずの道路に、こんな前時代の忘れ形見みたいな標識があるのは、異様に思えた。
補助標識が喪失しているため、何に「注意」すべきなのかも分からなくなっているし…。
とても開通前の(整備途中の)道の風景とは思えないな……。

(……昭和58年に初めて認定された道道ってwikiにはあったけど、もっと前から警戒標識が立てられるだけの道がここにあったんだな…)



6:10 《現在地》

入口から約500m下り続けて、辿り着いたのがこの場所。

地図には無い分岐があった。

この場所の標高は約150mで、冒頭に森野橋で渡った白老川の谷底に近づいている。
正面奥のさらに一段低い所が川だ。笹藪ではっきりとは見通せないが、音も聞こえる。

で、地図だとこの辺りは一本道だが、はっきりとそれと分かる分岐があった。
しかも、どちらが道なりと言えるのかの判断に苦しむ。
だが、直前のカーブと繋げてみると、右の道の方が正面進路のように思う。



これが、直前の線形を考えると直進っぽく見える、分岐右寄りの道の様子。
舗装はされているが、明らかに廃道っぽい先細り感がある。そして地図にも描かれていない。
どんな由来の道なのか気になるが、せっかく早くに出て来たんだから、今は道道の攻略に専念しよう。(帰りにチェックしよう)



で、こちらが正しい道道の順路である、分岐左の道なんですが。

なんと、 ここから未舗装であります!

早いなぁ。 思っていたより全然舗装の尽きるタイミングが早かった。

航空写真や地図上で確認できる末端まで、あと9.5kmくらいある……。 遠いなぁ。



6:12

分岐を過ぎると道は未舗装に。
それと同時に、下りも尽きてほぼ平坦な道に。
右手は白老川で、20mくらい下の広い谷底を流れている。

未舗装化、直ちに激藪みたいな展開ではなく、ちょっと安堵したのも束の間、谷沿いの路面が流入した土砂でこんもりと盛り上がっている場面に遭遇した。入口から700m附近だ。

この状況でも無理矢理通れる車はあるだろうが、普通はここで引き返してしまうだろう。
そもそも例のゲートの奥だから一般車両が来ることはないのだが、いわゆる関係車両であっても、ここを通り越して奥地の整備をしているのかって話で……。
ますます奥地の状況が心配になる。
入口が塞がれているのは探索前から知っていたが、奥地がどうなっているかはマジで情報がなかったからな。

粛々と乗り越えて進む。



6:15

今はちょうど上ってきた朝日に向かって走るタイミングになっていて、とっても眩しい。
さっきまではひたすら陰鬱な雰囲気に満ちていたこの道も、ようやく少し前向きになれそうか? なれるといいな。

ここは道幅も少し広く感じるが、そうは言っても整備レベルはたかが知れている。
路体を補強するコンクリート擁壁はほとんどないし、デリニエータのような都道府県レベルには最低限度ありそうな交通安全施設も見当らない。道路標識も「危険」以降はない。
道道だが、林道みたいな道という印象だ。というか、元々は林道だった区間なんじゃないかな。

チェンジ後の画像は、路肩から見下ろした白老川の広い谷底だ。
この川との並走は間もなく終わる。



6:19 

少しだけ登り坂になって、川から遠ざかる。
登り切ったところはちょっとした広場になっていて、周囲は踏み込んだら方角が分からなくなりそうな笹藪だった。
そこは白老川の本流と、その支流であるポンベツ川を分ける尾根だった。
両川の合流地点の少しだけ上流で、ポンベツ川の谷に入っていく。
ここから少しだけ、また下り坂。



6:21 《現在地》

入口から1.6km地点、自転車で約17分で、地図にも描かれている分岐地点に到達。
直進する道と右折する道があるが、直進は国有林林道の深沢林道で、道道はここを右折する。
が、こんな林道同然の道である。

案内標識なんてあるはずも




あった?!

こんなところに、北海道標準スタイルの立派な道道標識が立っていた!!

が、せっかく出て来てくれたこれを、私は心底から気持ちわりぃと思ってしまった。
見ようによっては美しいのかこれ? 
いや、やっぱ気持ち悪いだろ……。

見慣れた道路標識というのは、見慣れたような場面にあるから安心するんであって、こんな人の匂いのしない道に突然設置されていても異様でしかなかった。
なんというか、人類だけがいなくなった世界に間違って来てしまったみたいな不穏さが、この光景にはあった。

それに、この標識を自力で見た人間は、全員が懲役or罰金の敷居を踏越えているわけで、なんとも業の深い標識だ…。

路上の白いゴミみたいに見えるのは、裏返しのカシワか何かの枯葉だ。
なんかカーブの向こうから今にもヒグマが現れそうな風景で、落ち着かない。
周囲のずっと遠くまで見通せる笹藪に動く黒い物がないかを、ずっと気にしてしまう。

こっからまだあと8km以上もあると思うと、心細くなるなぁ〜。




しばしのあいだ、おさらばです。

この先は深みであると、そんな予感がヒシヒシと、した。






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