今回探索した林道鹿曲川線は、長野県の東信地方南部、八ヶ岳連峰の北端をなす蓼科(たてしな)山の北側山中にある、全長約10kmの民有林林道である。
路線名通り、千曲川支流の鹿曲(かくま)川に沿う渓谷の道で、全線が佐久市(旧望月町)に属す。
中山道の古い宿町で旧町の役場所在地だった望月から、長野県道151号湯沢望月線を終点の春日温泉まで約8.5km、そこから市道約2.5kmを介して本林道がスタートし、約10kmを上りきった先に「仙境都市」なる妙に格好いい地名が、手元のスーパーマップルデジタル(ver.16)には書かれているのである。
右の図は最新の地理院地図から本林道の南側半分、「仙境都市」の周辺を切り出したものである。
なぜか地理院地図には仙境都市という名は出ておらず、同じ辺りに「富貴の平」の地名があるが、本編では呼称を「仙境都市」に統一して進める。
仙境“都市”と言うだけあって、かなり多くの建造物が緩やかな尾根の一帯に描かれているのが分かる。
特筆すべきはその高度で、これらの建物が描かれている範囲は、低い所でも海抜1800mを数え、高い所はなんと2000mを越えている。
日本の屋根といわれる信州の土地の高さを、他の地方と同様に語る事は出来ないが(麓の望月地区中心部でさえ海抜700m近い)、それでも佐久市にある他のどの集落(「都市」?)よりも圧倒的に高高度で、しかも山中に遠く孤立している。おそらく日本中で「都市」と名付けられたものの中で最も高高度にあるのが、この仙境都市だろう。
お住まいの方には大変申し訳ないが、私がこの土地を地図で見つけた時の第一印象は、アルカトラズ島(監獄島)だった。
なにせ、私にとって標高1800mといえば“あの”塩那道路の最高地点という印象が強く、ちょっとやそっとでは近付けない高さという感覚がある。
そんな高さよりもさらに上にある、「都市」を名乗るものの存在が、私には大変興味深かった。「遙かなる林道の奥地に“天空の都市”は実在した!」なんていう大文字のテロップが脳内に明滅した。
これが仮に(そして高確率に)、どこかの資産家が酔狂で名付けた別荘地であったとしても、自分の足で辿り着いてみたいと思った。
しかも、そこへ至る 「林道鹿曲川線」 には、疑惑がある。
廃道ではないかという疑惑が!
佐久市公式サイトより転載。
この画像は、佐久市公式サイトが2015年2月2日付けで掲載した「林道鹿曲川線通行止めのご案内」のスクリーンショットである。
文字通り、林道鹿曲川線の通行止めを告知する内容で、その理由を「法面の崩落や落石等
」としている。
ごく最近に掲載された記事なので、廃道云々というわけではなく、単なる一過性の道路災害の記事と思う向きもあるだろうが、下の方の「通行止期間」に注目していただきたい。
「平成21年10月19日(月曜)〜
」とある。
平成21(2009)年といえば、もう5年以上前のこと。
それからずっと通行止めが続いているとしたら、相当酷い災害に見舞われて、復旧に手間取っているのか?
或いは、
復旧をもう諦めてしまったのかも…。
……匂いますねぇ。
それだけではない! 「林道鹿曲川線」 には、興味深い過去もある。
有料道路だったという過去が!
左図は、自宅に私が子供の頃からある道路地図帳のうちの一冊『グランプリ10万分の1中部道路地図』(昭和63(1988)年/昭文社)の一部である。
同年代以上の人にはきっと懐かしいと感じてもらえる配色のうち、ひときわ目立つ青色の道は有料道路を表しているのだが、「鹿曲川林道」がはっきり有料道路として描かれている!
(なお、黄色い路線は「県道など」を示しており、必ずしも県道を意味しない)
合わせて巻末にある有料道路の料金一覧表を見ると、「普通400円、大型600円、大特1200円、自動二輪150円、原付150円
」という通行料金設定がなされていたようだ。
他にもこの地図からは分かる事がある。
例えばこの当時は、現在「蓼科スカイライン」と総称される立科町の女神湖から大河原峠や仙境都市を経て佐久市の野沢へ下る林道(林道大河原線)のうち、女神湖から大河原峠へ至る区間の一部が「夢の平林道」という名前の有料道路であったということ(ここも現在は無料)や、仙境都市以東がまだ開通しておらず、そのために鹿曲川林道(林道鹿曲川線)が夢の平林道と一体となって、現在の蓼科スカイラインの果たしている役割を担っていたであろうことなどだ。
平成になる頃まで、日本各地の有名な山岳観光地の近辺には、有料の林道が結構あった。それらは道路法に基づくものでは無く、森林法に基づいた一種の林業施設でしかない林道の管理方法として監理者が独自に料金を徴収していたものだから、道路法に基づく一般の有料道路に較べれば設置が(おそらく)容易かったのだろう。それで各地にこうした有料林道がやや乱立気味に出来たのではないかと思っている。
…と、少し話が脱線してしまった。ともかく今回探索する林道には、有料道路であった時期があるというお話しだ。これも中々に興味をそそる事象じゃないか。
先ほど挙げた佐久市サイトに掲載されていた「位置図(pdf)」から、林道の起点と終点の位置および、現在通行止めになっている範囲が判明。
全長約12kmの林道のうち、南側半分の約6.5kmが通行止め区間とのことである。
この情報を手元の地図に落とし込んだのが、左図だ。
現在は廃道かもしれない、かつては有料の観光林道だった道。
それがこの林道鹿曲川線である。
久々に私の中での伝統的“山チャリ”が楽しめそうな予感がした。わくわく。
そんな私の探索のプランだが、県道の終点である春日温泉までは自動車で行き、そこから自転車を出動させることにした。
自転車で、林道鹿曲川線の起点から終点に向けて標高差900mを走破する。目指すは海抜1800mオーバーの仙境都市というわけだ。
この高低差は、過去の経験と照らしてもかなりのもので、仮に廃道がなかったとしても、かなり汗を絞られるはずである。それだけに、涼しい時期の探索を要求したい。
また、仙境都市に到達した後で同じ道を戻るのは芸が無いので、さらにもう一頑張りして、蓼科スカイラインの最高所である大河原峠(海抜2080m)を目指す事にしよう。
恐らくここまで登れば、自身が自転車で辿り着いた最高高度記録の更新というオマケも付いてくる。(従来の記録を正確に把握していないが…また、この執筆時点ではさらに更新済み)
その後は唐沢沿いの林道唐沢線を経由してスタート地点に戻れば良いだろうと考えた。
以上で前説終わり。 遙かなる大河原峠を目指して、いざ、出発にゃん!!