道路レポート  奥産道 太田沢内線 最終回
2005.2.1


 終点の、その奥…
2004.9.15 9:34


 起点から約7km地点が、奥産道の秋田県側の終点である。
この先に工事が進められた様子はなく、幅2車線分の立派過ぎる砂利道は、広場で突然途切れている。

起点から1.3km地点に、早期の復旧は絶望的と思われる大崩壊があるこの奥産道跡。
終点の広場にも、新しい轍は、全く見られない。
広場を取り囲むガードレールは、まだ真新しいように見える。
それもそのはず、ほんの7年ほど前までは、まだ延伸の工事が行われていたのだ。

私は、広場にチャリを置き、辺りを観察した。



 その終点に、ただ一つだけ立っているのが、この標柱である。
そこには、川口鉱山跡という地名と共に、その沿革などが四面それぞれに描かれている。

志半ばにして斃れた奥産道の終着地となった川口鉱山跡とは、標柱の説明文によれば、以下のような鉱山であった…。

遠く徳川時代に創業、後、佐竹藩の経営となり、その業績大いに見るべきものがあった。道品位の優良さは一般に知られ、一次は県内重要鉱山足るべく嘱望されたのであるが、第一次世界大戦後財界不況の余波を受け一次休山、昭和十五年四月現鉱床に逢着し、同十六年十二月より採鉱に着手したが、昭和三十年に閉山。

銅・硫化鉄 黒鉱鉱床。

この山中の鉱山へ至る道が、始め人夫の列を成す崖の道、そして僅か一冬で廃道となったトラック道(昭和24年)から、鉄索(昭和25年)へと移ってきたことは、道中に知った。
廃鉱後40年近くを経て奥産道という車道が通じたが、それも束の間、工事はここで中断され、そのまま再度廃道となりつつある、それが今の姿だ。


 この標柱は、平成15年4月 太田町 と、それ自体に記されていた。

奥産道としての事業の中止が決まったのが平成10年であるから、延伸の希望が無くなって随分経ってから、この標柱が立ったことになる。
現在は、町道横沢・バナ沢線という新しい名前も与えられ、太田町の管理する道なのだが、町はどんな想いで道路敷きになるはずだった場所に、この柱を立てたのだろうか。
単に、目的のない失敗事業だと突っ込まれるのを避けるために、終点としての意義を強調したかったのか?
それとも、失われた鉱山への愛着が、この道によって再び励起されたのか?

後者であれば、どんなにか幸せかと思ってしまう。
確かに、事業開始から20年近くも掛かって辿り着いたのが、なにもない原野だというのでは、悲しすぎるではないか。


 終点のガードレールを乗り越えて、人一人が歩けるくらいの踏み跡が残っていた。
それがなんなのか、想像が付かなかったが、折角だから、踏み込んでみることに。

道路敷きのすぐ先は、澄んだ小川が流れており、先にも刈り払われた跡の潅木林がほんの20mほど続いていた。
さらに続く踏み跡は、鬱蒼としたブナの林に消えていく。





 ブナの林の地形は複雑で、踏み跡も小さな沢地に降りていくところには、トラ縞のロープが付けられていた。
まるで、登山道のような雰囲気だが、そう言った案内は全くないし、地図にもそう言う表示はない。
ただ、ここがかつての鉱山跡だというのなら、その時代には鉱山跡を通り、峠を越えて沢内に至る道があった。

もっとも、その道は現在の地形図でも点線として存在しているが、車道として利用されない道だったことに間違いはないだろう。
そしてその点線の道、人の背を借り鉱山の物資が輸送されただろう道が、この奥産道計画のモチーフになったことは、想像に難くない。

無名の峠まで、もう2kmも無いはずだが、果たしてこれがその道なのだろうか?



 小さな沢を渡って、ぬかるんだ斜面を這うように上り詰めると、景色は一変した。

青々と茂る緑の中に、赤茶けた岩石も顕わで貧弱な草しか生えぬ一画。

堅く締まった茶色の地面には、人工的な木枠で囲われた浅いプールが二つ、よどんだ水を湛えている。
高さ3m程度の小規模なズリ山と思われるものが、プールの奥にあって、ここが鉱山の跡であることを私に教えてくれた。

車道の終点から、距離にして僅か50m。
しかし、森に阻まれ車道からは決して見えなかった鉱山跡。
それが、今私の前に現れた。

謎に包まれた、古き鉱山。



 川口鉱山。
黒鉱と呼ばれる、高品位な銅鉱石を産出したが、如何せん僻地故に十分な採算を得られなかった悲運の鉱山である。
麓の集落から沢沿いに7kmといえば容易に聞こえるが、その7kmは、これまでに見てきた通り、現代規格の車道であっても難儀する崖谷であった。
幾多の橋を架け、頭上遙かに崖を固め、やっと通じた道である。

最盛期にどの程度の規模で採掘されていたのか、どのような設備があったのかなど、不明な点が多いものの、確かにこの地で鉱石を産していたことは間違いないことである。
踏み跡もまた、この荒れ地でぷっつりと、消えてしまった。
もう、この先に進む道はないようだ。




 キノコの里で冷や汗
2004.9.15 9:40


 ズリ山の背後は、再び森であったが、そこには確かに道があったような凹凸が見られた。

それは、極めて不鮮明ながら、大きな木がない部分が帯状に続くという特徴を持って、道と考えることが出来た。
どこからどこへと通じている道の途中にぶつかったのか分からないが、まずは峠の方向へと、歩いてみることにした。

道の痕跡の幅は2m程度。
轍のようなものは残っておらず、鉱山の構内道路だったのか、はたまた地図上に記された峠越道の跡なのかも、分からない。
ただただ、猛烈なブッシュである。
1m進むのに10秒以上掛かる密度だ。

汗汁だくだくになりながらも、引き返す口実を見つけたくて、なお突き進む。
何とかしてくれー。



 道の痕跡と思われる藪を数分進むと、沼に出た。

下流側に築堤と思われる不自然な斜面があり、自然発生的な沼とは思えないが、辺りは自然に還りすぎており、何とも言えないのが本当のところだ。
鉱山と言うことであれば、鉱滓池があるのが普通なので、この沼がそうなのかも知れない。
或いは、坑道から湧き出す地下水が溜まった沼という可能性もあり、胸躍る廃鉱が近いのかも知れないと期待した。

しかし、結論から言えば、廃鉱は発見できなかった。
四方共に道など無い猛烈な藪であり、下手に動き回ると遭難する危険性を感じていた。
そして、夏場であることから全く視界が利かず、小さな穴などを探せる見込みは薄いと考えられ、はっきり言って捜索意欲が萎えてしまった。

近道で帰ろうと思い、来た藪とは別の方向の藪に入った。




 確かにここには人の営みがあったのだろう。

藪に取り残されたドラム缶たちが、戻ることのない主を待っているかのよう。

身を屈めて前に進むと、失われたものが現れてくる。

しかし、深入りは禁物だと、私の勘が叫んでいた。



 見たことのない、怪しくも艶めかしいオレンジのキノコ。

1m四方ほどの狭いスペースに、幾つも枯葉から突きだして生えていた。
燃え上がる炎か、或いは揺らめく亡霊の手のよう。
まるで、オイデオイデをしているかのような…。

別に怖がらせたいわけではなくてですね、
この「ユラユラとオイデオイデをする手」というのは、私のトラウマでしてですね…。
思わず思い出してしまったのですな。
真夏の、植物達が絶叫しているかのような樹海の中で、私は暫し見入ってしまった。
その、異様な様に。

何かを伝えるために、こんな毒々しい色で…私に見つけられているのか?

そんな風にさえ、思った。




 どうやら、道の痕跡は鉱山跡を南北に縦断するようにして通っていたようだ。
だとすれば、やはりこれが峠越えの道である可能性が高いが、沼より上流はどうなっているのか分からず(沼によって見失った)、また下流側もすぐにススキに遮られ進めなくなった。

しかし、その辿れた部分の一部には、微かだが、4輪車の轍ともとれる凹みがあるような感じもする。
鉱山道路の名残なのかも知れない。

全く人の気配のない山中に、道の痕跡があるというのは、異様なものである。



 それに、この森はよく見ると、キノコ達の宝庫だった。

木の陰、落ち葉の隙間、沼の縁、至る所に、色々なキノコ達がいた。

私にはどれも得体の知れぬキノコ。

食えるものもあれば、私を死に至らしめるものもあるのだろう。

キノコ達の楽園をひとしきり探索し、愛でた後、

森を出て、チャリの元へと戻った。
明るい砂利の上に出ると、ホッとした。



 だが、私は凍った。

いざ愛車に跨ってみると、何かズボンが軽い気がする。

 アワワワワワワ…!

    ケータイがない!!

私のケータイは、唯一自慢できる品で、ドコモでは唯一の防水性のあるケータイなのである。
ネットオークションで大金を積んで(ちょっと大げさ)ゲットしたお気に入りの品なのである。
それを亡くすことは、かけがえのない朋を失うにも等しいことである。


私は、青い顔をして、また森に舞い戻った。



十数分後、半分涙目の私は、なにげに木にぶら下がっているケータイを見つた…。

そして、そこは、
オイデオイデのキノコがあった、その真上だった…。




逃げるようにして、 私は帰った。
















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