この県道には問題がある!
“新潟県道71号小千谷川口大和線”は、新潟県中越地方の山あいを縫うように通じている全長約36kmの主要地方道だが、自動車で起点から終点まで通して利用することは出来ない。その問題がある経路を、右図を使って紹介しよう。
起点は小千谷市小栗山の国道291号上にあり、そこから東山丘陵に点在するいくつかの集落を経由しながら魚野川に面した長岡市川口(旧川口町)で国道17号に出るまでが序盤戦だ。続いて川口橋で対岸へ渡って魚沼丘陵へ分け入り、小さな峠を越えて魚沼市(旧堀之内町)内で国道252号にぶつかるまでが中盤戦となる。さらにすぐまた山へ入り、大きな峠を越えて魚野川上流の南魚沼市(旧大和町)浦佐で国道17号に再会して終点を迎えるまでが終盤戦である。
この県道が抱える最大の問題は、上記の“序盤戦”、“中盤戦”、“終盤戦”の全ての区間に一つずつ、自動車の通れない区間が存在することだ。
一本の県道が抱える未開通区間の数は1つもないのが正常で、2つもあるのは珍しく、今回のように3つ以上になると相当稀だ。
こんなにブツブツ途切れていたら、1本の県道という路線のアイデンティティを獲得することは難しく、それゆえか、地図上に見える長さに対して圧倒的に存在感の乏しい県道だと感じる。もちろん、長い経路の途中には、それなりに活躍している区間もあるのだが、多分その区間を利用しているドライバーの誰一人として起点も終点を知らないだろうと思ってしまう。
右の地図を見れば明らかな通り、この路線を起点から終点まで通して利用したいという需要は、既に別の経路によって大方満たされてしまっている。すなわち、起点付近と終点付近を結ぶ経路として、信濃川および魚野川に沿って通じる国道17号と関越自動車道が既にある。もちろん、県道71号が非の打ち所がない道路として開通すれば、国道17号から転換される交通があるだろうし、あるいはそういうことを期待して県はこの長い県道を設定した(そして国は主要地方道に指定した)のかもしれないが、現状は繋がってなさ過ぎて、とても国道の迂回路にはなり得ない。
私は、このダメな主要地方道の全線を走破ないし踏破する用意があるが、いきなり全部を紹介すると長くなりすぎるうえ、景色も全体的に似ているのできっと飽きられてしまう。
なので今回のレポートでは、3つある未開通区間のうち最も起点に近い“序盤戦”の区間を採り上げることにする。
序盤戦は、起点の小千谷市小栗山から、長岡市の飛び地にある川口地区の川口橋で魚野川を渡るまでの約17km(距離的には全長の半分近い長い区間)であり、右図はその地図だ。
概ね北から南へ東山丘陵を横断する経路ではあるが、細かな曲折が多く、他の県道や市道との分岐も沢山ある。そしてアップダウンが忙しい。
途中に、蘭木トンネル、塩谷トンネル、木沢トンネルという3本のトンネルがあるが、これらは全て別の峠の頂上に掘られている。
この地図上でも妙な存在感を示している、川口市街地での地形を無視した激しい迂回など、いかにも県道として管理される道路を少しでも増やしたいという地元自治体の恣意を感じる部分もある。
前述した、頂上にトンネルを持つの3つの峠越えのうち、未開通区間に絡んでくるのが、起点の小栗山から蘭木トンネルに至る区間だ。
そこに今回紹介する未開通区間がある。
未開通区間の周辺をさらに拡大した地図を、次にご覧いただく(↓)。
左上に見える起点の小栗山を出発した県道は、激しい九十九折りを描いて一気に200mの高低差を駆け上がる。
そして「若宮山(海抜333m)」を頂とする南北方向に延びる稜線へ取り付く。
同山の山頂を掠めるように尾根沿いを南下し、徐々に高度を下げながら蘭木トンネルの上にある峠に達すると、また九十九折りで蘭木集落へ下る。
ここまで約4.6kmの経路である。
(←)道路地図大手の昭文社が市販している『スーパーマップルデジタル』の最新版(2023年版)だと、この区間は、狭いながらも車道が開通しているように描かれている。「冬季閉鎖」のマークはあるが、この地図の表現から、実際は車の通り抜けが出来ない区間であることを察知するのは無理だろう。
このことは、道路地図帳としては致命的な誤解を利用者に与えかねない誤った表記だと私は思うが、実は平成12(2000)年に発売された初代の『スーパーマップルデジタル』から、この表記は変化していない。
もしかしたら、23年ものあいだ同社に修正の必要性を認識させるようなクレームが届いていないのかも知れない……(利用者皆無?!)。
チェンジ後の画像は、やはり最新版の地理院地図だ。
こちらも「軽車道」の記号で県道を描いている部分が多いが、若宮山の山頂付近にごく短い(150mほどの)「徒歩道」を意味する点線の区間がある。
したがって、車が通れない区間であることを察知することが出来ると思う。
まあ、短いので、強引に突破出来るかも知れないと期待するドライバーもいるかも知れないが…。
ちなみに、先ほどから「未開通」という表現を何度か使っているが、これは道路法的には特別の意味のある言葉ではない。そもそも、ウィキペディアのこの県道の解説ページに、「この間未開通区間あり」と書いてあるのを見つけて、ここを探索することにしたのだが、道路法的には(おそらく)この区間は「供用済」である。だが、供用されている道路の状態が、とても自動車の通れるものではないことを指して「未開通」と表現したのだと思う。道路法施行規則が定める【自動車交通不能区間】未改良道路(供用を開始している)のうち幅員、曲線半径、勾配その他道路状況により、最大積載量4トンの貨物自動車が通行することができない区間なのだとも思うが、資料がなく確定は出来ていない。
wwwwwwwwwwwwwww大草原wwwこれはヤベー線形だ!
上述した“未開通区間”を抜けると、小千谷市の蘭木(うとぎ)という強烈な難読地名の集落へ降りてくるのだが、
降り終わって、
「ここが蘭木だー」
ってなった瞬間に、
突然150度後ろへ折れて、九十九折りで降りてきたばかりの峠をトンネルで返して荷頃へ出る。
普通にめっちゃ遠回り。
普通に意味が分からない。
普通じゃねえ!!!
おそらく、蘭木トンネルが整備される以前の旧道を一部利用した経路なんだろうけど、誰が見ても明確に遠回りなので、なぜこの経路が県道になっているのか謎である。
なにがなんでも県道を蘭木集落経由にしたかったのか。
……いや、たぶんこれは……。
いろいろな推理が脳裏を過るが、……今はそれよりも、まず現地だ。
現地探索イクゼェー!