道路レポート  
国道343号旧線 鳶ヶ森峠 後編
2004.4.15


峠へ
2004.4.10 15:01


 一つずつ起伏をカーブでかわしながら、次第に高度を上げていく。
杉と、松と、雑木林とが、交互に現れる。
その森と、道とを隔てるものは、なにもない。


 砂利道になってから1.5kmほどで、一段と勾配が増す。
背後には、北上山地のパノラマが広がる。
ここまで、砂利で安定していた路面状況は、ここで遂に悪化。
乗用車では通行が困難と思われるほど、轍が深くなった。



 旧道最難所の写真。

崖地の急斜面で、もともと道幅の狭いところで、山側の轍が深くえぐれている。
ここに嵌らず進むことは、4輪車だと困難だと思われる。
前後に引き返せるようなスペースもなく、何も知らないペーパードライバーが、ここまでの上り坂に辛うじて耐えて登って来れたとしても、完全に行き詰まるだろう。

チャリならば、そんな苦労は他人事であるが、勾配がキツいガレ場は、やはりしんどい。

 本当に厳しい区間は短く、僅か50mほど。
写真の丸太のコーナーを超えれれば、間もなく峠となる。
国道としてどうこうといったレベルではなく、道としてどうよ。
一応現役の道のようではあるが、好き者が通っているだけに過ぎないだろう。
実際、私が通行している時にも一度、RV車とすれ違った。

「あなたも、好きねー。」と思ったが、リンク先サイトには過去乗用車で通行したレポートもある…。

 猿沢から約4km。
大東町と別れを告げ、猊鼻渓と幽玄洞の街東山へ。
しかし、実際の地形的な峠は、ここからもう少しだけ先だった。
この場所には、標準的な町境標識が立っている。
2本の標識は、互いにそっぽを向き、道路幅以上に離れて立っているが、当初はこの道幅として想定していたのだろうか?
他にはなにもない、さっさと通過だな。


 町境から100mほどで、やや深い切り通しにさしかかり、峠と分かる。
この峠は標高250mほどだが、ほんの500mほど北方に、標高323mの鳶ヶ森の頂上はある。
峠にも、特に目を引くものは何もない。

下りが始まる。


デボンの道
15:10


 下りも、道路の様子は猿沢側に大差ない。
唯一違いがあったのは、峠から少し下った場所に写真の、謎の岩屋があったことか。
現在は、崖の窪んだ部分に投棄物が山積しているが、特徴的な岩肌を見せるこの崖に、かつては何があったのだろうか?

「鳶ヶ森」という山名をWWWで検索しても、この国道の話題などは殆ど出てこない。
むしろ、大学の地質研究室などのサイトが多くヒットする。
その理由は、デボン紀という太古の時代に生成された地層が一帯で多く露出しており、これを鳶ヶ森層と称しているためだ。
そういう業界では、結構有名な山のようだが、この露頭との関連性は不明だ。
化石も多く産出するらしい。



 相変わらず、ガードレール一つ無い作りっぱなしの道。
下りということで速度も自ずから増しているが、浮き気味の砂利はグリップ力が無く、2輪車には怖い。
ただ、やや冗長な景色もスリリングな下りともなれば、それなりに快適である。
久々の林道ランのような気分で、快走していく。

林道好きには、オススメできる道だ。



 大東町側以上に松の林が多い。
しかし、秋田県同様松食い虫の被害は甚大なようで、森は薄い印象だ。
松毛虫が大の苦手の私は、夏場はちょっと遠慮したい道でもある。
でも松茸が大好きな私は、秋だったら…。

圧倒的に静かな国道である。
旧道なのだから当然かも知れないが、現役当時も大差なかったのではないだろうか。
路傍のゴミの少なさや轍の全体的な浅さなども、そんな想像を支持する。 まして、この整備状況では。
迂回路はいくらでもあったし。


 しばし下っていくと、崖の下に家並みが見え始める。
これから下っていく先の横沢集落である。
この斜面は急で、すぐそこにある集落まで降りるのに、しばし蛇行を繰り返すこととなる。



横沢
15:19

 ここまで乾いた道という印象だったが、横沢が近づいてきて、再び植林地に道が入ると、ペダルまで届くほどの水たまりも現れた。
これじゃあ、綺麗好きのドライバーはもう、アウトだな。


 さらに下ると、舗装が復活した。
その直後、道は二手に分かれる。
何の標識もないが、ここは素直に舗装されている左へと曲がる。

それで、正解だった。




 民家が、急斜面の合間にちらほらと現れ始める。
全線の中でも、峠付近と、この横沢の集落内が最も急で、カーブミラーなどもほとんど無く、危険だと感じた。
相変わらずの狭さだし。



 ブレーキを開放し一気に下っていけば、あっという間に下山となる。
最後に現れたのは、小さな古ぼかしい橋だ。
猿沢橋で始まった峠は、この日向橋で終わりとなる。


 日向橋は、予想以上に古く4枚とも健在だった扁額によれば昭和3年の架換である。
これ以前は木橋だったと思われ、初代永久橋が今なお現役なのは、やはり峠の冷遇されてきた歴史故かも知れない。
特に意匠が凝らされた訳でもない橋は、無様な鉄パイプの補強を欄干や下部工に受ける、地味な存在である。

これといって感動のない峠だったけど、現在進行中の護岸工事で今にも架け換えられてしまいそうな日向橋だけは、心に残る存在となった。



 鳶ヶ森峠の入り口の控えめな姿。
橋を渡るとすぐにT字路で、左が旧道、右は町道だ。
さらに旧道を200mほど進めば、一般県道289号線にぶつかる。
旧国道は、この県道を右折することでさらに1kmほど水沢方向に続いているが、現道に吸収されて消える。
私はこの後、帰路に就くため、猊鼻渓経由で一ノ関へと向かった。
すなわち、旧道とはここでサヨナラだ。




 日向川の上流には、久々に見る現道の姿。

平成7年までモロ砂利道だった鳶ヶ森峠。
あんな立派な現道が開通して9年を経て、意外なことに、旧道もまだ、殆ど当時の姿のままに現役だった。
意外に、愛されている道なのか、集落間交通のお陰なのか、マニアがいるのか、分からないけど立派な生命力だと思う。






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