道路レポート  
仙岩国道 工事用道路 その3
2004.3.12



板谷工事用道路
2003.11.14 8:43


 今歩いている道は、仙岩道路の工事用道路が秋田側に二本あった内の一本、板谷工事用道路と呼ばれていた道である。
この道は、古い道路地図にも掲載されていたりするが、あくまでも工事用道路であり、一般車は通行できなかったと思われる。
そして現道開通前には放棄された道だ。
現在の状況は、路面は一面の原野となり、法面には落石防止ネットや吹き付けのコンクリートが落ち葉に埋もれ残っている。

徒歩以外での侵入はきわめて困難な状況だ。
この状況は、昭和50年より少し前に廃止された道の姿としては、想像以上に悪い。



 さきほど遠目に見た、そして工事誌にも写真が掲載されていたつづら折りに、差し掛かる。

路面にはもう、道としての痕跡はないが、法面だけが近代的施工の跡を今に伝える。
自然に還りたくとも、まだ当分は還れなそうだ。

国道108号線の鬼首峠に新道路を建設する際には、エコロードといって、環境に優しい道作りをしたことが知られているが、かの道の施工上の注意として、「工事用道路延長の短縮」という項目があったように記憶している。
たしかに、この仙岩の様子を見ると、工事用道路が環境に残した傷跡は、決して小さくない。


 この辺の勾配は非常に厳しい。
つづら折りが垂直に近い斜面を穿って2度続く難所だ。
よくもまあ、この様な急傾斜地に車道を通そうと考えた物だ。
しかも、工事用道路というと、どうでもいいような適当な道という印象を持っていたが、実際は違っていたようである。
なにせ、通常の乗用車などよりも遙かに大重量かつ巨大な工事車両が行き来する道なのだ。
安全な工事のためにはむしろ、一般の道路にも劣らぬ十分な強度設計が必要となる。
そのことは、現在の道の姿からは想像しがたいが。



 道を覆っている物が、ススキやセイタカアワダチソウならば、枯れていればまだ苦労は少ない。
しかし、秋でも青々と茂ったままの笹藪は、最も困難な廃道の植生障害のひとつである。
救われるのは、まだ背丈が胸の辺りまでであること。
これ以上高くなると、不快さが一気に増だけでなく、周囲が見渡せず進路すら危うくなる。
この仙岩峠の一帯は、笹の生長が著しく、比較的低地のこの辺りも、日当たりの良い場所はかなり浸食されている。



 つづら折りをこなすと、すぐに道は二又になる。
この分岐も工事誌の地図には描かれている物で、いずれも同程度の距離で現道に接続しているようだ。
私は、ここを右に進むことにした。

なお、分岐は背丈にも近いススキの原っぱと化しており、予め分岐の存在を知っているか、或いは足元に注意していなければ(←実は足元の側溝がここで二又に分かれる)、気が付けず迷うかもしれない。


 右に向かうと、かつては浅い切り通しだっただろう凹地を経て、さきほどのつづら折りの上部を通る。
工事用道路によって一旦伐採を受けたこの急斜面は、木々の根付きが悪いらしく、ススキを中心とした植生を成す。
道路工事による自然破壊の実態なのかもしれない。
 

 下を通るのは、つづら折りの下段と、さらにその下の段。
沢底の対岸には、田沢湖線の志度内信号場を覆うスノーシェードが目立つ。
地図上では、この工事用道路の結ぶ距離は直線で僅か300mほどだ。
しかし、この間の高低差は100mでは利かない。
如何に急な斜面に工事用道路が挑んでいたかが、お分かり頂けるだろうか。



 まともな路肩など存在しない。
背丈以上のススキの群生から逃れようと端に寄れば、そこには地面がない。

さすがに体中をススキに傷つけられようとも、この崖に寄るのは愚かだと理解できる。

現役当時は、さすがにガードレールぐらいはあったと思われるが、それにしても凄まじい道である。

幅3mたらずの生命線だ。



 崖からは視界を遮る物が無く、生保内川の源流の山並みも見通せる。
そこは、いまだ道の通じていない領域で、和賀山塊の中枢部である。
いまや、白神山地に次ぐ大原生林として保護活動の盛んになりつつある和賀山塊は、とてもじゃないが私などが入れるとは思われない。
白神山地などよりも、さらに交通の便は悪いと言える。

それに、意図したわけじゃないのに、この写真。
なんか、来るなっ!  ってかんじに見えません?

怖いような。



 断崖上部を突破すると、景色は一転、落葉樹の森となる。
殆ど道の痕跡は薄れ、森の地面の微かな凹凸で判断して進む。
若木だが、道の中央に堂々と根を張り成長しているものもある。
しかし、路肩に残された重厚なコンクリートの擁壁は、道の所在を明確に教えてくれた。
急な地形の方が道の痕跡は探しやすい。
辿りやすいかどうかは、また別だが。

大分高度を上げており、そろそろ現道にぶつかる予感。


樹海橋直下
8:56

 約20分間の藪漕ぎの結果、全長500mほどの板谷工事用道路の終点が見えてきた。

頭上に車の音を感じて見上げてみると、そこには意外なほど近くに現道の橋が見えていた。
工事用道路に入る直前には、もはや届きようもないと思うほど遠くに見えた現道が、すぐ傍にある。
道が使命を果たし、私を運んだのだ。

断崖に消えざる痕跡を見つけ、私はそれに従いここに来た。

既に人々の記憶からも消えた道に、最後かもしれない足跡を、刻んだ。




 工事用道路の末端は道としての使命を全うできていなかった。

なんと、現道の樹海橋の直下で唐突に終わっており、頭上の橋桁に登る術など無い。
少なくとも、道としては確実に未接続だ。
工事が進捗する途中には、すでに放棄されていたのだ。

チャリでここまで来ていたら、確実に、ここで路頭に迷っただろう。



 現道に登りやすい場所を探した結果、上り車線生保内側の橋の袂に見付けた。

木々を手がかりにして、急で滑りやすい土と落ち葉の斜面を登る。

最後の最後まで気が抜けない板谷工事用道路であった。




 遂に現道への合流を果たした。

橋の下には、空き缶などが散乱しており、一部道路利用者のマナーの悪さには悲しみを覚える。



 8時59分、樹海橋袂にて、現道に接続。


さて、チャリも無いし、どうしようか…。
あの藪に、崖に戻るのは、嫌だナー。


  つづく。




その4へ

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