道路レポート  
国道13号線旧線 主寝坂峠 その3
2004.1.10



 いよいよ、相当の難所と噂される主寝坂峠旧道の、真室川町の下りへと舞台は移った。
今回の目的は、チャリと共にこの道を制覇することである。
時間的に猶予は無く、山中で夜を迎えることだけは避けねばならない。
失敗は、許されないのだ。

だが、私のここまでの作戦に狂いは無いはずだ。
経験上、下り道がどれ程荒れているとしても、チャリにとっては何とかなる。
体重をかけて、強引に叢を突っ切って進むことが可能だし、現道合流点は判然としていないが、せいぜい3kmほどの旧道だと思われた。


主寝坂峠から下る
2003.12.17 16:02


 切り通しの峠には、5cm程度の積雪があり、路面には幾筋かの轍が残されていた。
しかし、それらは全て、自動車の切り返した跡であり、峠より先には一筋の轍はおろか、足跡一つ無かった。
やはり、聞いていた通りの廃道らしい。
積雪があることに、嫌な予感がした。

覚悟を決めて、杉の木立の切り通しを過ぎると辺りの景色は一変した。
それまでは落葉により視界が確保されていたが、此方側は深い杉林となっていて、殆ど視界が利かない。
なんとも、陰鬱な雰囲気だ。
そんな中、道の側に何か建物か、あるいは東屋でもあったような痕跡を見つけた。
白いペンキが残る柱が残っていたが、元来の姿は想像できない。
峠をなんらかの関係のある施設だったのだろうか。


 雪に覆われた路面を、下りに任せて突き進む。
周囲だけでなく、道の様子も、金山町側と大きく異なっている。
目を見張るような急な勾配と、極めてきつい九十九折が、断続的に現れる。
たとえ廃道でなかったとしても、一般の自動車ではなかなか容易でない峠道だっただろう。
まして、大型車などが通えたかどうか…。
乗り合いバスなども、この峠を越えていたのだろうか?

写真のような下りが、しばし続いた。



 峠から300mほど進むと、少し平坦な道になった。
しかしむしろ、自力で漕ぐことが出来ない廃道においては、急な下りのほうがだいぶマシだ。
この程度の勾配では、チャリを降りて押して歩かざるを得ない。
路面には隙間無く枯れ草が茂り、生きているのは僅かな笹ばかりだ。
しかしそれでも、ここを進むのは疲れる作業である。
夏場なら、この辺りは背丈ほどもある叢と化しているのだろう。



 空は夕暮れ。
妙に赤みを帯びた雲は、きっと雪雲だ。
真っ白い県境の山々から、空を覆うような広がりを持って頭上に迫っている。
寂しさと、己が置かれている状況からくる焦燥感にいたたまれなくなる。

もう、引き返せないほど廃道を下ってきてしまった。




 小刻みなカーブを繰り返しながら、徐々に徐々に高度を下げていく。
積雪は5cm弱だが、その下の路面の枯れ草のせいで雪が浮いているため、もっと深く足が沈む。
それゆえになかなかチャリに乗れない部分が多くイライラする。

頭上には、旧道には似合わない電線が通る。
しかし、少し進むと再び見えなくなった。


この電線から離れた先が、本当の恐怖の始まりだった…。




笹薮の九十九折
16:07

 更に下ると、杉林ばかりでなく、雑木林も現れ始めた。
そのことが、廃道をより凶悪なものへと変えていた。
路面を覆い隠す倒木の出現は、チャリを担ぐなどの対応を要し、体力と時間を消耗させた。
路肩に現れた笹薮に戦慄。
頼むから、路上に現れないでくれよ。



 再び九十九折が始まる。
この区間の道は、もともと適当に作られていたのではと思うほど、痕跡は薄れている。
何と無く大きな木の生えていない、あるいは雪の積もり方でそれと分かるようなスペースを選んで進んだが、古道にありがちな掘割などが無く、斜面に強引に九十九を描いたような道だ。
しかも、九十九折の部分はどこも勾配が尋常ではなく、擂鉢の底へ落ち込んで行くかのようだ。



 峠から1kmほど下っただろうか。
久々に自動車の音を聞いたと思えば、雑木林の向こうに国道の姿が見えた。
丁度、主寝坂隧道お金山町側坑門のすぐ側に降りてきたらしい。

まずは、ほっと一安心。
なんとか暗くなる前に脱出できそうだ。 と、思った。

なお、この付近で分岐があり、左に折れれば現道の隧道の付近に降り立てる。
遠くから見た感じ、そう見えた。
無論、此方も廃道だ。



 淡々と紹介しているが、実は私の気持ちが冷めていたのでこうなっているのだけで、ここはかなりの難所だ。
はっきり言って、徒歩以外では通行できないと言うのも頷ける。
チャリなど、時間を短縮する効果は無く、むしろ、足手まといだと感じるほどだ。
それくらい、道は荒れている。
その荒れの原因は、とにかく道が利用されていないと言うことに尽きる。
地形的にはしっかりとしており、崩落などによる荒廃は目立たない。

正直言うと、この道は余り面白くない。
国道13号線の旧道と言うことで、万世大路のような道を期待していたが、ちょっと違う。
なんというか、国道らしくない。
まるで、廃れた林道のようだ。あるいは作業道。
何でそう感じるかと言えば、余りにも道の作りが乱暴で、石垣やガードレールなどの道路構造物も全く見受けられないからだろう。




 もちろん、この道に対する評価は様々だろう。
余り手かつけられておらず、古道の雰囲気をよく残していると言えば肯定的な評価になるだろう。
しかし、やはり個人的には歴史の道を堪能できる雰囲気ではない。
一つに、夏場ならなおさらだろうが、叢化が進みすぎていること。
一つに、現道の喧騒から遠くないこと。
一つに、杉の植林地を通る部分が多く、景色がやや単調だということ。

主寝坂峠は、現道の隧道のほうがむしろ、歴史的だ。

酷評をしているさなかにも、道は私に対し牙を剥きつづけている。
路面がそこを横断する小川によって抉れ、そっくりと消失している。
徒歩以外では突破できない状況だ。
何度も言うが、自転車での通行に面白みは、無い。



 珍しく視界が開け、少し先まで見渡せる場所に出た。

現道とは、500mほど離れた場所を概ね平行しているようだが、旧道は小刻みなカーブを繰り返しており、なかなか接近しない。
そろそろ合流できるかと期待して走るも、裏切られ続ける。

暗くなってきたよー。



 森の暗さより、夜の闇が支配的になってきた。
時刻は16時21分。
下り始めてから20分を経過していた。
ヘッドライトや懐中電灯だけで、この森を彷徨うのはごめんだ。
疲れた足に鞭を打って、雪の残る土と枯れ草の道を駆け下る。

なにやら、かつて人が活動していた痕跡の残る場所に出た。
血のような錆に覆われ、熱で変形したドラム缶が、異様な存在感で私を見つめていた。
ここは、少し怖かった。
かなり怖かった。
ここは、すごく怖かった。


 ドラム缶のある場所を過ぎると、突然路面がはっきりと現れた。
なんとか、廃道区間を脱出したのだろうか。
喜んで、更にペダルに力を込めた。

ちなみに、この写真に写っている法面は、この峠道では珍しい“岩肌”であるが、滑らかに削られていた。
決してコンクリートではない。
この辺りは、辛うじて旧国道らしいと言えるのか…。
それでも、ちょっと辛い感じもするが。




 次回、いよいよ脱出!

でも、その前に試練が…。


史上最悪の旧国道の真の恐ろしさは、この先だった。





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