道路レポート  
清水沢林道 後編
2004.2.8


峠から、下りに
2003.9.11 12:25


 下りが始まると、すぐに前方に大きく視界が開ける。
そこには、超平べったい独特の山が臥する。

一度見たら忘れない、山音痴の私でも、絶対に間違えないこの姿、
森吉山 …典型的な「アスピーテ型火山」であり、その姿は古くから信仰の対象となってきた。

この眺めが、私がこの林道を紹介したいと思った理由の大きな一つである。
峠をチャリで、あるいは車で、とにかく越えることが好きだという人は大勢いる。
私の場合は、峠を境に景色が変わる。
そのダイナミズムこそが最大の「峠越え」への期待であって、その点からこの無名の峠は、最高の悦びを私に与えてくれた。

峠の直前まではぜんぜん見えなかった森吉山が、視界の中央に、こんなにも大きく、こんなにも堂々と、こんなにも美しく現れるたのである、その興奮は、筆舌に尽くしがたかった。
道路からそのまま見える森吉山としては、ここが最高のビューポイントだと思っている。



 見所は、それだけではなかった。
勢いよく下り始めるとすぐに、これからの道行きである志渕内沢の深い緑の谷と、その縁に一条の直線となって見える林道の姿が、眼下に広がる。

阿仁川源流部の鮮やかな原色の森が、ひときわ印象的だ。
遠くには、比立内の街が日光を反射して輝き、白昼夢のようなどこが現実離れした錯覚を私に与えた。
ここにもまた、人を魅了する美しき魔物が潜むのか。



 なんとー、ここで予想外のアクシデント。

道が、崩れて半ば埋まってるぅ。

ここは特に急な下り坂になっており、しかも九十九折で、崩落したまま放置されてしまっている模様。
前後50mほどの区間はジャングルのような薮漕ぎ地帯となっている。
しかも、流水によって深く路面は抉れており、通行には細心の注意を要した。
四輪車の通行は、限りなく無理に近そうだ。

ここを越えながら、私の不安は一気に膨らんだ。
まさか、下りの途中で行き止まっていたらどうしよう…。
来た道を戻るというのは、余りにも救われないではないか。
その場合は、峠から下った分は全て、ペナルティとなるのだから。



 その後、道は復活したかに見えた。

だが…。


最 難 所
12:34

 登って来たときよりも更に急な勾配を主体にして、志渕内沢上端部から峡谷内部へと著しく地形の変化する中、道は続く。

写真正面左寄りの鞍部が先ほど越えた峠で、そこから志渕内沢源流を大きく巻いて右岸に取り付いた。



 なにやら造林地にて広場が。
問題は、この広場が異様に草生しているということ。
そして、その奥へ続くべき道が、…ない??

まじかよ。

俺の情報って、間違ってたの?!
峠から約2km、高度にして100mは下ってきたのに、こんな終わりかたって!

青ざめながら、行く手の薮を、探ってみる。



 助かった。

道はあった。
なんとも、“あの男”が好みそうな展開ではないか?!

だが、私はもう薮は結構だ。

下りに任せ、勢いを伴って薮を裂いて進む。
廃道というほど路面が荒れていないのが救いだが、この先に大きな不安を感じる。



 再び日の元へ戻ると、今度は荒々しい掘割が現れた。

もしかしたら、本林道が荒廃している原因の一端は、ここなのだろうか?
他端が、峠直下の崩落地だったのは間違いないだろうから、ここを越えれば道が復活することを期待しつつ、進入。


 かなり崩落が進み、生きている道幅は4分の一車線ほど。
さらに、掘割区間の出口付近が最悪で、道は完全に岩石の下に消えてしまっていた。
これでは、四輪車は全滅だろう。
あの男”ならば、ネタ発見とばかりに、満面の笑顔で進入しそうだが、私はそこまで逝ってないので、神妙な表情で、でもちょっとだけ心の中で「ゲッツ」とか言いながら、ここを突破。



 振り返って今回の最難所を撮影。

ここだけはしっかりと施工しとかないと、何度でも崩落してきそうな本林道のウィークポイントである。
ちなみに、この辺が峠から見下ろした崖にへばりつく道のようである。


 ここを突破しても、なお道は最近利用されていない様子だった。
相変らず、もし行き止まりだったらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしつつ、カーブの度に祈りながら進行。


そして比立内へ
12:40

 峠から4kmほど進み、下りも半ばを過ぎた頃、再びしっかりとした道に戻った。
こうなれば、貫通は約束されたようなもので、ホッと一息。
一つの峠を攻略したという安堵感が、沸き起こってくる。
しかしまだまだ山は深く、運転ミスなどすれば崖にまっさかさま。
油断は禁物なのである。



 かなり脆弱そうな掘割を何度も通行するが、一応大きな落石は寄せられている。
全線に於いて一度もカーブミラーなどの安全設備が無く、落石防止ネットなどの保守設備も見当らなかった。
まさに、峠を越えて道は作ってみたけれど、まあ、後のことはどうでもいいや。
またいずれ植えた木が育ち、利用するときにはちょっと整備して通ればいいや。

そんな、予算的に“正しい”林道像があった。



 時速30kmから40kmという高速で林道を駆け下る。
最近は余り速度のスリルに酔うようなことは無くなった私でも、やっぱりダウンヒルは楽しい。
砂利道だと危険度も跳ね上がるが、むしろ楽しい。

対岸には、山頂から谷底まで一直線の巨大ウォータースライダーが。



 谷底まで下ると、いよいよ終点も近い。
このような、いかにも林道らしい簡素な橋で、何度か志渕内沢の清流を跨ぐ。




 脱出が近づき、入り口付近にも在った「通行禁止」の表示にまた出会う。
その奥にある標識は、「落石のおそれあり」という、オリジナルの警戒標識だ。
いい味出てるネ。



 集落が近い証拠、鬱蒼とした杉の森を突き抜けて、最後の下り。
一本でいろいろな林道風景を楽しめる本林道は、その10kmを越える全長も決して長いとは感じさせない、林道ファン納得のお得路線だ。
私も、久々に林道を紹介してみようと思った。
「山さ行がねが」の原点は、こんな林道たちとのめくるめく出会いにあったことも、思い出した。

主な活動の舞台は変わっても、変わらぬ気持ち、それは、道を辿る楽しさだろうか。



 良く言えば景観に配慮した、悪く言えば存在感の薄い茶色のトラス橋が現れると、終点だ。
これは秋田内陸線という鉄路で、今存亡の危機にある。
まだ、開通して15年しか経ってないのに。
もし廃止されると、秋田県の鉄道交通は大きく、大きく後退することになると思う。
それは、経済的な損失とは別の、文化的な後退だ。
秋田の内陸を横断する鉄路の消滅は、ますます地域の利便を奪い、訪れるものも減るだろう。
県土の均等な発展を促すような政策に期待したい。

この下を潜ると、そこで県道308号河辺阿仁線に合流だ。


 こちら側にある標柱には、志渕内林道とある。
元は別々の林道だった清水沢林道と連結し、一本の峠越えとなったようだが、その詳しい経緯は分からない。
ただ、現在は荒廃し、再び二本の林道に戻ってしまいそう。

個人的には隠れた名ルートだと思うのであるが。
特に、森吉山の眺めは最高だった。









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