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道路レポート 林道山田入線 第3回

所在地 長野県高山村
探索日 2024.11.05
公開日 2026.07.27

 雲を突き抜ける、試練の区間へ


2024/11/5 7:33〜7:36  《現在地》/海抜1490m

起点から3.4km地点、“万座山の鬼”の直下に、地形図にもしっかり描かれている分岐がある。
カーブなりに右方向へ進むのが万座峠行きの本線で、反転して左折するのが支線である行き止まりの林道だ。
支線は入口のゲートバーが下がっていて、封鎖されていた。特に路線名などを報せる掲示物はない。

迷わず本線を続行。



7:44

分岐を過ぎると、道が狭くなったように感じた。
原因は、両脇に生い茂る笹がこれまで以上に中央の近くまで侵入してきているせいだ。
そのせいで、ますます自然歩道か登山道みたいな頼りなさになっている。

道路管理者による手入れが停止した後も、有志たちの往来によって維持されてきた、最後のシングルトラック。
その存在が、“山チャリ” と “廃道探索”を分ける、一線だ。
今はまだ“山チャリ”を維持できていると、私の中ではそういう認識だった。



7:47

分岐を過ぎて約10分後、枯れススキが生い茂る小平地で、またも小さな橋と出会う。
これも銘板がない“名不知”橋で、跨いでいるのは渋沢の小支流だ。
ここで私は、渋沢を渡る2回目の橋に辿り着いたのだと勘違いをした。



7:50

渋沢を2回渡った直後であると錯誤している。
そんななかで、初めて自転車から引きずり下ろされた。
路面状態の悪化が原因だ。
まるで砂場のような柔い路面と急坂の複合で、漕いでも車輪が空転して前に進めなかった。

大人しく自転車から降りて、押し歩く。



7:52 《現在地》/海抜1540m

あれ? また橋だ?

そんな感じで出会ったこの橋が、本当の2回目の渋沢橋だ。
150m前のさっきの橋よりは大きいが、やはり銘板などが見当たらない名不知橋だ。
現在地の錯誤にはここで気づいて直ちに修正。改めて、起点から4.3km、海抜1540mの地点にいることを認識。
(秋田県と岩手県の道路上最高地点である八幡平・見返峠の標高をここで超える)

橋から見下ろす渋沢の流れや周囲の地形も、前に見た時からは随分変わった気がする。
【前回】は、ブナの森の落ち着いた渓流のように見えたが、40分ぶりに約100m高いところで再会した姿は、笹とシラカバの痩せた斜面を走る細流だった。
依然として雲の中で姿を見せない山上は、これ以上に荒涼とした世界であろうか。



7:53

渋沢を渡った直後の風景。
霧か、雲か、当事者目線からは判断ができないが、ここで濃いガスの中へ突入した。
ガスの動きが思いのほかに早く、気付いた時点ではすっかり包まれていた。

また、橋の前でもまた一定数の先達が脱落したような感じだ。
轍の衰弱は、私の漕ぎ足が常に草と“ふれあい”を余儀なくされる状況にまで悪化した。
雨の後は靴ごと足が濡れるから嫌なんだけど、そんなことを言っても始まらない。足濡れの覚悟を決める。


足を濡らす、そんなささやかな覚悟の……1分後。




7:54

こいつは足だけじゃ済まねぇ、全身濡らされちまう道だッ!!

一応シングルトラックは継続していて、漕いで進める感じの路面があるにはあるのだが、交通量が笹の繁茂力に全く追いついていないようだ。
これはもう、ぐしょ濡れの笹の葉を自転車と身体で強引に掻き分けながら進むしかない。
11月の標高1500mオーバーで身体を濡らしたいなんて思う人はどこにもいないが、仕方がない。

敢えなく、身体を濡らす覚悟を決める。

これほんと不思議なんだけど、濡れた藪の中を歩くと、どんな防水装備も大して効かない。
雨には鉄壁の装備でも、濡れた藪に対する防水効果は期待するほど高くない。藪ってほんと手強い。
濡れるを選んだことで、また少し、“山チャリ”と“廃道探索”の天秤が、右へ傾いた。



7:55

ちょっと笹が退いてくれて、路面が大きく出ると、嬉しい。

地図にもあるとおり、道はこの辺りから、少し間延びしたような九十九折りとなる。
ここが1度目の切り返しで、あと3度切り返すと、長いトラバース路へバトンを繋ぐ。
一連の九十九折りは、徐々に切り返しの間隔が離れる傾向があって、次は少し遠く、その次はもっと遠い。



8:01

はい、6分後。これが2回目の切り返し。

ここは記憶を辿っても、淡々とした印象しかない。
ずっと漕いでいるから楽ではないし、予想通りに濡れが進行しているから不快だ。
しかし、辛さを積極的に共感して貰うには、いささか景色が凡である。
背丈を圧倒する笹藪の中をのたくっているから、全然視界が開けない。
もし天気に恵まれていたとしても、小さな空の色が青いくらいの違いしかなかったと思う。



8:04

濡れるッ!!!しかない…。

ガサゴソガサゴソと耳障りな音を立てながら、ノロノロ進む。
シングルトラックは生きているが、路面が見えないところでは、念のため押して進んでいる。
何かに乗り上げて止まることを何度か繰り返して、嫌になった。
あと、スマホのボリュームを最大にしてMP3を流している。こんな処でクマとの鉢合わせはゴメンである。



8:06

ずっと藪道が続いているわけではなく、こういう救いのエリアが時々現れてくれた。
ただ、路面が見えていても、乗車はしないで押したまま進む場面が増えた。
路上に障害物が多くなってきたのと、洗掘による溝も増えてきたせいである。
乗ったり下りたり繰り返すと余計に疲れるので、ある程度の頻度になったら、しばらく乗らない。

あと、いつの間にかガスが晴れていた。



8:14

3回目の切り返しを過ぎている。
次の切り返しで、この九十九折りは打ち止めだ。

周りのガスが晴れているのに気付いた時、空が明るくなっていることにも気付いた。
青空が見えるには至らないが、頭の上の雲は確実に薄くなっていると思う。
まあ、標高を上げ続けているのだから当然かもしれないが、とても良い傾向だと思った。



8:15

キツイです。

つまらなキツイ。

廃道探索中、常に私のテンションがマックスで、あらゆる場面を全肯定していると思っている人がいたら、認識を改めてほしい。
藪を漕いでいるときに楽しさを感じる方法があるなら、誰か教えて欲しい。



あっ、ちょっと楽しい。

振り返って見た笹原の向こうに(中央が道です)、

雲の中から新しい山が登場しようとしている気配があった。



水墨画もってこ〜〜い。

あの辺は万座山で、相変わらず山頂を含む稜線が見えないが、雲霞に煙る山の片鱗が美しかった。

下から“2本の角”に見えたのも、あの辺のどこかだ。



8:19〜8:29 《現在地》/海抜1633m

やっとキター。

起点から約5.3km、地形図に標高点1633mが打たれた4回目の切り返しへ。
濡れた笹藪とふれあう、30分間の修行のような九十九折りは厳しかったが、気付けば道のりの半分もとうに越え、後半へ入り込んでいた。

ここまで雲の帳も越えて登ってきたが、未だ一度も姿を見せていないのが、万座峠を戴く国境の稜線だ。
おいおいおい、大丈夫? ここまで随分と期待が膨らんでいるぞ。期待に応えられるか? 万座峠!!




万座峠 まで のこり .0km



 天啓のカーブで 天才! 天運! 有頂天!!!


2024/11/5 8:30 

約10分間の休憩を挟んで、再出発。後半残り3kmの走破を始める。
地図によれば、この先1kmほどはやや緩やかなトラバース路である。
この区間で万座峠の直下まで移動して、最後の強烈な九十九折りへバトンを繋ぐ。
県境を越える道の数だけある“長野県の最果て”が近づいている。
明らかに雲の色は薄まってきているから、切れ間の青空にも期待をしたい。

(福島県の道路上最高地点である磐梯吾妻スカイライン・浄土平の標高を、ここで超える)



8:33

勾配は緩やかになったが、相変わらず路面は荒れていて、細いシングルトラックが頼りである。
だが、トラック上にも細かな障害物や起伏は多く、なかなか乗車して長い距離を進ませてくれない。

直前に長く休憩をしたせいで、身体が冷えてしまった。
藪道で手と脚を濡らしてしまったので、活発に動いてないと肌寒い。
現場の気温を測定しなかったが、5〜10℃の間だったろう。
路傍の密生した笹のお陰で、あまり風に吹かれないのはありがたかったが。



8:35

カーブを過ぎるごとに、景色が荒涼としてきている。
林相が変わったようにも思う。
葉が落ちたシラカバに代わって、黄色く色づいたカラマツが目立つようになった。

基本的に国内のカラマツ純林は人工林であるが、天然のシラカバやカラマツはパイオニア樹種と呼ばれる、荒廃した土地に真っ先に根を張って緑化を促す樹木である。やはり火山性の植生を感じる。
この道は林道を名乗ってはいるが、沿道に人工林らしいところが少ないし、林業生産のための道路としては主役でなかった気がする。



8:37

またこれか。
仕方がないと言い聞かせ、道に覆い被さるぐしょ濡れの笹原を猛進する。

その最中、正面の空から光が射し込んだ。
私を取り囲む笹の濡れ葉が、白く煌めく。
カラマツの枝先に無数に実った小さな水滴の果実も、一斉にビーズの輝きを見せた。
これは、“最初の雲間”が見せた一瞬の光だった。

写真は、その瞬を捉えた。

日差しは一瞬で隠れたが、

歓びは、ここから繋がり始める。




8:39 《現在地》/海抜1650m

視界が爆発した。

そう感じた。

変化の兆候は、あったと言えば、あったのだろう。
例えば、シラカバかカラマツに変わったこと。
あるいは、路面が落ち葉から岩礫主体に変わっていたこと。
でも、目を瞠るような決定的変化は、極めて劇的に、瞬発的に現れた。

なお、私はここで騙されなかった。
道が笹藪を脱ぎ捨てて、本来あるべき路面を完全に保持した姿を示したが、これをもって、廃道状態から解放されたとは思わなかった。
なぜなら、そこにはいつものシングルトラックしかなかったからだ。



唐突に許された、雲上の展望。

この路上からは、ずっと登ってきた渋沢の谷を全て見下ろすことが出来た。
近くのカラマツがオレンジなのは、そこに新たな雲間の光が射していたからだ。
見ている前で、その明暗は影絵のように躍動した。



もしも天気が良かったら、向こう正面に志賀草津の山々が展開していた。
それは12年前にパノラマルートから眺めた【眺望】の良い対照になったであろうが……

これでもいい。

これは間違いなく、負け惜しみではなかった。



私はいま、下界というほど低くはない山中の一領域を、流れる雲の間から見下ろしていた。
上にも、下にも、無数の雲が浮かんでいて、それらの無限の組み合わせが景色を変えていた。
次のカーブに目を向けたとき、そこにはスポットライトのような光が当たっていた。

あのカーブを曲がると、何が見えるのか。待ち遠しい!

光に誘われるように、カーブへ。

まるで、天啓を受けた巡礼者じゃないか。 ははははは! 楽しい!!



8:41

カーブに立ったときには、もうそこに光は射していなかった。

スポットライトを浴びるべきは道であり、私ではないから、それはいい。 肝心なのはこの先だ。

正面右の奥が、万座峠の方向である(真っ正面は万座山)。そしてちょうど上の方の雲も切れ始めている。

このカーブを曲がった時点で、峠を見通せる可能性が!




……ああ……


……光のなかに……


……幽かに峠の辺りのシルエットが……


……見えてきて…………




ああああっ!!!

目の前で、雲が動いて、現れてくるッ……!





ありがとうございます!!!




この道の現れ方が、意図された演出だとしたら、設計者は天才だ。

そして、群馬県へ至る道の見栄えがハードすぎる件!

そもそもこれは、光と雲の演出効果にも、恵まれすぎている。
この演出を偶然に引き当ててしまうとは、探索中しばしば発揮されている私の“天運”が凄すぎて、前世ではどれだけ徳を積んできたのかと、我ながら怖い。(前世は弘法大師クラスの徳だったか?!)
自慢は嫌われるかも知れないが、私は有頂天にならざるをえない!自重不可能!



現在地は、ここ。

見えているのは、あそこ

だった。 その結論を得たのは、もう少し後のことだったが……。

結局、この光射したカーブでも、峠の頂上は姿を見せなかった。

その代わり、頂上直下の最終九十九折り中間部、海抜1730m附近の路体が見えた。



雲の中より現れ出でたカーブに目を奪われたが、見えた道が他にもあった。

正面にある万座山の山肌を雄大に切り返すラインがそれだ。

言うまでもなく、この道の続き。



万座山の切り返し付近を望遠で撮影。

崩れている場所がありそうだ。

楽しくなってきたッッ!!!

藪を出ただけで、世界全てが変わったみたいだった。



万座峠 まで のこり .5km






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