奥羽本線 <二代目>大釈迦隧道  解決編 その2
闇の奥、未知の闇
青森県 青森市〜浪岡町

 
 地獄への入口を思わせる横穴にたどり着いた私たちだが、まずは本線隧道を往復することにした。
そのあとで、じっくりと攻略しよう。

ここまでの坑口からの距離だが、600mくらいだろうか。
前回一人で来たときには、丁度真ん中くらいという印象だったが、意外に青森側に坑門に近かった。
ということは、残りはまだ800m以上あるだろうと言うことになる。

まだ、並の隧道よりも長い闇が、この先に待ち受けているというのか。
10kmを越えるような鉄道隧道が全国に点在する今では、この1440mは子供のようなものだ、だが我々素人の感覚では限界に近い。
少なくとも、歩いて突入出来るのは、せいぜい2km。
これ以上は、精神に異常をきたしそうだ…。


私の目の前に、いつか3kmの廃隧道が出現した時…
入れるだろうか? 私は。




 前回も辛うじて撮影に成功していた電話機にたどり着いた。
この様な電話機は、少なくとも400mに一度は設置されており、いずれも大の待避坑に備え付けられている。
最も落書きが多いのも、この大の待避坑である。
ある待避坑の落書きは、『秋田県雄和町』という文字列を含んでいた。
…我々の前にも、秋田から来た“愚か者”がいたのか。
また別の場所には、『AM1:30』というのもあった。
…どんな時間に来たとしても、不変の闇があったことだろう。



 この電話機は、前回私が扉を開けたのたっだ。
うっかり、そのままにしていた。
十分な灯りもあるし、目的の横穴を発見済みの私たちは少し余裕がでて、電話機の隅々までを観察した。
たぶん、この電話機を初め、洞内の設備は昭和39年の竣工当時のものだろう。
見たこともない電話機だ。

緑の制御板左上のスイッチが電源、右上にあるのが機能を切り替えるツマミ。
左下にある回転式レバーは手動の発電機(!)、そして右下がダイヤルだ。
制御板の左には、重い受話器が備え付けられている。
扉を閉じると、物理的に電源スイッチが押し込まれ、切れるようになっている。

そんなことが、観察から分かったが、さらに詳しい情報が残されていた。
それは、扉の裏側に張ってある取扱説明書だ。




    取  扱  方  法
  1. とびらを開くと 電源が入る。
  2. 呼出は
    • 「交換」の場合
          発信音を確かめて 相手番号をダイヤルする。
    • 「交換以外」の場合
          送受器を外し受話器を耳にあて 話し声が きこえなかったら
          再び送受器をかけて 発電機ハンドルをまわす。
  3. 相手が出たら 通話をする。
  4. 通話が 終ったら
      @送受器をかける。
      A回路選択器のツマミを 「運転」に合わせておく。
      B扉をしめる。(とびらをしめるときは右上のとびら止め金物を押してしめる。)

  5. 相手からの呼出しを待つときは 回路選択器のツマミを合せ とびらを開いておく。

  6. 携帯電話機を 使用するときは 回路選択器には関係なく、端子盤を希望する
    回路端子に 水抜き穴を通して接続し とびらは しめておいてもよい。




パタ氏は、静かに手をツマミに伸ばすと、「交換」から「運転」に切り替えた。
まさか、この男は、操作しようとしているのか?! 唖然としながらその手を見守る。
受話器に手を伸ばし、あろう事か、彼はそれを取った。
己の耳に当てる。



「まだ電源は死んでないんだ…」

そ、そんな衝撃的な発言を!! ま、まさかそんな筈は!
私も、おそるおそる、受話器に耳を当てた…。

      …… ……  ス ーー ーー  


微かに、風のながれるような、いやこれはノイズ音だ。
電源が生きているのか、死んでいるのか、それは私には分からない。
だが、受話器からは確かに、受話器に耳を当てなければ聞くことが出来ない、どこか別の世界の音が 聞こえてきた。



受話器を置いて、扉を、閉めて  ここを後にした。




 洞内には照明も点々と備え付けられている。
本体に貼られたシールによれば、名称は
「けい光燈具(トンネル型) 25−4171R−(B)−RK」
定格は200V 40Wである。
岩崎電気株式会社製だ。

また、その脇には緑色のさわやかなシールが別に貼られていて
「PCBは使用していません」




 電源を発見した。

三相の200Vだ。
パタ氏は、博識だ。
私には、穴が三つある。という程度の驚きだったが…。
彼との探索は、勉強になることしきりである。





 待避坑を中心に、色々な場所に落ちている空き缶。
今では少なくなった250ml規格の缶だ。
銘柄は、やはり廃道の帝王「ジョージアオリジナル」が抜きんでているが、「coke」と書かれた、たぶんコカコーラの旧パッケージ?の缶や、「Mコーヒー」などが、目立った。



 いよいよ1km以上を歩き通し、行く手にうっすらと日の光が見え始める。
振り返れば、今度は背後に真の闇が訪れていた。

内壁は総じて安定した状態であったが、弘前側坑口付近は地下水量が多いのか、多数の氷柱とともに、ひび割れも散見された。
将来、当初計画通りに本隧道が複線用に再度利用される日が来るとしても、その前に大規模な改修工事が必要となるだろう。
廃止されてからの放置が長くなれば長くなるほど、復活に要する労力や費用は膨大なものになっていくのだ。

その点からも、早急に結論を出さねば、複線化は永遠に不可能となるかもしれないと思う。




 つららが怪しくはびこり、急速に荒廃の進む洞内。

一部架線は外れて、垂れ下がっている。
あらゆる金属が、茶色に爛れ、朽ちている。

この状態を見れば、利用するまで隧道を静かに保管して行くことなど無理で、適切な管理を常に行わねばならぬことは明白である。

もう一度言いたい。
いずれ複線化は必要だと思うから、どうせなら早い内にするべきだ。




 ただ一カ所だけ、拡声器のようなスピーカーが落ちていた。
洞内での保線作業者に列車の接近を知らせるためのものだったのか。



 やっと近づいてきた出口。
坑口が近づくと、青森側もそうであったように、バラストとコンクリートの枕木が復活した。

ここまで、洞内滞在時間は36分を数えていた。
途中、電話機を悪戯したりしてきたせいもあるが、黙って歩いてもとにかく長い。
我々も、次第に話題が尽き、黙々と歩くようになっていた。



 天井から洞床にまで届くほどに発達した氷柱。

隧道は終わっても、まだ日の元への脱出は叶わない。
さらに、370mの長いスノーシェードが続く。
この坑口やスノーシェードは沢底にあって、周囲の水を集めている。
そのせいで荒廃が、より一層進んでいると見る。



 スノーシェードと隧道との接続部は密着しており、脱出する術はない。
緩やかに左へと蛇行するスノーシェードは、まだ真の出口を見せてはくれない。
もう少しの辛抱だと分かっていても、遮る物のない外の光が恋しい。
金属の腐食により、向かって右側の内壁は悉く消失しているが、その向こうに見えるのは雪の壁か、あるいは土の壁。
空を見たい。




 元来は枕木やバラストが並んでいるはずの道床には、ふかふかの砂や土が積もりレールもその殆どが埋没している。
外部からの流入も少なくないだろうが、猛烈な霜の発達によって、かなり土の嵩は増えているように思える。
まるで、小さなグランドキャニオンのような、立体的造形を見せる道床の土。
乾いている部分と、泥っぽい部分が交互に現れる。
なかなか足を取られ、随道内以上に歩きにくい。




 スノーシェードとなってからも、内壁の下半分は相変わらずコンクリートに覆われており、そこには点々と待避坑も続いている。

初めて見る電源設備らしい装置が、洞内の空気に曝され朽ちかけていた。
近代的な長大トンネルには、これほど様々な装置が存在することを、改めて知った。
これまでの探索対象といえば、明治や大正期に竣工して昭和の中頃には既に廃止されていた鉄道隧道が多かったが、ここは一線を画した遺構である。

遺構という言い方には、語弊があるのかもしれないが。






 大きな換気口らしい、天井の高い場所があった。

スノーシェード上部には殆ど破壊が見られないが、直に土に接し、雪や水に覆われることも多い側面底部から、徐々に風化している。




 パタ氏の持つ100万カンデラのライトも、節電のため必要最小限の利用に留めて歩いたが、それでも最初から見ると大分光量が落ちてきている。
この他にも、パタ氏は肩と額に、私も額に灯りを灯している。
パタ氏に比べ、あまりに私の装備が貧弱なのは、いつものことである(笑)
「なにをするにも、まずは形からはいる。」と豪語するパタ氏と、とりあえず有るもので成そうとする私とでは、その方法論は異なるが、補い合う合同探索は理に適ったものといえる。

え?
お前はただ補われているだけじゃ無いかって?

そ… そうかも?!






 殆ど不安や恐怖というものとは無縁なまま、無事に出口にたどり着けそうだ。
一人での探索では得られない物、一人でなければ、得られない物。
そのどちらも、すばらしいものだと実感する。

今は二人、でも明日は一人。
何とも気楽で、いいじゃないか。





 1810mの複合構造物を、間もなく突破。

穏やかな光が、二人を照らし始める。

命綱だった照明を一つずつ消灯して、その光に身を任せる。

終わった。


いや、まだ洞内に、残してきた謎がある。
とびきりの謎が。








次回 いよいよ「コワシ」の穴へ

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2004.3.17