強くてニューゲーム、始めましょう!
このレポートは、道路レポート「国道485号 五箇トンネル旧道」(以後、「前作」と呼称)の完結直後に執筆している。
そこで得た経験値……ならぬ情報を、皆さまが引き継いだ状態(=強くてニューゲーム)で読まれている前提で本編を書いた。とはいえここから読み始めたとしても十分クリア出来る難易度なのでご安心ください。
ということで早速始める。
「前作」(特に机上調査編)を読まれた方なら、今回のターゲットである「福浦隧道」という名前には覚えがあるはず。それだけでなく、
明治31(1898)年に、西郷港と福浦港を結ぶ幹線道路「北方道」が開通した際に、“2代目の福浦隧道”が建設されたという話も、ご存知であるはずだ。
明治31年で2代目ということは、もっと古い初代の隧道があるのだと思った方は多いだろう。
まさしくその通りで、初代・福浦隧道こそ、おそらく隠岐最初の隧道である。
すなわちそれは、初代・中山隧道(明治29年竣工)よりも古いものだと考えられている。
右の地図を見て欲しい。
福浦隧道は、島後の西海岸にある。地名としては、隠岐の島町大字南方(みなみかた)だ。
ここに作られたトンネルは3世代があり、現在は昭和63(1988)年開通の新福浦トンネルが、島根県道44号である主要地方道西郷都万郡線として頑張っている。
右図は新旧地形図の比較だ。
最新の地理院地図と、大正元年版を重ねている。
どちらの版にも、「赤い矢印」の位置にトンネルが描かれているのが見えるだろう。
これが、2代目の福浦隧道だ。
隧道は、Y字型の入り組んだ内湾を持つ重須(おもす)港(重栖湾)内に突出する切り立った半島の先端付近にあり、伝統的な北方道の終点であった福浦港の門戸にあたる位置だ。
今日の重栖港(福浦港)は、島根県が管理する一漁港に過ぎないが、周囲を山に囲まれた波風穏やかなこの湾は、近世まで北前船の風待港として多数の帆船が出入りした、隠岐の玄関口たる要津であったという。
なお、初代隧道が描かれている地形図は存在しない。
当地を描いた地形図に、大正元年版より古いものがないからだ。
次に、トンネルデータ関係の“いつもの”資料も見ておこう。(↓)
資料名(データ年) | 隧道名 | 路線名 | 竣功年 | 全長 | 幅 | 高さ |
道路トンネル大鑑 (1967年) | 第一福浦 | (一)五箇都万西郷線 | 明治26(1893)年 | 119.7m | 2.1m | 2.7m |
第二福浦 | 9.0m | 2.1m | 2.7m | |||
平成16年度道路施設現況調査 (2004年) | 新福浦 | (主)西郷都万五箇線 | 昭和63(1988)年 | 646m | 7.5m | 4.5m |
福浦 | 村道 | 明治31(1898)年 | 122m | 4.0m | 3.8m | |
福浦第二 | 11m | 3.7m | 3.1m |
これまた少し難解な感じになっているが、『大鑑』にある「第一福浦」と「第二福浦」が、それぞれ『現況調査』の「福浦」と「福浦第二」に対応している。
これらは同一の隧道であるのだが、竣工年だけでなく、幅や高さも違っている。
結論から言うと、中山隧道の時と同様に『大鑑』の竣工年の根拠が不明で、おそらく正しいのは明治31(1898)年竣工だ。そして、幅や高さは、後年の拡幅の影響で変化している。
また、これらのデータから分かるとおり、福浦隧道は長短2本がセットである。2本まとめて2代目・福浦隧道である。
そしてこれらの資料にも、初代隧道は記録されていない。
新旧地形図にも、新旧トンネルリストにも、書かれたことがない初代隧道だが、それが存在することは探索前の時点でちゃんと把握していた。
なぜならそれは、初代・中山隧道のように、山の中に隠された、忘れ去られた存在ではなかったから。
例えば、探索の随分前から愛用している『日本の近代土木遺産 現存する重要な土木構造物2800選 改訂版』(土木学会/平成17年発行)には、簡単なデータだけではあるが、初代隧道について次のようなことが記されていた(一部抜粋)。
資料名(発行年) | 隧道名 | 竣功年 | 備考 |
日本の近代土木遺産 現存する重要な土木構造物2800選 改訂版 (2005年) | 初代/福浦隧道 | 明治初期 | 選奨土木遺産 |
竣工年は、「明治初期」!!! ドンドン!
具体的に「何年」ということは書かれていないが、明治初期と言われれば、まず一桁年代ということだろう。
そうでなくても、明治20年代以降に完成した初代・中山隧道よりも古いことは、ほぼほぼ間違いないかと思われる。
これぞ、栄えある隠岐の最古の隧道であるとの認識をしたうえで、私は現地へ赴いている。時系列順的には、中山隧道を探索した後(同じ日)だ。
もう予習はこのくらいにして、楽しい楽しい、現地の景色を見てもらおう。
下手したら、日本の離島で最古の隧道かも知れない、隠岐最古の隧道は、
とーっても楽しい姿をしていた!