あー、これ…
あかんやつや。
書いてあったとおり、これは “素人さん” のお仕事だ…。
驚きはすれども、この状況を全く知らなかったわけではないので、妙な気分である。
ただ、本は基本的に文章と図でこの状況を説明しており、写真が1枚もなかったので、
やはりナマで見る迫力と、通常の隧道から明らかに乖離してしまった違和感は半端なかった。
と、私だけが盛り上がっても、この写真だけではまだ状況が飲み込めない読者さんも多いだろう。
だが、次の写真を見れば分かると思う。 ヒントは、“山の両側から掘った”。
何が起きたのかはよく分かるけど…
ここまで酷いのは初めて見る。
しかも、上下方向の誤差がこれだけ生じるのって…。“ゲジ穴”を思い出した。
いや、それにしても、余りに大胆な誤進路…。
「本」はそう考えなかったようだが、実は、わざと?
…メリットがあるとしたら、北口から急な下りを掘ると、先端に地下水が溜まる可能性があるが、
勾配を減らしたことで、そのリスクを減少させたということくらいか?
しかし、現地は砂岩質で、少しも水気がないんだよなぁ…。う〜ん。
まずは、行き止まりの「上の穴」から探索しましょ。
え? 行かなくても見えるだろって?
見えるけど、行きたいじゃない?(笑)
適当(てきとうじゃなくテキトー)に掘り残された左端の洞床を伝って、奥の洞床を目指す。
隧道内で上下分岐とか、とにかく不思議な光景である。坑道だったらありだろうが、隧道では尋常でないことだ。
つうか、「下の穴」の急傾斜ぶりも、やばいだろ…これ(苦笑)。
向こう岸に、辿り着いた(笑)。
今まで、掘削当時を除けば、冗談以外でこの場所に足を踏み込んだ人はいたのだろうか?
何か実用的な目的で、このデッドスペースとしか思えない余分なる誤坑道に足を踏み入れた人は?
それにこうして上から見て見るとよく分かるが、ズレてしまったのは上下の角度だけじゃないらしい。
水平方向にも、明らかに南口からの坑道と、北口からの坑道とは、進路が斜交している。
であるからこそ、ここから見たときに「下の穴」は真下ではなく、左下の方向へと潜っているのだ。
ホントもう、何から何まで滅茶苦茶なのである。
めちゃくちゃ!
しかも、ここまで滅茶苦茶をしても、未だ閉塞するほどの致命的落盤がなく貫通しているというところに、“隧道王国”たる房総のフトコロの深さを感じる。
初心者向け隧道掘削コースがあるなら、それは絶対に房総のこの辺で開催されていいはずだ。どんな無茶をしても大丈夫なんだから。
「上の穴」の終点(閉塞地点ではなく終点)。
ぎりぎり起立できるくらいの高さがあるが、これが完成断面だったのだろうか。
まあ、房総には良く見られるが、ここもかなり天井の低い隧道である。
そしてこの終点で注目したいのは、生々しい手鑿の痕が無数に刻まれた切羽(きりは、坑道の先端の壁のこと)に他ならない。
通常、完成した隧道では切羽を目にする事は出来ないのだが、極めて特殊な例外として、ここに切羽が残っている。
また、切羽の右半断面が25cmほど奥に掘進しているのも興味深い。
この掘進は、この隧道が基本的には全断面工法を採りつつも、微視的には左右の半断面ずつ掘進していた可能性を示唆すると共に、やはり「上の穴」の掘進中止が予想外の出来事であった事を示している。(想定通りならば、この半断面の掘進は不自然である)
ここも“ゲジ穴”だったか…。
つうか、“ゲジ穴”の誤掘進率が異常に高い…。
ゲジが選ぶ隧道は、技術的にやべぇ隧道ばっかりなのかー?
気を取り直して、正しい穴へ向かおう。
さっき一度小さく出口が見えたからまだいいものの、
何と気持ち悪い下りだろうか。
あの伝説の旧“釜トン”など、この勾配と較べれば児戯にも等しい。
例の本の執筆者(教育委員会)も、よほどこれに興味を感じたのか、正確な測量をしている。
それによると、なんとこの「下の穴」の傾斜区間は、斜面長20mで地盤は5.3mも下っているらしい。
計算してみると、この間の平均勾配は25.9%(14.5°)となり、“釜トン”の最急勾配(15%)の倍近い。
もともと自動車の通行など想定していなかったろうとはいえ、とにかく隧道内としては異常な急勾配だ。
それもこれも、
隧道全体にわたって均一の勾配にすれば、ここまで酷い事にはならなかったというのに!!
そしてこの急な下りの途中に、なぜか一台のダイヤル式電話機が…。
いったい、なぜ!!(困惑)
何者かが遺棄したにしても、なぜ電話? ここに? しかも受話器が無い。
これは深読みすれば、“ナベダイヤル”(ワ●ド)と関係があるのかも知れない。
あるいは、“グリーンねえさん”(グリー●信販)の方だろうか。
どちらにしても、ここにダイヤル式電話機を置き去りにする心境は、常人には計り知れないし、周囲にワルニャン(野生、ガチ)の足跡が点々と付いているのも、かなりイヤだった。
フカフカもふもふの感触を持った柔らかな砂の洞床を、月面着陸を果たした宇宙飛行士の気持ちになって下って行くと、ようやく下りの果てる地平が出口とセットで見えてきた。
とにかく全体的に天井が低いうえに、天井が綺麗な半円の断面なので、まるで怪物の咽喉に落ちていくような絵面だった。
このまま脱出出来れば、無事に目的達成といいたいところだが…、
出て良いのか? という疑問が。
恐らく出れば、怪物の胃…ではなく、小学校の敷地内だよな。
これは、もしかしなくても、確実に不審者なんじゃ…。
私が小学生だった頃の(今よりは悠長な)レベルで言っても、校門前で宗教の冊子(リンゴを手に持っている聖人とか出てた)を配付しているオジサンは不審者という認識で共有されていた。
それと比較してだが、もしも、一人のオヤジがだよ、ヘッデンを点灯させながら、突如穴から湧き出して坑門前に出没したとなれば、それはもう、向こう6年くらいは云い伝えられるレベルの“大不審者”になれるのではないか。
それは…、色んな意味でゴメンしたい。
本納小学校で本能の赴くままに隧道探索した結末としても、ちょっと頂けない。
学校の備品だったらしきものが片側に山積みされた最後の坑道を歩きつつ、近付く出口に、今日一番の緊張を覚えた。
あ、これは良いパターン。
坑口と校舎裏の校内通路との間に、柵がある。
この柵は、学校の敷地を仕切るものというよりは、単に落石防護柵なのかもだが、
私にとっては良い材料。あそこまでは学校外だと思ったとしても不自然ではない。
とはいえ、ここで人に見つかるのは面倒の種だから、周囲に人が居ないことを慎重に確かめて、
行けそうならば、外へ出て写真だけを撮ってすぐに戻って来よう。外での行動時間は10秒以内だ。
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7:22 《現在地》
まだ登校時間前らしく、相変わらず人気はない。さっと外へ出る。
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↑ 南口から西側。
| ↑ 南口直上の崖。
| ↑ 南口から東側。
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↑ そして南坑口。
ここまでの風景をあっという間にかすめ取って、すぐに地中へと還る、
早きことカマドウマの如し。そんな“隧道オヤジ”だった。
そしてこの後は、やはり肩身の狭い北口から抜け出して、
この怪しき廃隧道が眠る裏山から、速やかに離脱したのである。
――任務、完了――