房総半島の南東部、いすみ市と御宿町に跨がる海岸線一帯は、人口が多い関東地方にあって、しかも幹線道路からも遠くない立地の割に、あまり人目に触れていない場所ではないかと勝手に思っている。
その理由は、外房海岸の唯一の幹線道路である国道128号が、この区間では低縮尺の地図だとそれと気付かない程度に内陸を通っているのだが、現実には国道が通る低地帯と海岸線との間に幅1.5kmほどの一種独立した山地が細長く存在していて、しかもその中にいくつもの集落が“織り込まれて”いるということを、見過ごしがちだからだろう。
そんな観光ガイド的には地味目なエリアではあるが、房総丘陵が太平洋の荒波に直接削られ続けている海岸線は、外房を代表する景勝海岸“おせんころがし”を凌ぐほどの壮烈な絶壁美を秘かに誇っているのであるし、人の暮らしがある以上は、ここにも房総の御多分に漏れず、沢山の古い隧道たちが存在している。
そろそろ本題に入る。左の地図を見て欲しい。
「岩船地蔵尊」が今も昔も変わらない目印で、その北西に1本のトンネルが描かれている(矢印の地点)。岩船隧道という。
そして明治36年の地形図を丁寧に重ね合わせてみると…
やはり同じ位置に隧道が描かれているのであるが、その長さも向きも、微妙に異なっている気がした。
それは新旧地形図の誤差の範囲だったと、空ぶりを覚悟しなければならない程度の違いではあったが、それでも“隧道天国”の房総においては探索を試みるに十分な根拠といえた。