山チャリと天気
2001.1.16

山チャリは、言うまでもなくアウトドアであるから、天候は重要である。
ここでは、山チャリにとって、天候がどのように影響するかを、解説したい。




天気


 いくら血気盛んに出発しても”濡れ”は1時間もしないうちに全身を萎えさせ精神まで侵す。
もはややる気は消えうせ、中止のきっかけを探すことに夢中になる。
 そのきっかけをどうしてもつかめなかった場合、あと、どうしても中止できない事情の在りしとき、この地獄のようなコンディションでの、最悪の戦いを強いられる。

 ここでいう雨とは生易しいものではない。
「本降り」のことである。

 幾重にも空を覆い尽くした暗雲は、夜が明けたことも有耶無耶にするかのようにやる気のない明かり地上に降らせるばかりで、まったっくもって気が滅入る。
その上、カッパの下の衣服は汗と水蒸気でぐっしょりと重くなり、靴から真っ先に雨水が浸透してくる。
アスファルトは瞬く間に水溜りを出現させ、そこを轟音と共に追い越してゆくダンプは真横から生ぬるい泥と水の塊を半身に、容赦なくぶつけていく。

 顔面は凍え、目は赤く充血し…その目を細め遠くを見ても、目指す山並みもまったく見えず…。
もはや体も心もやる気のなさに包まれる…。
今日は来るべきではなかったと後悔。
引き返そう。

 しかし、帰りも雨なのである…。

 雨は山チャリを最も困難にする。
霧に煙るブナの森はさぞ美しいと思うかもしれないが、最低でも山チャリ中だけは雨も霧もごめんである。
しかし雨は、逃れられないときもある。
 夕立に代表されるような、突発的な雷雨である。
こればかりは局地的なものであるし、本当に突然なものなので、覚悟を決めてぬれまくるしかない!
夕立は帰り道であろうから、気も幾分か楽なものだ。
現代人にとっては、目まぐるしい夕立の始終をその身で味わう事は、意外に貴重であろう。幸いにして虹を眺める時の感慨も、より深まろうというものだ。
 あなたは、呼吸するのにさえ事欠くほどの豪雨を味わったことがあるだろうか? きっと驚くだろう。



 冬は山チャリの季節ではない。
 その最大の理由は、雪によりその舞台の殆どを奪われてしまうためだ。
だから雪の降る中を山チャリすることは少ないわけだが、実際にやってみると、雨よりかはずいぶんマシ、である。
しかし濡れに伴う苦痛は雨の比ではない(寒い!!)。ま、幸い本当に冷える日の雪はなかなか体を濡らしはしないが。
しかしチャリは本当に寒いので(風をもろに受けるし)、防寒は完璧に!

 ちなみに、変速器が凍りついたら要注意である。
まもなくブレーキも凍りつくからである。
変速もブレーキも万が一凍りついてしまったら、フレームに沿って張られているワイヤーを手で直接引っ張り制御するしかない!
過去に一度、出発前にこれらの場所にお湯を掛けてから出発したことがあるが…その結果、CRAZY!
…お恥ずかしいことだ。

 雪道は殆ど歩道などないし、車通りの多い道では圧雪がわだちへ向かって傾斜していることも多いので、転倒に伴う自動車との接触事故についてはどんなに注意しても注意し過ぎということはない。
圧雪路は、あらゆる路面コンディションで最も困難なものなので、慣れないうちは絶対に速度を出すべきではない!死ぬ!!
一方、新雪の積もった道は、とても漕げたものではない。(10cm程度が限界のようだ。)
こういう場所には入るべきではない。
山チャリというか、一日の大半が”山チャリ押し”になってしまうので。

 以上は秋田での状況であるが、南国であればこんな心配は不要なのであろう。…うらやましい!

霙・雹

 ”みぞれ”や”ひょう”は、あまりお目にかかることはないが、そのコンディションの劣悪ぶりといったら、雨や雪の比ではない。
10月のある雨の日、鳥海山ブルーライン頂点の鉾立から麓の小滝にかけてのダウンヒル10Km以上にわたり、延々と霙を受けた時の寒さといったら、陳腐な言葉だが「死ぬ」かと思った。
ちなみにこの日、なぜかカッパも持っていかなかったというあまりの愚かぶりに閉口。
雹は、おとなしく一時休んだほうがいいと思う。
目が痛くて進めない!

曇り

 最も山チャリに適した天気かもしれない。
日が照らなければ、あまりヒートアップしないからだ。
しかし、どうせ山まで行ったのだから、晴れて大パノラマを楽しみたいと思うのが人の性だ。
当然私もそうだ。









晴れ・快晴

 これこそがアウトドアのベストコンディション。
当然山チャリも然り。
晴れた日は、景色もいいし、なにやら空気も透き通って美味しく感じる。
 輝きだしたばかりの朝日を全身に受けて走る事ほど贅沢な時間は、ほかに考えられない。
この時間はほんの一時しかないから尚更だ。


気温

 なぜ山チャリはこんなに温度差が激しいのか?!
真夏の炎天下のもと、灼熱のアスファルトの登り坂での暑さといったら、もはや暑いなどといったレベルではなく、「!」といった感じである。
一方、真冬の吹雪の中、凍りついた下り坂で烈風を全身に受けるときの寒さといったら、もはや寒いなどというレベルではなく、「!」といった感じである。
「全裸か?
着ぐるみか?!」
そんな世界である。

 山チャリストにはこれらに耐えるだけの辛抱強さが求められる。



 逆風の中を進むことほどの苦痛はなかなか無い。
風は、大地の上を悠々と常にマイペースに吹いていくが、一方地上に張り付いた山チャリストは、大海に浮かぶ筏のように小さい。
どれほどに足掻こうとも、風は容赦なくぶつかって来る。
風速5mを超える風の中を数時間逆らえば、体力はごっそりそぎ取られ、その上時間も浪費し、とても計画通りには進まない。
だから風向きは出発前に最も気にする事項である。
 風に対するひとつの対策は輪行である。
行きは風に乗って進み、帰りは逆風の中電車で悠々と帰ってくる。
これはなんか得した気分になれるのでお気に入りのプランだ。
 もうひとつ、計画を複数立てておくこと。
いざ行こうという段になって、風向きに応じた計画をチョイスすればベストだ。

 ここまで読んでみて、「ヨッキれんめ、意外とやわだな」と思われたかもしれないが、本当に風は嫌なのだ。ザコでも結構。
逆風は、あの日以来…。

 大潟村は日本最大の干拓地である。
この地は海に近く年中風が強いが、あまりに平坦なため風をさえぎる物は全く無く、延々と水田の広がる日本とは思えぬ別世界だ。
そこに行く筋かの直線の幹線道路が走っている。
その一本を走ったあの日…、風速は10mを超えていた。
 15Km以上も続く殆どまっすぐな道路を、猛烈な風に完璧に逆らい走る俺の出しえた速度は時速6〜7Kmばかり。
2時間にも及んだ戦い…いや、あれは拷問にも等しい苦痛。
地獄でした。

 そして俺は、風に弱い男として、生まれ変わったのでした。