新連載『百洞百景』では、従来のレポート形式ではお伝えしにくかった、隧道の持つ数々の魅力に重点を置いて紹介してゆきます。
個人の美的感覚は様々であり、私の拙文は蛇足になるかもしれませんが、敢えて。
それと、各写真の撮影地も文中では明かさぬものとします(質問にはお答えしますが)。
これから紹介する景色は、私にとって印象深い、そんな隧道のある景色ばかりです。
命を尽くし、お伝えしましょう。
洞の一。
早速ではあるが、この景色こそ、現役の隧道の最も好きな一瞬だ。
幹線国道、
静寂に包まれた山中、
闇の帳が下ろされた深夜。
そして、峠に穿たれた隧道。
洞内に轟音をとどろかせ、風の流れを背負いて坑門を突き抜けてくる、長距離トラック。
こんな景色からは、道が、隧道が生きていることを、よく実感できる気がする。
その轟音は、一帯の山中に静寂を赦さない。
それは、隧道が奏でる、誇らしげなファンファーレだ。
わたしは、悦んでその中に突入してゆく。
己がその隧道の恩恵に浴することへの、歓喜の喚声と共にだ。
いつしか私も隧道の奏の小さな一つとなり、峠を去るのである。