華厳滝の下流には、華厳渓谷がある。
日本有数の観光名所である栃木県は日光。
広大な日光観光圏のなかでも特によく知られた景勝地が、華厳滝(けごんのたき)である。
大谷(だいや)川にかかる落差97mの直瀑は「日本三大名瀑」に数えられる偉容を誇り、初めて目にした老若男女誰しもが感嘆の吐息を漏らす。
私は日光市の回し者ではないが、今まで自身が二度観光で日光を訪れ畏怖を持って滝を眺めた経験と、その展望台で一様に魂を抜かれたように滝を眺める群衆を目撃した経験からそう言える。
先に言ってしまうと、残念ながら今回のレポートでは天候の都合上、ナマの華厳滝は拝めなかった。
なので、華厳滝をまだ見たことがないという読者の期待には応えられないかもしれないことを、あらかじめお断りしておく。
さて、華厳の滝を実際に観覧された経験のある方ならばお分かりだと思うが、通常この滝を間近に眺める方法は一通りしかない。
それは、「華厳滝エレベーター」という有料のエレベータに乗って100mの落差を下り、渓谷中腹にある「観瀑台」から眺めるというものである。そのため、日本中のアルバムには同じようなアングルで撮影された滝の写真が、何億枚も収蔵されているものと思われる。エレベータは大人530円という料金であるし、正直乗らずに観瀑台へ降りたいと思う人も少なくないだろうが、乗り場の辺りをいくら探してもそんな道は見つからないはずだ。
また、観瀑台からはどこへも行くことが出来ないようになっている。
観瀑台はエレベーター以外のどことも繋がっていないので、地上にありながら隔離された空間といえる。
少なくとも、現状ではそうなっている。
それは漏れなく金を取るための“演出”などではなく、周囲の地形が険しすぎるため道をどこにも広げようが無かったのだと、そう納得させられる雰囲気ではあるのだが…。
ともかく、そこに華厳滝だけがポツンとあって、上流も下流も近づく術のない峡谷であるかのように取り扱われている。
実際には、そこにも間違いなく地表は存在し、外界と一連の世界があるにもかかわらずだ。
かつての観瀑台は、行き止まりではなかったらしい。
そのことを知るのは、かなり限られた世代の人だけだと思う。
昭和25年頃、栃木県は観瀑台から華厳滝下流の「華厳渓谷」へ下る遊歩道を新設し、それは「第一いろは坂」の登り口まで繋がっていたそうだ。
麓から中禅寺湖を目指す徒歩の最短ルートとして重宝がられ、また景勝地を多く通ることから利用者も少なくなかったらしいが、さほど年数を経ないうち危険な状態になって封鎖されたようである(『郷愁の日光(随想舎刊)』より)。
また、この渓谷歩道の途中には、今回の表題にある「鵲(かささぎ)橋」と名付けられた瀟洒なアーチ橋が架けられていたという。
そして、読者から寄せられた情報によれば、その橋がどうも残っているらしいのだ。
幻の遊歩道に残された「鵲橋」が今回のターゲット。
これからお見せする写真は、「第二いろは坂」の途中にある「明智平」という眺望の名所から眺めた華厳渓谷の姿である。
ただし、残念なことにこの日は天候に恵まれず眺望ゼロだったので、そこに建っていた看板を撮した。
しかし、看板の写真にも目指す鵲橋の姿が、くっきりと写っていた。
探索当日(2008年5月10日)の明智平の様子。
ここからロープウェーで展望台に登ると写真の眺めが得られるそうだが、この日は生憎の濃霧。
日曜にもかかわらず客足は疎らであった。
5月なのに猛烈に寒いし…。
写真のパネルを撮影。
左上に写っているのが、言わずと知れた華厳滝。
右下にあるのが、知る人ぞ知る白雲滝だ。
鵲橋、 見つけられただろうか?
発見!!
スマートなアーチ橋が、白雲滝の波濤に影を落として架かっている。
すばらしい!
近づいたらどんな眺めが見られるだろう!
スゲー、ワクワクする!
もう一度、引いた写真と見比べてみたい。
撮影時期の緑が深く、崖地以外の地形のはほとんど窺い知れないが、
観瀑台とはさほど離れていない(200mほど?)の位置に、鵲橋は架かっているようだ。
観瀑台からアクセスできれば比較的容易に辿り着けそうな気もするが、
そこには“開かずの扉”が行く手を阻むという。
私にこの魅力的な廃道の情報を提供してくれた人物「みやこ♂」氏が数年前に体験した鵲橋への「特別探訪」の模様を、彼のメールから一部引用して紹介しよう。 それは、私を危険な探索に駆り立てる灼熱情報のてんこ盛りだった。
わたくしの場合,「華厳の滝エレベータ」で地下に降り,エレベータホールに正対する地下道を直進,正面の折れ曲がりの鉄扉から外界に出ました。
(通常はここで右に曲がり観瀑台へ直行します)
この扉は窓もなく,通常施錠されており,通ることは出来ません。
わたくしは「関係者」との同行でしたので,堂々と通りました。
扉の外はもう,華厳渓谷。禁断の地。
とはいえ沢沿いにいきなり出るのではなくて,やや高度はあります。
そこからは,山腹に細く刻まれた巻道を通って東に張り出た尾根を越え,(この区間は樹林の中)やがてガレ場に至ります。下方に遠く鵲橋が見えたような記憶があります。
ガレ場を直下し,再び樹林の中にはいると,岩くれの中から,コンクリート階段が顔を出しているのに気づきました。
落石ですっかり埋まっていたのです。
しかもこの階段,やたらと急な上に踏み面の幅が非常に狭く,歩きづらいことこの上なし。
まぁ,そんなこんなで鵲橋右岸たもとに到着。
橋自体に致命的な破損はなく,渡っていても不安なことはありません。しかしあたりは落石の海ではあります。
そこから,道(?)はさらに下ります。
はっきりとした道形はなく,大きな転石を伝って降りた記憶アリ。
で,華厳の滝本流との合流点に永久橋があって,ここで,華厳渓谷本流の古河電工管理道に入るわけです。
本流には,古河が架設した簡易な吊り橋が4つか5つあります。
「しっかりと管理された」この歩道を使って降りてゆくと,もの凄く古い古河の変電所に至ります。
そこが歩道の終点。
ちなみに変電所に車で来ようとすると,いろは坂を下ってきて,カーブのところから進入します。
ただし,変電所手前の鉄柵が行く手を遮っています。
もう何年も前のことなので,記憶がいい加減だったらゴメンナサイ。
当時,写真もいっぱい撮ったのですが,今,手元にありません。事情,お察しください。
開かずの扉と、その奥に隠された …幻の遊歩道…。
行きたいッ!!