廃の二


命を賭して …絶壁隧道

 前回紹介した仙岩峠は、繁栄と零落の大きな較差が、心に響く廃道であった。
そういった要素の醸し出す魅力は、多くの廃道が大なり小なり有する。
しかし、今回紹介する廃道は、その魅力のベクトルが、おおきく異なる。

 この道は、山形県中南部、御所山の奥深くに存在している。
その由来の子細は不明だが、車両が通行するに十分な道幅を有するにもかかわらず、登山者や山菜採りにのみ、細々と利用されているにすぎない道だ。
少なくとも、この道には、仙岩峠にあったような心惹かれるような歴史を、私は知らない。
しかし、この道が私に残した印象は、極めて大きい。

 なぜならば、廃道のもつ、もう一つの魅力を、最大限に感じたからだ。

…それは、スリルという、快感だ。


 思えば、山チャリの魅力の大きな部分も、スリルが占めている。
スピードのスリル。
車と併走するスリル。
危険な道を往く、スリル。
廃道が、他のどんな道よりも多く持つ、落石や滑落といったスリルは、山チャリを愛する気質と、合致する。


 見所満載(かつ危険箇所満載)のこの道でも、圧巻なのが、写真の隧道だ。
私は、その前に立ったとき、しばし身動きが取れなかった。
目の眩むような崖の迫力に、足が竦んだのではない。
それまで見てきたあらゆる隧道を一瞬にして超越する、その圧倒的な存在感に、迫力に、心打たれたのだ。


 廃道の魅力は、失われた繁栄の残照と、ぞくぞくするようなスリルだ。
その意味で、仙岩峠とこの道は、自身にとって「廃道」の両極に位置する、象徴的な道なのだ。







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