日本には四季がある。
そんな当然のことが、山チャリに与える影響は、
豪雪地秋田において、ことのほか大きい。
春 3月中旬〜6月中旬
昨今、除雪ではなく「利雪」だ、などと盛んに言っては見ても、やはり山間部を中心に積もる数メートルの雪は、生活の邪魔でしかない。
そして、やっと訪れる穏やかな春は、県民の多くが最も待ち望む季節だ。
それは、山チャリストにとっても同じことで、雪とはどうしても相容れない自転車を最大の武器とする山チャリ。
春が待ち遠しい。
しかし、なまじ春になったと勇んで飛び出すと、痛い思いを見る。
郷ではすっかり雪も消え、遠くに見える山々にのみ、白いものが見える。
大体、3月下旬から4月上旬の景色だ。
そんな日に、天気もいいからと、少し山に入ってみる。
…そこにあるのは、まるで親の敵のように憎憎しく横たわる多量の残雪である。
麓からは、雪なんでまるで見えなかったはずの山にも、どういうわけか、道の上には雪がある。
斜面に無いのに、道には、あるのだ。
対処法など無い。
むきになって飛び込んでいっても、結局どこまでも続く柔らかな雪に体力と時間をごっそり奪われるのがオチだ。
とにかく、春の山道で雪が現れ、しかも、その上に先行車の気配が無いときは、早々に諦めたほうが良い。
せっかく訪れた山で、雪に阻まれる。
そういう目にあわないためには、とにかく山行きを繰り返し、その年の(前年の状況は全くあてにできないものだ)残雪状況をしっかりと見定めることが重要だ。
地元に住む友人などがいれば、話は早いのだが…。
しかし、見定めがドンピシャで、その年一番乗りで道を制覇することができたら…、それはかなりの快感だ。
そううまくいかないのが、常なのだが…。
この時期の、主要なターゲットとしては、まず第一に廃道があげられる。
夏から秋にかけては、背丈を越えるような藪や草地に阻まれる道も、タイミングが合えば、奇跡的にクリーンな状態で眼前に姿を現すことがある。
この時期にしかできないこと、それは、破棄されて時間の経った、特に難渋な廃道の攻略である。
夏 6月下旬〜9月中旬
秋田ではそう長くはない梅雨を過ぎると、いよいよ暑さが体に堪える季節になる。
梅雨で暫く家中に押し込まれていた身としては、かなりハードな旅をこなしたくもなろう。
しかし、この時期の山チャリには、普段では考えられないほどの体力を消耗する。
いうまでもなく、その元凶は、暑さだ。
秋田の平野部は、まさに冬は寒く夏暑いを、地でゆく。
現に、日本の記録上の最高気温42度強というのは、南国ではなく隣県山形で記録されたものだ。
風の無い日の夏の山チャリ、その上、過酷な上り坂となれば、それはもう、拷問以外の何物でもない。
その辛さは、とても文章で表現できるものではないのであるが…
私は対策として、夏でも、本当に暑い8月については山チャリ自体を控えるか、あるいは、日が昇ってからはできるだけ速やかに帰途に着くというパターンでこなす事にしている。
なんとも消極的ではあるが、もともと風を切って走るというよりは、地味に峠を漕ぐことが多い山チャリだけに、これは止むなしと考える。
意外と思われるかもしれないが、世間が夏休みだなんだと、余暇モード全快のころ、山チャリは休眠中なのだ。
この時期に主なターゲットとなるのは、まず、高山など積雪の多い場所。
それ以外のあらゆるターゲットも、走行可能な時期であるが、暑さはなんともしがたく、曇りの日を選んで走ったほうが良いとも言える。
…夏は、嫌いだ。
秋 9月下旬〜12月初旬
山チャリのベストコンディションは、秋だと思う。
暑さは厳しいものの、吹く風に涼しさが感じられる9月下旬から、朝夕にいたっては寒さを感じ、日中は最も適温と感じられる10月、初霜が観察され、遠くに見える山の頂に白いものが表れる11月、いよいよ日中でも寒さが気になるようになったら、まもなく平地にも雪が降り、その頃から、急速に行動範囲が狭まり、一度雪に阻まれたなら、それがシーズンアウトの合図となる。
急激に移り変わる気温と、一日の内でも安定しない天気。
夕立なども頻繁に観測され、魅力的なシーズンに違いはないが、意外にアクシデントも多い。
秋の行楽シーズンにも重なり、観光地は人も多いのだが、平日は疎らである。
ただ、平日でも多いのが、キノコ狩りの人たちであり、驚くような山中の林道で平然と走る軽トラに出会うことも。
そんな実りの秋は、確かに、どこを走るにも快適だ。
惜しむらくは…、私、紅葉よりも、新緑が好きなんである。
贅沢というものだろうか。
この時期はどこに行っても外れはない…と思ったら、そう。
廃道だけは、止めたほうが良い。
一年で最も、廃道のお供「ススキやアシ」が成長しており、それはもう、無傷ではいられない。
熊さんたちの行動も、冬を前にエスカレートしているので、一応注意であるが。
冬 12月中旬〜3月初旬
冬は、一般に最も山チャリに不向きな季節である。
特に、平野部とはいえ一面の雪に覆われる厳冬期…1月2月は、確かに絶望的である。
通れる道は、除雪された幹線道路に限られ、その上、幹線道路といえば交通量も多い。
アイスバーンとなった道は、他車がいなくても十分に危険なのに、そこにビュンビュン車が通うとなれば、一転倒即死となり得る。
「いや、俺転倒しないし」
なんて、毎年のように強がっては見ても、やっぱりする時はスルッ。
というわけで、この厳冬期、走る場所も少ないうえに、危険、かつ、耐えられぬ寒さ。
山チャる理由はどこにも無い。 そう言わざるえない。
しかし、まだ雪が根雪になる前の12月や、やや寒さの緩む3月は、まだ何とかやりようもある。
走行できる場所は、やはり幹線が中心となるのであるが、春同様、廃道のアプローチには比較的向く。
雑草を漕ぐのよりかは、個人的に、雪を漕ぐ。
あとは、なんと言っても、海である。
普通、夏は海、冬は…、
となるのだが、山チャリでは、『冬は海』なのである。
冬の日本海…、考えただけで身震いがするが、その通り、寒さは尋常でない。
吹きすさぶ海風に、チェーンが凍りついたり、ブレーキシューが動かなくなることさえある。
しかし、一日中狂ったように吹きすさぶ北風を武器に、普段では考えられないほどのハイスピードで南下したり…。
ま、それは一般的ではない、屈折した楽しみ方と思うが。
とにかく、海沿いは、その猛烈な風のせいで雪が積もっていない。
いや、ほんとに雪が積もってないから、試してみてほしい。(なにをだ)
冬は、海。
それ以外ないからだという説もあるが…4ヶ月もオフシーズンでは、耐えられないでしょ。