その31作見内隧道と花原市隧道2003.7.17撮影
岩手県下閉伊群新里村 〜 宮古市




 自身の初!三陸海岸まで後一歩と迫った、2003年7月17日15時30分過ぎ。
盛岡を午前8時に発って以来、ただただ国道106号線を辿ってきたが、道程は長かった。
これほどに時間が掛かったのは、旧道との戯れが過ぎたという理由もあったが。

ま、その話はまた今度。
今回紹介するのは、やはり旧国道106号線にある2本の古い隧道だ。

 



 この日の天候は生憎のどんより曇り、冷たい霧雨が時折降り注ぐコンディションでは、テンションは下がり気味である。
既に半日近くを共にして来た閉伊川の流れも、河口が近付き緩やかな景観を見せはじめた。
いい加減、どこまで行っても変化に乏しい渓谷風景に飽き飽きしていた頃である。
しかし、やっと景色に変化が現れ、さらには先には見えるのは… トンネルだ!
忘れかけていた興奮に、思わず漕ぎ足が軽やかに。



 ちなみに、この道は旧国道である。
山肌に沿った砂利道だが、それなりに通行量があるようで、フラットである。
また、道幅も1.5車線ほど。
私は現役当時の姿を知らないが、如何にも一昔前の地方の国道の姿といえよう。
そして、旧道の右には、全国有数のローカル線の一つである山田線の鉄路が、少ない列車を待って鈍い光を放っている。
さらに、この線路をサンドイッチする形で、川に最も近い位置を走るのが、現国道である。
三者がこのような位置関係にあり、しかも、これほどに密接しているというのは、かなり珍しいだろう。




 川岸に迫り出した山肌を、旧国道と線路は仲良く並んで隧道にて通過する。
現国道だけは、何事も無かったかのように脇をすり抜けているが。
写真の右下に少し見えるのが、線路のトンネルである。

この扁額すら持たない殺風景な坑門は、比較的近代的な作に見えるが、その竣工は古く、お馴染み『山形の廃道』サイト様提供の資料によれば、なんと昭和9年の竣工という。
そして、並走する山田線の開業も昭和9年という一致がある。
これは偶然ではなさそうだ。
これほどに接近した両者であれば互いの工事が影響するだろうし、別々に施工するのは非効率的だろう。
それに、二つの坑門には見た目の共通点も感じられる。





 扁額はおろか、工事銘板もなく、全くのっぺらぼうなこの隧道。
先の資料によれば、「作見内隧道(延長60m)」という名だ。
そして、この短い隧道こそが、新里村と宮古市の行政界である。

なお、宮古市側の坑門の姿はまた独特で、十分に古さを感じさせる。
しかしこれも、山田線の鉄道トンネルの坑門と大変良く似た施工である。
これほどに短い隧道で、両坑門の印象がこんなにも違うというのも、珍しい。




 作見内隧道をくぐると、すぐ先に採石場がある。
そして、その先は殆ど利用されていない様子のダートとなっている。
だが、残るもう一本の隧道はもうすぐだ。




 これが、「花原市隧道(延長26m)」である。
今度は、鉄道にも隧道の姿は無く、最も山際の旧道だけに、岩肌を削ったような短い隧道が口を開けている。
高さ制限は2.6mとあり、高さ4.0mにて竣工している筈だが、そのキャパを十分にいかしきれてはいない。
もっとも、今やそれは全くどうでもいいことだが。

なお、個性的な隧道の名は、「けばらいち」とよみ、同名の駅がすぐ近くにある。





 内部の様子は、作見内隧道とよく似たノーマルなコンクリ。
昭和9年にしては、普通過ぎる感じもしたが、いや、考えてみたら、昭和12年竣工のあの栗子隧道だって、ちゃんとこれと同じ様な施工を受けていた。
ああっ、普通だと言ったが、両側の側面に等間隔に空いているアーチ状の空洞の意味は全く不明…奇異だ。
その奥には素のままの岩石が覗いているばかりである。もしかしたら竣工時の姿は… コレ?

この国道106号線の原点である『閉伊街道』といえば、岩手の県都と沿岸を結ぶ最も重要な街道の一つである。
ちなみに、隧道竣工時(昭和9年)には、この道はまだ県道『盛岡宮古港線』であって、二級国道106号線に指定を受けたのは、昭和38年のことである。



 傷みが目立つ宮古側の坑門。
この2本の隧道の景色の中では、ここの眺めが最も好きだ。
現在のか細い草道と比して異様に幅広の坑門など、いかにも重要であった旧国道の雰囲気がある。

ここを過ぎると、間もなく花原市の集落に達し、旧道は舗装路となり、現国道に吸収される。





 これが、その合流点である。
丁度盛岡行きの普通列車(1両!)が、ディーゼルの唸りも高らかに横切っていった。


私はこうして、太平洋まであと10km地点の旧国道に別れを告げた。
そして一路、宮古を目指す。 しかししかし、この日はここから先もまた…、長かった…。





作見内隧道   延長 60.2m  幅員 5.0m  高さ 4.0m  1934年竣工
花原市隧道   延長 26.0m  幅員 4.8m  高さ 4.0m  1934年竣工

二隧道とも、現役で稼動。
ただし、花原市隧道は特に利用者が少ないようで、存続は不安。


2003.7.21作成
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