その57本山隧道2003.4.3撮影
宮城県玉造郡鳴子町



 国道108号線を県境の鬼首峠から鳴子へ向けて下っていけば、途中大きな人造湖が右手に現れる。
これは、昭和32年に江合川を堰き止めて誕生した荒雄湖である。
細長い湖の頭に近づけば、近年では余り見られない形のダムが見えてくる。
日本人のみの手で設計建築された日本初のアーチ式ダムといわれている鳴子ダムだ。




 ダムサイトを右下に見つつ、国道は堰を切ったように急な下りに転じる。
このまま下りは鳴子温泉郷まで続くのだが、このダムサイト傍に一本の使われていない隧道が口を開けている。
写真のS字カーブの途中に、その入り口は少し注意していれば容易に発見できる。




 丁度カーブの突き当たりにあるので、もし開放されていればうっかり進入してしまいそうだが、残念ながら施錠され完全に封鎖されている。
隧道が潜る山の上には、鳴子ダムの管理事務所が建っており、この尾根線がそのままダムサイトに続いている。
大型車や観光バスなどが多数往来する国道108号線だが、道幅が狭く、カーブの外側のコンクリの法面に挟まれた場所にいると、大変な圧迫感を感じる。
また、視線も感じる。




 隧道には、銘板が存在する。
赤茶けた鉄の銘板には、達筆な字で「本山隧道」「昭和二十八年四月竣工」とある。
見た目通り、かなり年代物の隧道である。
しかもこの隧道、かつては国道のものだった。



 ゴタゴタとくだらない物が取り付けられ著しく美観を損ねているものの、坑門の丁寧な迫石など、見るべき部分もある。
内部には残念ながら立ち入れないが、柵の隙間から内部を窺うことは出来る。
怪しさ全開の私は、カメラを柵に近づけた。



 「山形の廃道」様提供の全国隧道リスト(昭和42年版)によれば、国道108号本山隧道は、延長136.0m、幅3.6m、高さ3.8m。
現在ではダムの管理下におかれているようで、内部も点灯され綻びもないようだ。
通路としても普段から使われているのでも無いだろうから、この照明は勿体ないような気がする。
内部のどこかに重要な機能が隠されているのかも知れないが。

とりあえず、反対側の坑門へ向かう。
現国道を鳴子側へ向かえば、それはすぐに現れる。



 現道は、鳴子棧道橋(昭和47年竣工)によって、2車線の内の大部分がダムサイト上に張り出している。
ここは、見下ろすとお股が「スーーゥ」となるポイントである。
なんせ、ダムサイトまでですらご覧の高さなのに、少し視線を左に遣れば、堤高94mの下方が一望できるのだから。
しかし、重力式ダムのずんぐりむっくりした姿を見慣れていると、アーチ式ダムはいかにも華奢で、雪解けの水を満々と湛える姿に、不安すら感じる。
強度的に、将来に亘って大丈夫と保証できるのか…などと、要らぬ心配をしたくなる。





 反対側の坑門の様子。
棧道橋は崖に張り付くようにして、隧道を迂回している。
隧道より手前については、山側の一車線を旧道敷きと供用している。
ダムサイトに向かって張り出した尾根を隧道で潜るというのは、全国でも無数に存在する基本パターンのようなものだが、如何せんこの本山隧道は規格が小さすぎた。
工費をケチったのか、将来にも交通量は増えないと考えたのか、幅3.6mというのは国道としてどうかと思う。
お陰で、僅か19年間の使用で強度的には問題がないままに、現道に切り替えられてしまった。

ちなみに、現道も荒雄湖畔一帯は急勾配と屈曲が連続する難所であり、橋梁なども老朽化が進んでいるため、現在ダム対岸の山中に大規模なバイパス工事が進行中である。




 鳴子側の坑門は、特徴的な形状である。
坑門が隧道の進行方向に対し45度傾いており、迫石も変則的な形状をしている。
これは、一見の価値がある。


以上、場所はいいのに狭すぎて使い物にならない本山隧道をお伝えした。


2004.6.20作成
その58へ

その56へ