森吉森林鉄道。
「全国森林鉄道(JTBキャンブックス)」によれば、その全長は33.9kmとある。
国鉄阿仁合線(現:秋田内陸線)阿仁前田駅付近の貯木場に端を発し、小又川に沿って東進。
途中、森吉や小滝などの集落を経由しつつ森吉山北麓を通過、その終点は小又川源流に近い大杉集落にあったという。
さらに、途中からは幾つもの支線が延び、またその支線からも事業線と呼ばれた一時的な軌道が敷設されるなど、往時の森吉町には、県内の他の木産地に勝るとも劣らない遠大な鉄道網が存在していた。
それらは全て、昭和43年までに廃止されている。
この森吉森林鉄道には森林鉄道としては珍しい、ダム建設に伴う路線の付け替えという一大転機があった。
昭和28年に完成した森吉ダムの建設の際に、ダム下部の平田地区から終点間近の大杉地区まで小又川沿いにあった軌道を、湛水域から逃れるため、その南側の山中に付け替えたと言う記録が残っている。
「秋田県土木史」によれば、その付け替え軌道の延長は6300m、新設された橋梁は7本。
さらに、これは公式の記録では無いのだが、そこには少なくとも7本の隧道が存在していたという(「森吉山麓風土記」より)。
付け替え後、この路線が現役で稼動したのは、僅かに15年。
巨費を投じトンネルと橋梁で山河を貫いた新鋭の軌道跡は、一度も地形図に描かれることなく廃止。
その後転用されることもなく、その殆どが人跡まばらな山中に取り残されたのである。
この区間の遺構として最も知られたる物としては、森吉ダムが生み出した人造湖である太平湖を跨ぐ巨大な鉄橋が挙げられよう。
奥森吉最大の観光地である小又峡への唯一の足として湖を往復する観光船は、一日に数度、この鉄橋を潜る。
錆び付いた鉄橋が影を落とす蒼い湖面と、燃える様な紅葉の赤。もしくは萌える緑。
この完璧といえるコントラストにさらなる情感を加え、景色を一幅の絵画へと昇華させしめた鉄橋だが、いまだ、鉄橋上の様子は明らかではない。
すぐ傍に見えるのに、そこは、未知の世界なのである。
まして、鉄橋の前後にあるはずの長大な隧道など、異界の如きだ。
この軌道跡にロマンを求め単身乗り込んだ私だが、前回の初探索では、湖面すら見ぬまま、暗き隧道の内部で無念の撤退となった。
そして、10月30日。
駆け足で過ぎ去ろうとしている秋に追いすがり、本件に関しては今年ラストとなるであろう探索を企てた。
今回は、水没隧道突破を諦め、付け替えられた軌道跡を、終点側の大杉地区から辿ってみたい。
最終目的は軌道網の全容解明だが、まずは、湖面を渡る鉄橋を到達目的地と定めた。
まずは、大杉への道を、駆け足でお伝えしたい。
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