11:08 【現在地】
無礼と思った橋の正体は、実は将来の自分、不通を解消してくれるかもしれないという、希望のこもった自分の姿であった。
しかし、探索の時点ではそれを知らず、将来の改良工事は、足元のこの道をベースに行われるものと疑っていなかった。
ああ 無情。
この県道は、 いずこへ行くのか。
真弓神社入り口と書かれた木製の標柱が立つ分岐(上の写真)を過ぎ、いよいよ本格的な山岳道路の様相を呈してきた。
道幅は2車線分あるのだが、当然通行量が少ないので、両脇は泥が溜まっている。アスファルトもひび割れている。
せっかくコンクリートで施工された法面も、まったく清掃されないものだから大変な苔まみれ。
かなり哀愁漂う道路風景となっている。
うんこくろだ ムッツリ小又
苔むした壁は、小学生の落書き場と化していた。
しかし、いったい何しにこの奥へ行ったのだろう。まさか通り抜けたのか?
沢底に敷かれた道は、右に左に蛇行を繰り返しながら、着実に高度を上げていく。
この写真で分かるとおり、結構道幅は広く、殆ど消えてはいるが路肩に白線も敷かれている。
将来的に開通する見込みのない道をここまで整備することは無いだろうから、かなり以前は、このルートを延長して不通区間を解消するつもりだったのだろう。
道は沢を埋める形で作られているので、側溝は小さな川の役割をしている。
しかし、流れる水は妙に白く濁っていた。
これは果たしてどうしたことか。
行く手に、何かがある?
さらに進む。
先ほどはコンクリートの屈強な法面があったが、どうしたことか、進むにつれ、険しい法面も地山のままとなった。
敷かれてから、一度も補修されたことがないと思われる舗装は、至る所に亀裂が入り、土を露出させている。
11:19 【現在地】
入り口から2.7km地点。
大きなカーブを境にして、遂に舗装は途切れた。
地図で確かめると、峠まではもう700mほどだが、もう少し先までは県道の色で塗られている。
通行止めが先か、行き止まりが先なのか。
にしても、未舗装でありながらこの道、異常によく搗き固められている。
お陰でとても走りやすい。舗装とほぼ同じ感覚で走れる。
それに、妙に白い。
白さの訳は、路面に多数の石灰の礫が敷かれているためだ。
もちろん、自然にこんな路面が出来るわけもなく、石灰石で舗装したのだろう。
変わった道だ。
そして、いよいよ通行不能へのカウントダウン再開。
この道に入って二度目の告知である。
石灰石舗装による白亜のロードが美しく続いているのだが、本当にこの道は終わってしまうのか。
看板には、「この先」と「全面通行止」の活字に挟まれて、手書きの「通行不能」の文字が、書き足されていた。
上の写真の直線が終わらないうちに、ついに「その時」は来た。
立ち入り禁止のゲートである。
だが、あくまでも「車両進入禁止」のようである。
さらにゲートへ近づいてみると、手書きの注意書きがあった。
この道は通り抜け出来ません!!
石の倉鉱山
「 !! 」の記号の上下が反転しているのはなぜか分からないが、ともかく、この石灰石の舗装の理由は分かった。
単にこの先に、石の倉鉱山という石灰採石場があったのだ。
道ばたに置かれていた意味深なゴミ。
女児用の長靴1足と、それを取り囲むように置かれた、幾つもの「甘酒」の空き缶。
これは何のまじないか。
ゲートは驚くほど脇が甘く、やはり自動車以外の通行を阻止する意図はないようである。
越えて100mほど進むと、広場にような場所に出た。
ちょうどゲートの場所で沢を上り詰めた形になっていて、既にここは稜線にもほど近い山腹である。
広場の周囲は若い杉の植林地になっていて、以前はここも採石場だったのかも知れない。
シャッターの下ろされた小屋のような建物の傍に、この場所の解説板が立てられていた。
曰く、「育種素材保存園( Breeder's stock garden)」という施設だそうだ。
初めて見聞きする言葉だが、下に詳しい解説文があって要約すると、材木として優れた特質を示した精鋭樹のクローンを育てて研究する施設、とのことだ。
保存園では、数本の細い車道が分かれていったが、最も太い直進の道が県道である。
植林地を過ぎ、緩やかな登りはいよいよ市境に近づくが、依然として幅広のダートが続く。
間違いなくここが県道であるはずだが、何もそれと分かるようなものがないのが寂しい。
辺りには、最もありふれた「石標」(○○県などと書いてあるヤツ)さえ見あたらない。
手許の地図帳では、まだこの辺りは県道として色塗りしてあるのだが… 実はもう私有地に入っているのだろうか。
地形図を文字通り片手に握りしめながら走る私は、この分かりにくい分岐を、見逃さなかった。
わずか800mほどの不通区間ではあるが、まったく道を失って越えられるほど甘くはないし(チャリ同伴ならなおさらだ)、そもそも、何もない原野を乗り越えてというのは、ロードハンターとして楽しいものでもない。
やはり、かつてはあったかも知れない道。
或いは、地図には明示されないが、不通区間を結びつけるために存在する道。
そういったものを見いだして、峠を越えたい。
そう願うなら、この分岐は見逃してはいけない場所である。
当然のように、ここは左だ。
不通区間突破のステージが始まるのだ。
次回、 後編。