走破レポート  河北林道 その5
2003.3.3



 現実は、やはり甘くなかった。
夕暮れ迫る中、なんとか峠を越した私であったが、結局、残り15kmの地点で、夜がおとずれた。

明かりも無く、防寒着も無く、仲間も無く…
暗く深い森の中、脱出生還へのファイナルバトルが始まる。

<地図を表示する>

 
現在地不明
17:27
 木々の間に見える西の空には、まだ夕暮れの余韻がある。
なんとも寂しい明かりだが、人工的な明かりを持たない私には(←本当に、何で懐中電灯を持ってきてないんだよ。俺)、これでも無いよりましである。
この写真も、今となっては、どこで撮影したものか判別しかねるが、時刻から考えるに、中芝沢と大滝又沢の出会い付近から、進行方向(西)を撮影したものではなかろうか。
正面に写る高い山は、太平山だろうか?

天に月
17:32
 大滝又沢出合を過ぎ、赤倉林道分岐付近と思われる。
道は、南西に進路を変えており、空には月が輝き始めていた。

 なんとも幻想的で、落ち着いた眺めだが、カメラを持つ私の手は、震えていた。
寒いのだ。
疲れきった体の芯から、深刻な冷えが、全身を襲っていた。
緩やかな下り坂が延々と続いており、風を切って進むことにより、ますます冷えた。
濡れた衣類が、靴が、手袋が、本来私の体温を守るべきもの全てが、逆効果に思えた。

 冗談抜きに、これは凍死できる状況だ。
歩みを止めたら、あるいは…、進むことが出来無いようなアクシデントに遭遇したら、私は無事に還れなかっただろう。

 上荒沢林道分岐
17:46
 カメラのフラッシュで撮影した写真だが、かすかに右のほうに白い立て札が写っている。
ここは、丸舞園地にも程近い上荒沢林道の分起点である。
残りはあと6km。
 もし、昼間の旅であれば、途中様々な場所で写真を撮ったろうが、余りに暗く、余りに寒く、立ち止まる気にもならなかった。
一刻も早く人家の灯りが見たいという一心で、
パンクや転倒の危険を顧みず、視界の殆ど聞かない闇夜を、疾走したのだ。

 一種異様な感覚が、あった。
広い山の中を、自分が駆けているのだが、まるで、自分は止まっていて、まわりの景色が高速で流れてゆくような…。
砂利道なのだが、えらく静かに感じていた。
闇夜の砂利道を、高速で駆け抜けた。
そして、それが、感覚だけでなかったことは、24分間で9km近く走行していたことからも、明らかだ。
普段、視覚情報が圧倒的に走行を支配していると思われるが、極端に視覚が落ちたこの状況で、五感の内、他の四つが、普段以上に働いたのかもしれない。
人間の、超能力を、少しだけ信じられるような体験であった。


舗装路
17:59
 丸舞園地から2kmほど進むと、舗装路になった。
以前は砂利道だったので、県道化の恩恵を受けたようだ。
この辺りより下流は、岩見ダムのダム湖に沿って、アップダウンと橋梁を繰り返す区間であり、これまでは長らく下り基調だったが、それもここで終わりとなる。
そして、そのことは、いよいよ河北林道の終わりが近いことを教えてくれた。

そんなことよりも、早く家に帰って、あったかい風呂に入りたい!
脚に鞭打ちまくり、容赦なく漕ぐ!
上りも下りも、容赦しない。
全開だ!

道は殆ど直線だが、無灯でダム湖畔を飛ばしたのは、今思うと、ぞっとするものもある。


 写真は、本文と直接関係無いが、暗闇ばかり撮影しても仕方ないので、自分撮りをしてみた。
目が、どこかに行ってしまっている。口も、おかしい。

… さすがにこの表情は、公開をためらったが…

河北のハードさを最も良く顕しているのではないだろうか?
あなたも、こんな顔になりたくなかったら、午後二時にもなって、河北に立ち入らないことだ。

岩見ダム …河北林道起点だ
18:13
 暫く走ると、時折、暗闇の中にチラリチラリと、白い灯りが見えてきた。
あれは、岩見ダムのダムサイト上の灯りに間違いない。
ついに、長かった河北林道の終点、ではなくて、こちら側が起点なのだが、
とにかく、河北林道の最後が、すぐ傍まで迫ってきた!

河北林道起点
18:17
 ダムサイトに向かう道との分岐点が、河北林道の起点であり、標柱も立っている。
路傍に立つ看板には、2時間前に峠で見たそれとおんなじ文言が書かれていた。


 河北林道、全長33キロメートル。
通過に要した時間、3時間42分。

確かに、険しい道だ。
でも、それだけじゃない。
走るたびに、私を大きくしてくれるような気がする。
偉大な、道だ。
そして、道自身も、確実に進歩している。
生きている、道だ。

 多くの教訓を与えてくれる、我が山チャリの師匠― KAWAKITA。
今回学んだこと…

 1.時間に余裕を持って、入山するべし。
 2.防寒具や雨具は、しっかり持参するんべし。
 3.灯りを持たぬなど、言語道断である。アホゥ!

過去に学んだこと…

 4.悪路ではむやみに速度を出さない。理性を持て!
 5.夏場は、多めに水分を持て。がぶ飲みしない。自制せよ!
 6.山でパーマン2号の名は口にしない。雨が降る。

「ありがとうございましたっ。 師匠っ!」 











 こうして、無事、河北林道を突破し、後は一路、自宅へ向かったヨッキれん。



のはずなのだが、謎の写真(→)が、撮影されていた。

なにやら、チャリをたたんでいるようにも見えるが…。
これは…、帰宅後??

 いや、すぐ後ろには、停車中の車が写っており、野外のようである…。
……。
 一体、彼の身に、何が起きたのか?!
そして、撮影者は、誰なのか?!













 なっ、なんだ。
メモリの最後に残されていた、この写真は何だ??

先ほどの、チャリを野外でたたんでいた写真と、何か関連がありそうだが…。


 まっ、まさか…。
まさか、彼は、旅を途中で Give UP!!! したというのか。

そんな、信じられない。
あの、ヨッキれんが…Give UP!!!!


その上、チャリを友に回収させ、自分は、助手席で、この笑顔。
これが、これがあの、ヨッキれんの、
Give UP!!!!!画像だというのか?!
こんな腑抜けが、その気になって、「河北攻略!」とか、言っているのか?
いいのか、それで。
いいのか、ヨッキれん?


「いいんですよ。」   (ヨッキれん氏談)
「帰り道、余りにも寒かったので…」   (ヨッキれん氏談)
「いや、別にお願いしたわけじゃないんですよ。」    (ヨッキれん氏談)
「たまたま、友達が通りかかったものだから…。ねぇ。」     (ヨッキれん氏談)


                  いささか疑惑を含みつつも…
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