神奈川県道515号 一般県道 三井相模湖線 第二回

公開日 2007.1.14
探索日 2007.1.10

津久井湖北岸の廃県道

幅員1.7mの極限車道


7:56 [地図

 これまで色々な県道を走ってきたが、登山道県道のような自動車不通区間を除けば、私の経験上ここが県道最狭である。
というか、これより狭い制限となれば、普通車はまず入れないだろう。
自動車不通区間の定義にかえれば、「3トン積みの普通貨物自動車が通れる」とのことであるが、ここはそのような不通に指定されていないことから、その条件はクリアしていると言うことになる。

 それにしても、この存在感抜群の幅員制限ポール。
いつ設置されたかは不明だが、その存在はウザイ様でいて重要だ。
「車が通っている気配もあるし、まあ何とかなるだろう」などと1.7mより幅のある車で立ち入れば、確実に泣きを見る。
何があっても転回は絶対に不可能だからだ。
重要な役割を果たすこのポールは、決して伊達ではないのだ。
あなたの車が普通車だとしても、必ずしも通れるとは限らないので油断召されるな。


 未施工の法面と、ガードレールだけが頼りの路肩。
一応鋪装はされているが、きっと簡易鋪装だろうし、大雨でいとも容易く通行止めとなるのも頷ける。
こんな幅では、道路全てが路肩である。

 そして、ここは広い道を造ろうにも、それが叶わぬほどの急傾斜地なのである。
自治体に金が無いからこんな道なのだという訳では無さそうだ。
地形図を見ても、おそろしく密な等高線が湖畔から都境の稜線まで刻まれている。



 ゲートから名手集落までは約1200mの道のりで、この間は全て激狭である。
しかも、驚いたことにここはれっきとした名手集落の生活道路、通勤道路となっており、朝のラッシュに相当するこの時間において、私は4台もの車とすれ違う羽目となった。
この辺りは、これまでたくさんやっつけてきた“地方のどうでも良さそうな山間県道”とは少し違う気がする。

 さて、この狭さにもかかわらず片側交通などの交通規制が敷かれていないこの区間であるから、当然離合のための施設が必要である。
故に、地形的制約にもかかわらず待避所は頻繁に用意されている。



 この道の待避所が如何に重要であるかを雄弁に語る、待避所付属の大きな補助標識。
多くの1車線県道にも待避所はあるが、大概は補助標識はないし、退避スペースに落ち葉が積もっていたりすることも少なくない。
だが、この生活道路にとって、待避所は命綱である。
待避所以外では、絶対に離合は不可能なのだから。(チャリ対車も苦しい!)

  退避所につき駐車絶対禁止
  つぎの待避所は約125m

 行政が設置した文言とは思えぬ、絶対禁止の強い口調。
次の待避所までの距離を教えてくれるという普段見せない親切。
いずれも、この道ならではのものだ。
そして、区間の終わりまでこんなペースで待避所が100〜50m刻みで頻繁に現れる。私もそのうちの何ヶ所かを利用することになった。



 残念なことに、人工の稠密地ではどこもゴミの不法投棄問題は深刻だ。
この県道沿いにも、また他の山間部の道にも、至る所にこのような看板が立ち並んでいる。この看板自体が著しく風景を害しているが、仕方のないことだろう。

 右の看板には、不法投棄をした人は、回収作業にも参加してもらうという旨が警告されているが、その光景を想像すると滑稽だ。
きっと一緒に回収作業をする役場の人たちからは犯罪者扱いされるんだろうな…(いや犯罪者なのだが)。
でも、こんなキビシイ地形でゴミを回収するのは命懸けなので、回収し終わった頃には妙な友情が芽生えたりしてね。
どう? そんなストーリーのギャルゲー。 


   バ カ  ですか…。

   そうですか・・・。



 冬なお鬱蒼と茂る照葉樹が影を落とす極細の舗装路は、待避所と小刻みなカーブを繰り返しつつ、徐々に登っていく。
一応ガードレールと崖までの有効幅員は2m程度あるが、実際に車を運転する車輌感覚としては殆ど余裕がないはずだ。
運転席側からは、車高にもよるだろうが、おそらくガードレールが見えないことだろう。
わざわざエスクードを引っ張り出してきてまで新しい傷を増やしたいとも思わないので、私はチャリで十分だ。

 先ほど登っていると書いたが、三井から名手までには約40mの高低差が存在する。
湖畔の急斜面にへばり付く道は、集落の中間付近が海抜210mの最高地点となっているのだ。
さしたる勾配ではないが、凍結したこの道の恐ろしさは想像するに余りある。



 気温は0度前後で、防寒具に身を包んでいても寒さが体の芯に沁みる。
東京はもっと温かい場所かと思っていたが、放射冷却がガンガンに効いた山間部では零下になることも珍しくないらしい。
北国秋田の一級線で活躍してきた防寒装備類を全て持ってきて正解だった。
その内訳とは、オーバーオール型のインナー、耳つき帽子、極アツ手袋、靴下&ネオプレーンの2枚履きなどだ。
もっとも、日中には気温も上がり、帽子以下はすべてリュックの荷物に成り下がったが。



 そして、おそらくこの最狭区間でも一番の危険どころに差し掛かる。
この辺りでは湖面から90mもの高さ。
垂直に近い崖がガードレール一枚の向こうに滑り落ちている。
道幅の猶予も全くなく、ガードレールなどやや崖側にはみ出して設置されている有様。
しかも、細かなカーブが連続しており、運転席側(山側)からの見通しは最悪も最悪。
カーブの向こうから対向車でも現れようものなら、この状況で30mも40mもバックする羽目になるのだ。
ガードレールには所々には凹みや擦り傷、塗装の跡が付いているが、万一接触した場合も、あなたは愛車の破損を悲しむよりまず、“受け止めてもらった”ことを、感謝すべきだろう。



 深く淀んだ水を湛える津久井湖。
かつての景勝地を湖底に納め、巨大な龍のような体躯を地上に刻む。
やや遠くに、湖水の色に同化した一本の吊り橋が渡っている。
名手集落へのもう一本の道、名手橋である。
高所恐怖症の人なら、嫌でもこの激狭道を通るしかないだろう。

 対岸の段丘状には、こちらとは別世界のような、ゆったりとした街並みが広がる。
国道413号も通る、旧津久井町の中心部の三ヶ木地区だ。



 衝撃!
 これが区間での
 離合だ!!

 って、大袈裟だった? (笑)

 対向車がこれでも“軽”な事に注目!



 チャリだから笑ってられるけど、ホント車には緊張の道だと思う。
安易に行って車に傷が付いても、もちろん当方では関知しませんよー。
(あなたがベテランだったり、途中で無理な離合がなければ、まず大丈夫だと思うが)

 道が下りに切り替わると、この激狭区間の終わりも間近。
そして、この県道515号の通行可能な区間の終わりも近い。



陸の孤島?! 名手集落


8:07[地図

 道路脇の傾斜がやや緩まり、そして前方に視界が開けると、そこにはホッとさせられる家並みが。
車で来た人は「お疲れさま」、名手集落である。
津久井湖左岸の急傾斜地に僅かに張り出した半島上の段丘地に、二十軒以上の民家が点在している。
周辺集落から途絶した山あいに位置し、都心から50kmと離れていない「陸の孤島」だ。(住人さんごめんなさい)





 だが、最後にもう一箇所だけ緊張を強いられねばならない。
来るときと同じ1.7m幅員制限ポールがここにも立っているのだ。
しかも、こころなしかさっきよりも狭く見えてしまうのは、激しい逆光に影がくっきりと伸びているせいか。
大丈夫、入れた車なら問題なく出られるはずだから!



 ふぅーっ、 名手集落だ。

 この高台の地からは、道志の山並みを飛び越えて富士山が鮮明に望まれる。
が、写真では白飛びしちゃって…。
ふじさーん、ただいまー。

 集落の全戸が明るい南向きの斜面に点在しており、なんだかとてもいい雰囲気。
住むには少し不便かも知れないけど、昭和39年には湖を渡る名手橋(吊り橋)が架かって、必ずしも激狭県道を通らなくても辿り着けるようになっている。(橋の幅は3.5mだそうだ)
古い寺も集落内にあって、湖が出来る前からここには人が住んでいたようだ。
いまは湖底だが、名手の渡しという渡船場があったとも伝えられている。



 名手側のゲートを振り返る。
こちら側にも、三井側と同様に封鎖ゲートや標識などがたくさん設置されている。

なんだか、ちょうど陽の光も温かさを増してきて、もう全てが終わったかのような気分に…。
その辺の草っぱらに転がれば、いい気分で眠れそう。朝早かったしなぁ。

でもでも。まだ気を緩めちゃなんねんだ。

チャリでなければ通れぬ県道は、まだこの先なのだから!



 1.7m幅員制限は解除されたが、名手集落内も道は狭い。
2mあるかどうかと言う道が、三井集落内と同じ様な雰囲気で続く。
しかし、ここが意外に都会だと思うのは、コンクリート製や洋風の住宅が思いのほか多いと言うこと。
建っている建物だけを見ていたら、その辺りの新興住宅地と余り変わらないと思うかも知れない。

 そんな集落内を100mほど下っていくと…。



 名手集落の中心であり、またメーンストリートの直線坂道に達する。
このまま下れば半島の突端近くから名手の吊り橋に達する訳だが、そこはもう相模原市道である。
実は、神奈川県道515号はこの坂を下ってはならない。
そう、この下り始めに何気なく存在する右折の小道こそが、千木良(ちぎら)の国道20号へと繋がる県道なのである!

 せっかく極狭から開放されたと思った矢先の出来事である。



 名手交差点を名手橋(市道)側から振り返る。
県道は正面の坂を下ってきて、おもむろに左に入っていくのだ。
当然何の案内もない。

 どうでも良いが、県道には明示された速度制限が無いようだ。
無論、法定速度内で選んで走るにしても、実質的に選択の幅など殆ど無いが。



 さて、名手から先へ進む県道の入口だが、とりあえず鋪装もされているし、普通の(狭い)道だ。
しかし、既に“予兆”はある。
いや、これはれっきとした予告だ。

 少し錆びた通行止めの予告標識。
これがなければますます県道の存在感は薄かったろう。
その奧から放たれ来る“オブ臭”を嗅ぎ分けられる者は、果たしてどれだけいるだろう。
私にしても、地図がなければ確実に素通りだった。



 あっという間に、その時は来た。

 民家が途切れると、いつかのような急な右カーブ。
そこだけが広い。
だが、この広さは転回場所なのだった。
単刀直入に
「落石危険! 全面通行止 神奈川県」の看板。
ドライバーに選択の余地は与えられておらず、直後に封鎖ゲートが下りている。
鉄製の重厚なそれは、狭い幅員を完全に塞いでいて、4輪は完全にシャットアウトされる。



 この先、千木良まで落石の恐れがあり
 また、路肩も危険の為
 全面通行止通り抜けできません

 封鎖ゲートの前にある看板。
行政にしては、かなり具体的かつ丁寧に通行止を説明してくれている。
「また」で危険が併記されているところが可愛い。
「路肩“も”」 って(笑)。

 こいつは、そそるぜ。



 道幅に対し大袈裟な封鎖ゲート。
だが、このような開閉式の物が設置されているというのは、逆に言えば開ける気もある(った?)ということ?
昔に車で通り抜けたという方のお話を聞いてみたいものだ。
10年くらい前には既に封鎖されていたという話しもあるようだが。

 しかし、このゲートは柱側の脇が甘いので、4輪以外通れることは、通れる。



 だが、行政だって通したくない気持ちに偽り無し。
すぐに現れる、2回目のゲート。
いや、バリケードだ。

 これは不動式なので、直前までの印象は覆され、再開通の望みは薄そうだ。

 このバリケードも、山側の法面にわざわざ掘られた凹みや、落石防止ネットの破れさえあり、小型二輪までは入れそう。
流石に年季の入った廃道区間だけあって、多くのマニアが挑んだ痕跡であろう。
ありがたいことだ。(オイオイ…)

 ちなみに、
バイクで入った人は全員が後悔したと思われるが、その理由はやがて分かる。