大海の波の様に押し寄せる遠大な坂道の数々。
摂氏35度の炎熱地獄のなか、ついに私は見た。
最後の登りと、終点である山頂の姿を。
苦難の果てに、私が見たものは、何であったか?!
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これ以上、坂が苦しかったと言う話題で、このレポートを引っ張る訳にも行かないので、 この坂の感想は、省略します。 写真をご覧になって、“感じて”下されば十分です。 これこそが、男鹿林道の最も困難な登りでした。 炎熱地獄の登りに、汗も乾ききった、そんな登りでした。 |
そして、この上の写真の景色が、ついにこの坂を征服する間際の、そんな景色です。 ここに写っている限りの坂を上りきると、そこが…。 ちなみに、この最後の長い登りは、直線一本、約500m高低差60mといったところでしょうか。 悔しいけど、最後のほうは、早漕ぎをしてしまいました。 ―『早漕ぎ』は、自分用語で、ペースを守れずにがむしゃらに漕ぐ事。 確かに早く漕げるが、一気に疲れてしまい、ご法度としている。 (さらに封印されている秘奥義がが、『立ち漕ぎ』であるが、子供にはおなじみだろう。激疲れである。) |
ついに、路傍に現れた、『1500M』の距離標。 ここが、ついにたどり着いた、山頂直下の最後の分岐点「本山・毛無山分岐点」である。 海抜は約620m。 もはや、この男鹿の地に私よりも高い場所は、ただの二つになっていた。 ここからさき、毛無山山頂に至る道は、よく覚えていた。 決して楽ではないが、これまでと比べたら短い登りであったはず。 | |
そして、これが、約11Kmの登りに耐えた男の、いや、ボロボロに犯られた男の、リアルな表情である。 念のため言わせてもらうが、 決してヤラセではない!! ちなみに、この男の職業はコンビニ店員だが、普段はこんな顔ではないので安心してご来店いただきたい! | |
ここまでの登りの険しさを実感できる一枚。 振り向いたそこに、これまで登って来た、広大な裾野が見えない。 見渡せるのは、船川の港の先っちょと、何処までも蒼い、日本海だけであった。 まるで、島。 もっと言えば、さすがに無理があるかもしれないが…、まるで、天空に浮いた島から眺めたような景色であった。 それだけ、下界とは隔絶された、場所なのだ。 たった、11kmの登りで、そんな場所に到達するのが、この、男鹿林道の凄さなのだろう。 だが、男鹿林道の本当に凄いのは、この先であった。 | |
分岐に立つ標識。 これまで、左の『毛無山』にしかいったことはない。 なぜかと言えば、ホリプロ氏の発言「本山は通行止めになっている」に抑止させられていたのだ。 それに、実は、この地に、ただ一人でたどり着いたのは、今回が初めてであった。 もはや、本山に向かってみるのを止めるものは何もない。 「行ってみよう。」 自然と、私は分岐を右折していた。 そこには、まだ見ぬ景色が、まだ見ぬ絶景が隠れていたのだ。 |
すぐ登りが始まるが、それはすぐに終わる。 そこには、なだらかな丘が広がり、…しかし道路の両脇には鉄条網。 ここは既に、自衛隊施設敷地内のようで、道路以外の場所への立ち入りは一切禁止されているようだ。 数本の鉄塔の間を縫って道は往く。 | |
今度は、緩やかな下り坂。 少し下ると、再び上りに転じるのだが、その谷底の部分に、ホリプロ氏がかつて言っていた「通行止め」があった。 車輌進入禁止の掲示とともに、さして厳重ともいえない、チェーン一本のゲート。 もしや、監視カメラが?! とも思ったが、この程度の通行止め処置ではそれも無かろうと考え、脇を突破。 この先は、車輌での進入が禁止されている区間であり、厳密に考えると、私の自転車での侵入も、この禁止に抵触していると考えられます。 決して、真似をしないようにして下さい。 徒歩では、問題ないと考えられます。(登山のガイドブックなどでも紹介されているコースです。) |
本山の山頂が、突然眼前に現れた。 標高715mの本山は、男鹿で最も高い山だ。 山頂には、遠くからも目立ち、シンボル的な存在とも言える、まるで天文台のようなドーム状の施設が、立っている。 いや、山頂にこれが立っている事は知っていたが、まさしく山頂に立っていたのには、少し驚いた。 さらに道は山頂に近づいてゆく。 | |
山頂直下の鞍部から、山頂を見上げる。 この地の眺めは、本当に、絶景であった。 息を呑んだ。 言葉を失った。 脳汁が噴出した! そのどの表現も、なお、いい得ない。 それほどに、ここからの眺めには、感激を覚えた。 写真では、その感激のどれほどが伝えられようか?! しかし、それでも、見ていただきたいのだ。 | |
鞍部から、北側の眺め。 美しい弓形の海岸線は、若美町から八竜町にかけての砂丘だ。 こちら側の景色の最果ては、海と、白神山地の山なみだ。 | |
西側の眺め。 まるで、火山のジオラマのように、完成された美しさを見せてくれる、寒風山。 麓に立つとあんなに大きい寒風山。 しかしいまは、その頂の2倍も超越した高さだ。 奥には広大な緑の草原“大潟村”、さらに果てには、太平山地が壁をなす。 | |
もう一方、開けた景色を見せるのが、南側。 この方角には、海しか見えない。 何処までも蒼い、いや、もうこれは、まさしく、“青”い。 吸い込まれそうな景色。 男鹿の険しい西海岸にむかって、急激に落ち込んでゆく密林の様は、まるで、テレビで見た南米ギアナの世界ではないか。 この眺めは、どこか、日本離れしている。 | |
最後は、南西方向。 空と海の青だけを背景にして、もこもことした独特の山並み。 これが、本山と対を成す第二の高峰“毛無山”(標高673m)である。 山頂には、本山同様、やはり自衛隊施設が存在する。 |
ひとしきり、パノラマに酔いしれたら、最後の試練に挑もう。 標高715mの山頂に至る、最後の最後の登りである。 贅沢すぎるパノラマの中、まさしく試練と呼ぶにふさわしい“これまでで最も”きつい勾配が続く。 これを越えれば終わりであろうと言う事は、この道(分岐から本山山頂)を初めて走る私でも、容易に想像ができた。 なんせ、この上にはもはや、道が続くべき大地が無いのだ。 13kmの悪夢の様な林道の、その最後の登り。 ひたすらに辛い。 もはやそれしか言葉は無い。 |
道は、山頂に至る崖を右に、まるで螺旋階段のようにして、脇目もふらずに山頂へ上り詰めてゆく。 遮るものの無い世界を駆け抜けてゆく風が心地よい。 下界の気温は35度を超えていたが、ここは、風の効果もあって、休んでいさえすれば徐々にクーリングされる体感気温だ。 この地が、いかに強烈な海風と吹雪に晒されるか。 日本海に突き出した、この単独峰の僅か標高700mばかりの海側斜面に、高木はひとつとして生えていない。 この美しい景色は、きっと、死の嵐の創り出すものなのだ。 | |
途中、チラリと見えた下界。 あれは、加茂青砂の桜島荘であろう。 ぴょんと飛び出せば、海まで届くのではないかと言う錯覚を覚えるほどの、切り立った断崖である。 ちなみに、手持ちの地図で、この地(海抜700m)から最寄の海岸線までの直線距離を計ってみたが、約3kmであった。 いかに切り立っているか、イメージして頂けたであろうか。 この本山山頂が既に、日本海の海岸線なのだとも言える。 そんな景観を見た。 |
ついに、行き止まり。 山頂である。 の林道入り口(海抜30m)から、ここ(海抜715m)まで、掛かった時間は1時間57分。 行程は約13kmであった。 やはり、の分屯地分岐点からの6km弱に高低差450mほどが集中しており、この区間がとにかく、辛かった! | |
厳密には、写真のように、本当の終点は、鉄条網の内側である。 悔しいが、ゲートは施錠された上、でも見たセンサーが睨みをきかせていたので、ここを終点とさせてもらう。 山頂の結構広いと思われる平地の全てが、この防衛施設によって“搾取”されていた…。 こんなに美しい山の、こんなに充実した試練の果てに、こんなにつまらないものを見せ付けられるとは。 何とも悲しいと言うのが、私の本音である。 これが、もし、見た目のまんまの天文台であったなら…、 どんなにこの山の楽しみは高まるだろうか…。 この地の夜空は、さぞ美しいに違いない。 死と憎悪の詰まった鉄の流星をにらむこの監獄が、夜空の流星を望む楽園に代われる日が、いつか訪れる事を期待したい。 | |
さぁ、次は毛無山である。 一気に山頂を駆け下りる! 私は、脳髄が蕩けんばかりの快楽に、その身をゆだねた!! |
を通過し、今度は毛無山山頂へと至る道に入る。 この道は、過去に2度走っている。 いずれも、ホリプロ氏が同行していた。 また、保土ヶ谷氏も、「2度とここには来ない」との発言を口にしつつ、この道をともに走った。 勝手知ったる、登りである。 安心しきって登り始めるが、前には無かった通行止めゲートが設置されていた(本山のものと同タイプ)。 このため、車での進入は、出来なくなっている。 |
ゲートのある場所の、ちょうど右手には、「東北自然歩道」が分かれており、この道は五社堂を経て門前に至る。 古来“お山かけ”の道でもある。 これをおくまで辿ったことは無いが、入ってすぐ(徒歩で100mくらい)の場所からの眺めがすこぶるよい。 この眺めは、毛無山山頂が余り眺望が利かないことを補って余りあるものである。 | |
写真右側に写るのは、先ほどまで私を苦しめ続けた本山山頂部。 これ以外に、眺望を遮るものは何も無い。 男鹿西海岸から半島先端部に至るまでの景色が、手に取るようにして見渡せる! ちょうど写真でも、戸賀湾を途中にはさみ、さらにその先の半島突端入道崎まで写っている。 ここは、僅かな寄り道にはなるが、ぜひとも立ち寄ってもらいたい隠し展望地だ! |
標高673m。 毛無山山頂は、男鹿半島第二の高所である。 この地にも、巨大な防衛施設が鎮座まします。 本山とは異なるのが、道はここで終わらない。 | |
さらに山頂を越えて、反対側に下りが有るのだ。 実はこの先の下りは、初めての走行となる。 地図上はすぐに行きどまっているのだが、これまで敢えて立ち入らなかったのには訳がある。 いつも、あまりの疲労のため、この先行き止まりが分かっている下りに立ち入る気力が、とても生じなかったのだ。 今回は、意地になって、これに挑戦した! |
約500m。 急な下り坂を下ると、今度こそ、行き止まりとなった。 そして、そこにも無数のアンテナが。 眺望も利かない、風も無い、山中の小平地。 照りつける太陽に、下ってきた道のりを少し後悔。 いずれにしても、長居したい場所ではなかった。 基地は、決して山チャリとは相容れぬものなのだ。 今回の旅で、その事を切に感じた。 これほどの、印象深い登りの果てに見た景色だったが、妙に白けてしまった。 私は、休息もそこそこにここを発ち、下山を開始した。 | |
下りは、とにかくブレーキシューが気の毒になった。 ひたすらにかけっ放しだったから。 これにて、この度の男鹿林道のレポートは終了。 私が挑んだのは、「基地の山」だった。 この道に、貴方はどんな印象を持つだろう。 『カッコいい』?『コワイ』? ぜひとも、その足で、別に自転車でなくてもかまわない。 ぜひ、この地を訪れてみてほしい。 騒音も公害も、ここには無い。 少なくとも生活の迷惑には、なってなさそうだ。 だから、このような山中の基地には、みな、無関心なのだろう。 そのほうが、都合の良い人もいるのだろう。 しかし、こんなに近くに、しかも密かに、戦争のための守りがある。 べつに、その事の是非をどうこう言うほどの人間では、私は無い。 しかし、そのすがたを、実際の目で見て、感じ取っておく事は、戦争を知らない世代の、 私のような人間にも、興味深い事だと思う。 今回特に、このような感想を持ったのには、理由がある。 当HPと、相互リンクの関係にある、せんぶり氏の『いざ寒風山』サイト内の記述に、 いつの日か、本山にパノラマラインと回転展望台を作ったらいいと思うと言うような希望が述べられている。 これには、本当に、わたしも「いいなぁ」と、素直に感じた。 これはメルヘンかもしれないが、寒風山の隣にあって、寒風山よりも遥かに広く男鹿の大地を裾野に持ち、 そこにはなまはげ発祥の地があり、 半島最大の観光地を束ねる、その山頂が、もし、開放されていたなら…。 そう感じたのだ。 それほどまでに、ここは、美しい山なのだ。 せんぶり氏の発想には、大変感銘を受けた。 この地を、貴方はどう感じるか?? 私は、山頂で白けてしまったが、 あなたは、 どうか?? | |
END |