仁賀保町冬師から矢島町城内までの約8kmは、冬季閉鎖の半年は言うに及ばず、原因も示されぬままの通行止が続く、完成しているのに不通に近い県道である。
市販の道路地図では、まるで林道のような頼りない線が黄色に塗られており、県道であることを示しているのだが…。
一体そこには何があるのだろう?
辛かった県道312号線も、今回で最終回。
今回は、実験的に写真のサイズをいつもよりも25%増量している。 見難いとか、見やすいとか、感想をお聞かせいただけると、今後の参考になります。 ついにやってきた県道312号線の最終区間。 冬師、花立間である。 霧に煙る鳥海高原を縦断する道は、冬師を過ぎると砂利道と化した。 しかも、その入り口には通行止との告知が。 | |
集落裏手の林を越えると、眼前には広大な牧草地。 道はその中を一本寂しげに続いている。 見渡す限りの緑の草原と、その縁を白いベールに覆い隠す霧。 或いは雲。 そこに聳えるはずの鳥海の峰は、この日一度も姿を現さなかった。 |
冬師から2.5kmほど進むと、突然道が三つに分かれる。 なんの標識もなく、三つの道はそれぞれ別の方向に伸びている。 最も通行量が多いように見える、右の道。 明らかに廃道で、植林地の奥へと緑の絨毯が続く正面の道。 ほどほどの通行量で、砂利道の左。 敢えて正面に行く理由はないし、地図がなければ右に行くのが普通の判断だろう。 だが、正解は左だ。 この辺りの中途半端さが、マイナーな道らしい…。 | |
右の道を蹴って左に入ろうとすると、最初から眼中になかった正面の道との間に、なにやら白い看板が見える。 入り口にあった通行止に関する告知なのか、それとも…。 文字が殆どはげていて読み取れない看板に近づき、パズルを解くような気持ちで、解読にあたった。 | |
よく見ると、看板は鉄パイプで作られた簡易なバリケードに取り付けられていた。 しかし、バリケードは寄せられている。 肝心の文章だが、解読の結果… この橋は総重量 3t以上の車は 通行できません | |
看板の少し先には、ともすれば見落としそうな小さな橋が見えている。 県道は、あそこを通っていくわけだが、あんな小さな橋に、何か問題でもあるのだろうか? 遠目には、普通の橋に見えるが…。 接近。 | |
この橋、なんと木橋だった。 これといって朽ちているようにも見えず、まだまだ頑丈そうであるが、やはり木橋と言うだけで通行制限の対象になっているのだろう。 それにしても、3トンというのは、弱すぎると思うのだが。 元もと欄干も無い簡易な作りであり、代わりに不格好な鉄パイプがその役目を果たしている。 もっとも、沢は小川の程度で、橋の高さも低い。 それほど古い橋には見えないが、木橋を新規に架ける理由も見あたらず、利用者が少ないが故に摩耗していないだけなのかもしれない。 ちなみに、帰宅後に調べてみると、これが秋田県内の県道に有る木橋で唯一のものである事が判明した。 その名は、3010号橋木橋。(“木橋”までで名前である) | |
花立側から振り返って撮影。 夏草に覆い隠されてしまいそうな3010号橋木橋だが、一応除草が入っている。 本県道の間違いなくハイライトである、興味のない人には全くなんの価値も無さそうな、秋田県道唯一の木橋。 わざわざ管内図を調べねば判明しなかったその名称は、その適当さ加減が何とも言えない。 それこそ銘板などが存在していたら、さらに面白かっただろう。 だれか、ちゃんとした名前を与えてやってくれないか…。 | |
3010号橋木橋の花立側全貌。 やはり、通行規制の看板がむなしく雨に打たれている。 橋を後に、終点目指し先へと進む。 |
余り目立ったアップダウンはなく、きっと霧が無くても視界は開けぬだろう杉林の間を縫って、淡々と道は行く。 当たり前のように、誰一人出会わない。 静かを通り越して、無音の森が道を囲んでいる。 寒いし、寂しい。 なんて、マイナーな県道なんだ。 標識一つ、ガードレールひとつ、距離標一つ無い。 県道に指定された平成7年以来、何か一つでも県道らしい進化を遂げたのであろうか…。 | |
深い森の中、道の脇に奇妙な人工物を発見した。 それは、道から5mくらい入った場所にある、二つの円筒形をしたコンクリートの残骸だ。 余りにも風化しておりこれがなんなのか不明であるが、付近には人家や集落は見あたらず、皆目見当が付かない。 人が余裕で入れる大きさがあり、底は地面に接している。 井戸のようでもあるが、穴は見あたらない。 もしかして、スーパーマリオの土管??!! | |
再び沢を渡る。 しかし、今度は橋ではなく、暗渠である。 この上だけは、新しい舗装が成されており、もしかしたら、これは県道化以降の改良なのかもしれない。 どんなに厳しい道も覚悟していたが、高原の地形は、その外縁部の地獄のような急峻を除けばなだらかで、緑のプロムナードを満喫できる、森林浴コースとなっている。 適度に除草されており、走りにくい事もない。 ただ、空気は夏でも冷たく、びしょぬれの私は風を切る度に凍えた。 |
やや上り調子の道となると、仁賀保町から矢島町への境界に近づく。 止まぬ雨と鈍色の空が、緑をより一層鮮やかにしている。 生長を歓喜する彼らの声が聞こえてきそうではないか。 ひとしきり登ると町境だが、なんの案内もなく、当然私も気が付かずに通過していた。 | |
距離は決して長い道ではないし、地形的な困難が特別有る訳でもない。 しかし、この冬師花立間は改良される気配がない。 相変わらず、やる気のない通行止の表示だけが、気楽なドライバーの侵入を拒むのみだ。 通って通れない事は全然無い。 でも、それでも通る人なんて、稀なんだろうな。 沿線に人家も一軒もないし、この道を経由しなくても、数キロ南方には平行する主要地方道がある。 改良するだけ、税金の無駄。そういわれても反論できないだろう。 | |
冬師から4km。 あの坂を登ると…。 | |
唐突に舗装路が現れた。 しかし、萎れたガードレールが、余計にやるきなさを感じさせている。 デリネーターには「秋田県」とあり、県道である事は主張しているが、未だ冬師以来一度も車に出会っていない。 左右は端の見えない広い草原だ。 ここは、谷地沢放牧場。 |
見渡す限りの放牧場には、人はおろか、家畜たちの気配もない。 どこまでも静かだ。 道は勾配もなく真っ直ぐで、霧の奥へ伸びている。 何かの間違いで、人のいない世界へと来てしまったような怖さを感じる。 無惨に路上に斃れた積雪棒も、そのままである。 一体いつから放置されているのか? なまじ廃道でないだけに、むしろ寂しい。 | |
道から一歩外は、もうこの世ではないような。 霧時雨の放牧場。 霧って、本当に静かだ。 …いや、 それだけじゃない。 音を出すものが、周りになんにもないんだ。 | |
心細い道も、やっと現代社会との接点を迎えつつあった。 終点は、近い。 道は二手に分かれた。 左は、桃野で主要地方道に合流する道。 正面が県道で、あと少しでやはり同じ主要地方道に合流するはずなのだが。 忘れた頃に再び、通行止の案内が出現した。 ちなみに、冬師にあった標識がこの先の通行止を示していたという事はない。 なぜなら、さっきの放牧場の道すがら、路面に這い蹲って朽ちた…いま超えてきた区間に向けて立っていたと思われる…看板があったから。 何年来の通行止なのだろう。 そして、この通止めの正体は?? 遂に、最終場面だ。 | |
分岐の先、一転して急な下り。 そこでご覧の大規模崩壊と、復旧工事中。 まるでスナップのようにフレームに収まる愛車。 一見そんな景色。 だが、実はこの写真を撮影したとき、まだ私の心臓は、緊張でバクバクいっていた。 なぜならば、下りの途中にこの崩落とバリケードを確認。 高速だったので即座にブレーキをかけたが、なんと後ろブレーキのワイヤーが突如、外れ。 制動を極端に失った愛車は、当然私もろともバリケードに突撃。 辛うじて足ブレーキで踏ん張って、バリケードを50cmほど押して静止。 事なきを得たが、もう少し判断が遅れれば大転倒していただろう。 淡々と書いてるけど、実はマジやばかったのです。 ブレーキワイヤーが突然外れるなんて、聞いてないよー。 整備不良だよ!(もちろん、自分の責任) |
危うく脱出を前に、私が現世から脱出してしまうところだったが、崩壊地を突破。 ちなみに、ここも重機が放置されたまま人は不在。 脇をすり抜ける事が出来たのは良かったけど、本当に人がいないぞ。 ひとしきり下ると、また分岐。 写真は、分岐を振り返って撮影。 正面が今来た道で、手前は、町道。やっぱり桃野で主要地方道に合流する。 という事は、正解の県道は左の道だ。 当たり前のように標識はなく、通行止でもなければ、こんな脇道へ折れるのはマニアだけだろう。 | |
向山橋という普通のPC橋を渡って1km弱舗装路を走ると、道は最後まで霧と雨と、無人のまま主要地方道32号線にぶつかり終了となる。 2車線の県道もやはり通行量は少なかったが、久々に動くものを見たよ。自分以外で。 この合流点からすぐ傍には、鳥海高原の観光名勝花立牧場があるが、この雨ではこれ以上足を伸ばす気にもなれず、西目町へと向けて左折し帰途についた。 写真は、振り返って、今回その殆ど全線を走破した県道312号線の入り口を見る。 県道などとはどこにも示されておらず、ただ農道としての表示がある。 また、先ほどの崩壊の復旧工事を示しているだろう工事案内看板にすら、路線名として県道の文字はない。 本当に県道だったのかと疑わしいが、何度地図を確認しても、もちろん管内図においても、これは県道である。 |