ルートレポート 国道105号線旧道 萱草
2002.10.14


 萱草バイパスは、北に荒瀬バイパスと接続し、概ね旧国道に沿って南下、萱草集落を山際で僅かに迂回しつつ、萱草大橋で阿仁川を渡河、根子林道との分岐点までの総延長約3000mの道なりである。
この区間の旧道は、両岸が切り立った断崖に阻まれる阿仁川の蛇行に沿って細かなカーブの連続する道で、萱草集落内を除いては利用価値が無く、半ば廃道化している。

 このバイパスと旧道を連続して走行した際のレポートを以下に掲載する。

<地図を表示する>

 
秋田県 阿仁町荒瀬上町 阿仁トンネル前
2002.10.10 12:19
 この日、午前7時半に鷹巣町はJR前山駅を虹に祝福され出発した私であったが、まもなく天候が急変、既にこの時間まで、殆ど止むことなく降り続く本降りで全身はびしょ濡れ。
天気予報を信じ、雨具の用意も無かった私は、気温12℃の冷たい雨に、パンツまでぐっちょり。
立ち止ると、体の芯から震えが全身に這いずり回るような、非常に不愉快なコンディションにあった。
今回、概ね国道105号線に沿って、途中いろいろと寄り道をしつつも南下してきた私の主要な目標として、この萱草地区の旧道の探索があげられた。
 寒い。
…しかし、ここは雑念を捨て、調査に専念せねばなるまい。
そういって自分を奮い立たせ、まずは、バイパスである阿仁トンネルに侵入することにした。

阿仁(三号)トンネル入り口
12:20
 阿仁トンネルは、旧道が阿仁川の峡谷沿いに蛇行する道筋を取るのに対し、一気に萱草集落まで貫いている。
扁額の文字を見ればお分かり頂けるように、「阿仁三号トンネル」が正式な名称であり、二号と一号とをあわせた3本のトンネルを一まとめにして、「阿仁トンネル」というのだ。
1979年竣工、このバイパスの古さがわかるというものだ。

 内部にそれほどいたみはないが、なんと言っても、歩道の狭さが辛い。
というか、これは果たして歩道のつもりなのだろうか??
異常に狭く、ここを走ることの方がむしろ危険な気もするが…。
三号トンネルは延長108mに過ぎないが、その先にある、弓なりの勾配を有する一号トンネルまでが視界に届く。

 二号トンネルとの接続部
12:21
 まもなく、二号トンネルとの接続部である、この洞門のような構造物に差し掛かる。
平日の昼であるが、通行量は比較的多い。
特にダンプや大型トラックが引っ切り無しに往来しており、じっくり写真を撮るのも困難だ。
 ここを過ぎると、同じく1979年竣工延長90mの阿仁二号トンネルだ。
目と鼻の先には、一号トンネルの長いナトリウムライトの列が、迫っている。
一号トンネルとの接続部 
12:23
 先ほどとは違った接続部の構造。
よりトンネルに一体化した円筒形の接続部は、なんと橋である。
写真でもよく見ると左の方に低い欄干が写っているが、下を覗くと狭い隙間に小さな激流が見えた。

 一号トンネルも1979年の竣工でその延長は601mある。
出口付近が急な右カーブになっており、出口は見えない。
また道はこの辺で小さな峠になっていて、トンネルの手前の荒瀬地区と、この先の萱草地区の中間となる。
このまま進めば、下りながらトンネルを脱出、すぐに萱草に至るのだが、敢えて今回はここで引き返す。
当然、旧道を調査するためである。

 往来の途切れたことを確認して、トンネル内で道路を横断。
いま来た道を引き返す。
旧道に突入
12:25
 旧道へは、の地点から右に入る。
の写真では分かりにくいが、トンネルのすぐ手前に、右への分岐があるのだ。
特に閉鎖されてはいない。

 この写真は、旧道に入ってすぐの場所で、実はこの旧道を走るのは2年ぶりで2度目なのだが、以前とまったく変わっていない景色に思えた。
さらに先に進んだ。
二号トンネルとの接続部を、外から眺める
12:26
 現道の状況を知らないと、一体この構造物は何だ、と思うかもしれない。
旧道に入ってほんの200mほどで、この場所。
構造物の中からは、大型車の往来が大音響を響かせていた。

 旧道の路面は、以前からそうであったが、小さなひび割れが目立つし、落ち葉も積もっている、いい感じの廃れっぷりだ。
阿仁川の切り立った斜面の側にはガードレールが続いているが、これもひどく汚れ、歪みが目立つ。
県内有数の豪雪地帯ゆえ、何十年もメンテナンスがされないとなればこれは必至の状況だ。
むしろ、これでも、まったくの放置とは考えられない優良な状況と思う。
もしかしたら、一応阿仁町の町道として管理されているのだろうか?

今度は、三号トンネルとの接続部だ
12:27
 さらに100mほど進むと、今度は、一号トンネルとの接続部にあった円筒形の構造物を外から眺めることになる。
ちなみに、やこの場所では、接続部の構造物によって普段現道を通行する者からは決して見ることのできない、二号と一号トンネルの坑門上部を見られるが、そこに扁額は…付いていなかった。
もともと、3本は接続される予定で建設されたということなのだろう。

 うねうねと斜面に沿って続く旧道だが、実はこの道よりもさらに阿仁川沿いを走るものが在る。
それは、秋田内陸線の鉄路である。
この旧道のすぐ下を通る線路に、この日は一度たりとて列車の姿を見なかった。
無論、廃止されているわけではないので、たまたま私が見逃しただけなのだが…、それにしても、滅多にお目にかかれないのだ。
朽ちた標識
12:28
 現道が長い一号トンネルに入ると、旧道は阿仁川の蛇行に大きく引きずられ、ヘアピンカーブを伴って山中に入る。
この大きなカーブの下には秋田内陸線のトンネルがあり、しばし阿仁川とのデュエットとなる。
 ちらほらと赤いものが混ざり始めた対岸との間に、垂れ込めた雲の切れ端が浮かぶ、まるで山水画のように幻想的な光景だ。
対岸の高い位置にちらりと見える白いものは、広域基幹林道阿仁線のもの。
寒さも忘れ、吸い寄せられるように先へと進んでゆく…。
この旧道は、このあたりの景色が最も好きだ。
ここだけは、うるさい現道も、鉄道も離れ、このすばらしい景色を独り占めできるから。

 道端には、もはや用を成さなくなった朽ちた標識が佇む。

萱草集落に到達
12:30
 道は下りとなり、1kmほど進むと、山間の集落萱草だ。
疎らな民家と田畑の間を旧道は不必要にカーブしながら進み、萱草駅前を通過、その先民家が途絶えると、再び道は阿仁川に近づく。

 この先、の萱草橋までは今回実走していない。
別にこれといった理由はないのだが、ボケッと走っていたら、わざわざ併走する現道に移っていた。
本当に、別に理由はないのだが…。 なぜだろう?
自分でも謎だ。
 というわけで、ここからまでの区間は写真が無いので悪しからず。
レポートは今回の経路に沿って、一旦現道を先に進み、萱草バイパスの終点で、再び旧道と合流する部分から再開することにする。
再び旧道へ入る
12:38
 の地点からここまで、現道を走ってきた。
途中、大きな萱草大橋で阿仁川を渡って進む、さらに強く降りしきる雨の中、左に旧道との合流点を発見。
この合流点のすぐ近くに、専らトラックの休憩所となっている24時間のオートスナックがある。
ジュースやカップめんの自動販売機が一箇所に集められた小さな小屋といったものだ。
雨をしのげるこの場所で、暖かいコーヒーで気休め程度だが体を温め、いざ、旧道のトレースを再開だ。

 写真は、ここまで走ってきた現道を左に臨みつつ、阿仁川に沿った旧道を下りてゆく場面。
森の横断歩道
12:40
 旧道は、現道を左に据えつつ、阿仁川沿いを下っていく。
少し進むと、道の左右には森しかない場所に、横断歩道の白いマーキングが、突然現れた。
この横断歩道を渡るものは一体誰なのか?
かつては、利用する者も在ったのであろうが…、余りに道の両脇に人気の消えてしまった現在では、その姿を想像することは難しい。
消えかかったこの横断歩道、妙に印象に残った。
何かが見えてきた
12:40
 森の中、一車線の幅しかない荒れた舗装路をさらに下ると、前方上方に何か見えてきた。
緑色の巨大な橋、これは現道の「萱草大橋」である。
阿仁川と旧道を一跨ぎにするこの橋と、旧道との高度差は優に30mはあるだろう。
巨大な橋である。(写真は、くぐった後に振り返って撮影)
 そして、巨大な橋はこれだけではない。
この萱草大橋よりも、だいぶ古く、1963年に開通した「阿仁川橋梁」がそれである。
 阿仁川橋梁は、開通当時は国鉄阿仁合線に供されていた。
しかし、現在ではご存知の通り第三セクター化し秋田内陸線の橋梁である。
阿仁合線は、鷹ノ巣駅から比立内駅までが開業していたが、そのほぼ全線が阿仁川に沿っていたのにも拘らず、阿仁川を渡るのはこの一度きりであった。
現道の橋にも負けない高さのある橋だ。

 さて、この旧道はどのような橋で、この阿仁川を渡るというのか?
期待を胸に、いざ進行!
萱草橋
12:41
 そして、あっけなく姿を現した旧国道の「萱草橋」である。
一車線幅の狭い橋だが、残念ながら親柱というものが無く(多分現在の白いガードレールを設置した際に遺失したのであろう)竣工年度などは不明である。
この面白みの無いガードレールが少し興ざめであるが、よく見ると、橋脚の造りなどが、非常に古風である。
 このように、旧国道は現道よりもはるかに低い位置を通っていたのだ。
惜しむらくは、このつまらないガードレールである…。

 道はこの橋の先も問題なく続いており、今度は萱草の集落へ向けて上っていく。
が、今回のレポートでは、ここで来た道を戻った。
雨も強かったし、まだ先が長かったので、勘弁してほしい。
 最後に、萱草橋の上から撮影した、迫力のある阿仁川橋梁の姿を。

 残念ながら、私の見ている前では列車は来なかったが、赤い立派なアンダートラスと、深い阿仁のV字峡谷のコントラストは抜群で、絵になる。
また一つ、お気に入りの場所が増えた気持ちであった。

 こうして、秋の雨に震えながらも、最後は気持ちよく萱草旧道探索を終了した。


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