ルートレポート 国道107号線 諏訪山地区
2002.10.28


 国道107号線は、秋田県本荘市に始まり、一路太平洋岸大船渡めざし、東北地方を縦断する路線である。
途中、横手市、北上市、遠野市など、内陸の諸都市を経由するこの道は、昭和初期より利用され続ける幹線であり、その交通量は多い。
本県内においても、本荘横手間と横手北上間のいずれも、昼夜を問わず交通量があり、比較的狭隘な部分が多いこともあり、自転車での通行にはあまり向かないという印象がある。
ただ、景色的には、なかなかに変化に富んでおり、とくに、川や湖に沿った風光に明媚な場所も多い。
車なら何気なく通り過ぎてしまうような場所に、意外な発見もあるものだ。

 さて、今回のレポートは、先に挙げた「本荘横手間」の一部、本荘市諏訪山地区が舞台だ。
この部分は、本荘市から石沢川沿いに内陸へと進んでゆく国道が、初めて平野から山間に分け入る部分であり、新旧三代の国道がひしめき合う、交通の要衝である。

 三代の国道、それは、現役と旧道、そして現在建設が進む延長4000m強の新道であり、その開通は平成19年度を予定している。
数年後には、久々に長い旧国道が発生する。

<地図を表示する>

 
秋田県 本荘市烏川
2002.10.24 7:42
 羽越線の始発で秋田を経ち、JR羽後本荘駅にて輪行を解いた。
日に日に深まり行く秋が実感されるような、冷え込みようだ。
山間部では雪が交じるとの予報を今年初めて聞いたばかりである。
この日の予報は、“晴れのち曇り所により雨”というもので、午前のうちに今回の旅は終えようと心に決めていた。
とはいっても、前回の国道105号線の阿仁行きとは異なり、国道107号沿線はそれほどの山奥といった場所は無く、万が一の雨でも、それほどの心細さはないと思う。
が、やはり雨は嫌だ。

 そんな不安を幾分払拭してくれる気持ちのよい秋空が、本荘市街を抜け出し国道107号の旧道(といっても、現役の生活道路である)や、成り行き任せで脇道を走る私の気分を、高めてくれる。

 この日の一つ目の目的地が、県内有数の古隧道である国道107号線諏訪山トンネルである。
この部分には、新道の建設も進んでいると聞いていたので、もしかしたら、走り収めになるやも知れぬ。

 写真は、国道とは石沢川を挟んで対岸の烏川地区から国道の通う石沢地区を眺めたものだ。
なだらかに連なって見える山並みは、日住山から鬼倉山につながるもので、ここに建設中の広域基幹林道鬼倉山線の完成が待ち遠しい。
また、写真中央には小さく、現在建設中の石沢一号トンネル(仮称)の本荘市側坑口が写っている。
石沢町内の狭隘な国道
 県道293号線で石沢川を跨ぎ、再び国道107号線に合流。
この一帯が、現在建設中の新道が求められた最大の理由となっている地区で、写真の通り、国道は未だ未改良で、狭い。
歩道も無く、他に目立った迂回路も無いので、交通量も非常に多い。
写真を撮る為に立ち止ることもはばかられ、この写真も運転しながら撮影するほどの猛ラッシュであった。(ちょうど朝のラッシュ時)
通学路がこの状態なのは、流石にいただけない。
この区間だけでも、(平成19年ではなく)早期の供用は図れないものだろうか?
 建設中の新道
 朝のラッシュで騒然としている現国道から逃げるように離脱。
田んぼの中の脇道を少し山側に進むと、かなり出来上がっている新道が迎えてくれた。
現道と平行するこの新道は、国道107号石沢バイパスとして県が平成7年から整備を進めているもので、雪車町と大簗を結ぶ4080mが現道に平行して建設される。
平成19年の供用を予定している。
この写真に写るトンネルは、計3本が計画されているトンネルのうち、最も本荘市街側のもので、石沢1号トンネル(仮称)。
 工事車両が引っ切り無しに行き来し、いたるところに作業員の姿が見える。
現場は活気に満ちており、まさに工事の真っ最中であった。
残念ながら、建設中の新道の走行は断念。
脇道を使い、新道を辿ってみることにした。
 写真のガードをくぐり、湯沢集落内を山沿いに進んでみることにした。
諏訪山トンネル方向を臨む
 しばらく一車線の集落道をすすむと、道は再び建設現場を貫通し、現道のほうに向かう。
ここで新道にお邪魔して撮影したのがこの写真。
あたりには工事員の気配は無かったが、路面状況も悪くどこまで続いているかも不明のため、この奥には進まなかった。
道はまっすぐ、諏訪山トンネルの方向へ伸びている。

 現道へと戻ろうと南の方に視線を向けると、そこには初雪を頂いた美しい鳥海山が光っていた。
つい2週間ほど前までは、金色の稲穂が一面に揺れていたはずの田んぼに、もう既に冬の気配が漂っている。
今年のシーズンも、終わりが近いことを実感する。
いよいよ諏訪山トンネル
 現道に戻ると、既に集落からは離れ、あたりには田んぼばかりだ。
道のすぐ右側には、石沢川が流れが見える。
そして、次第に前方には大きく張り出した稜線が迫ってくる。
日住山から続く稜線の一つが、本荘市街からここまで石沢川沿いに長く続いてきた平野を、ここで打ち切る。
この先は、東由利町老方の盆地までの10数キロあまり、険しい地形が続く。
 国道はこの稜線を諏訪山トンネルで貫通し大簗に抜けるのだ。
 上の写真の場所で左前方には、以前来たときには無かった、新道のほぼ完成したトンネルが口をあけていた。
まずはこのトンネルを訪ねてみよう。
新道のトンネル群
 現道からは僅か50mほどの距離、放棄されたらしい荒れた耕地にチャリごと侵入、新道のトンネルを見上げる場所に到達。
写真左は、石沢二号トンネルとして建設されたトンネルで、今回はじめて分かったのだが、正式な名前は「鳥田目トンネル」、一方、写真右のトンネルは、同三号トンネルとして建設され、最も初めに貫通した「新諏訪山トンネル」である。
この二つのトンネルは、非常に近接しており、上の2枚の写真は、同じ地点から、カメラを向ける方向だけ変えて撮影したものである。
 やはり気になるのが、内部の状況である。
そしてやはり、我慢ならず侵入。
ただし今回は用心してチャリは置いての探索となった。

 まずは、鳥田目トンネルだが、ご覧の通りの広々としたトンネル。
内装工事も完全に終わっており、あとは車道の舗装さえ行えばすぐにでも開通できそう。
ちなみに、延長は199m、幅員は驚きの“11.25m”である。広い!!
車道幅9.5mの規格で建設されており、このトンネルの太さも納得はいくのだが、いざ見てみると、大迫力である。

 そして、次は新諏訪山トンネルだ。
こちらもまったく同じ規格のトンネルで、延長177mと、少し短いことを除けば本当に瓜二つである。

 このトンネルの入り口付近をうろついていたら、突然トンネルの反対側、大簗方向からエンジン音が響いてきた。
それが次第に大きくなり…、 なんか向かって来るー!!
焦る私。
そそくさと、道路わきの草地の斜面を滑り降り、身を低くして待機。
まもなく数台の工事車両がゆっくりと通り過ぎていった。
じろりと私のほうを睨みつつ…。

 ふーーッ…、なんだってんだ。

諏訪山トンネル 西坑口
 気を取り直し、いよいよメインディッシュである諏訪山トンネルである。延長は110m。
このトンネル、過去に何度か通行していたが、印象に残っている。
「ぼろいなー」という印象が。
最近知ったことだが、このトンネルは、昭和45年(1970年)竣工で、県内の現役隧道としては古い部類に入る。
どうりで、ぼろいわけだ。
 写真には、今回はじめて通行することになった、旧道の入り口も右に写っている。
 立派な扁額が時代を感じさせる。
そして、このトンネルの狭さをより強調するのが坑門に沿って描かれた黄と黒のペイント。
まず近年では見ることの少なくなった意匠である。 …意匠ではなく、止む無くか。
このペイント、どこかでも見たことがあったと思ったが、確か、田沢湖町鎧畑の国道341号旧道のトンネル群だった。
 ちょうど車通りの切れたのを見計らって撮影することが多いので気づかれないと思うが、ここは非常に通行量が多い。
この写真のような有様で、まず、落ち着かない。
歩道がない(!)ので、やはりここは危険である。

 さて、続いて、旧道に行ってみよう。
崖伝いの旧道
 こちらが旧道。
短いトンネルの脇に残る短い旧道だ。
もはやここが旧国道である痕跡は何も残ってはいないが、道の線形よりこれを旧道と判断した。
 ご覧のような断崖の道で、切り立った断崖は左側だけではなく、路肩の外にも続いている。
道幅は僅か3mほどで、舗装されてはいるものの、とても「東北横断の幹線国道」として、ほんの30年前まで供されていたとは信じがたい。
「信じがたい」は言い過ぎか。 開通していただけでも十分との見方もできるものな(当時、一本隣の国道108号は不通…松ノ木峠、また国道105号も不通であった…大覚野峠)。

 旧道の眺めは、それこそ時が数十年止まったままのようで、すばらしく美しい、非常に短いことが惜しまれる。
奥に写る雄大な山容は、鬼倉山の南峰で、あそこには地図にもないすさまじく険難な仮設林道が頂上付近まで延びている…。
 石沢川対岸も同様に切り立っており、ここは天然の関所のような地形である。
対岸の懸崖はそのまま海抜368mの虚空蔵山に上り詰めており、この山はひそかにハングライダーの好ポイントらしい。
ちょうど私が撮影した時分、鋭い日の光が虚空蔵菩薩の御光の様にうつった。

諏訪山トンネル 東坑口
 あっという間に、切り立った岩肌を巻くような旧道は、現道と合流して終了する。
諏訪山トンネル大簗側の坑口は一度見ると忘れられない独特の光景だ。
その姿を正面から見る前に、今回旧道を通ったことで、新しいアングルで撮影することができた。

 写真に写る赤い落石覆いが、そのまま坑口なのだが、この上部の岩盤の張り出しぶりは尋常ではない。
 どうだろう、この張り出し具合。
かなり厳重に固められているようではあるが、この巨岩がもし落ちてくることがあれば惨事は免れまい。
そもそも、この地点にトンネルを掘ったことが間違いではなかったのかと思う。
僅か50mほど山側に掘られた新道のトンネルが、いたって平凡な景色であったから、そう思った。
 コンクリの吹きつけと鉄柱の打ち込みで補強されているらしい張り出した岩盤、これはその下部。
まったくの素人考えだが、なんか、激しく腐食しているような気がします。
あんなに石灰分が溶け出して鍾乳石のような石筍ができて…。
大丈夫なのか?
 石沢バイパス開通後のこのトンネルの存続が少し心配なのである。
 旧道の入り口、ちょうど張り出した岩盤のすぐ下ににちょこんと安置された小さなお地蔵様。
新しいもののようだが、なぜこんなところに…?
由来書きのようなものは見当たらず、殉難供養なのかそれとも、ただの交通安全祈願なのか?
いずれにしても私は、この巨岩の崩落の抑止はもはや神頼みなのだろうか…と思ってしまった。
 振り返ると、そこには旧道。
なんとも魅力的な景色である。
ここは、お勧めである。

 別に勿体つけていたわけではないのだが、やっと紹介できる、東坑口。
ご覧のような景色で、私がはじめてここを通った5.6年前にはまだ、この赤い落石覆いは無かったような気がするのだが。
そして、いつも工事中であった気もする。
 坑口の上部には、かなり謎なのだが、どういうわけか“白鳥”のパネルが。
一体どうして??
私的には、まったく不相応な、美的センスを疑うセッティングである。
おかげで、こちらからはトンネル名も分からない。

 トンネルの話はこれくらいしよう。
ここには、「ドライブイン諏訪山」がある。
大簗地区は、本荘市の著名な観光地石沢峡の入り口であり、林道ファンにとってもここは数々の林道の入り口でもあるのだ。




 今回のレポートはここで一旦終了。
次回は、ここより少し東由利町方向に進んだ奥ヶ沢地区の旧道を紹介したいと思う。

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