予想外の雨の中、ついには、鷹森林道の入り口にたどり着いた私。
既に全身がびしょぬれで、本来なら心地よいはずの風を切って走る行為が、寒さという不愉快さを、絶え間なく私に与え続けていた。
己の運のなさと、思うように行かぬ自然をうらみつつも、やはり、目指してきた林道の入り口に立つ私は、わずかながら高揚感が感じられもした。
鷹森林道、攻略開始!
<地図を表示する>
実は、私がこの林道を目指してきたのには、理由があった。 そもそも、ここに林道が通じていることは地図上では随分前から知っていたし、このあたりにはまだまだ未走の林道も多く、あえてこの道を優先する理由は、少なくとも地図上からは感じられなかった。 しかし、数ヶ月前、あるバイクのライダーさんの走行レポートをWEB上で発見。 自身が既に攻略済みである数々の林道に交じって紹介されていたこの林道の、この場所(左写真)の写真が、私の脳裏に焼きついたのだ。 「なんて、雄大な景色であろうか!」 と。 これから挑む山並みに対して、十分な心の準備をするに足りる、この道の懐の深さを感じる景色である。 まあ、一般的には、このような峠までのアプローチの長さは敬遠されがちであるし、私も好きではない。 しかし、ここは例外である。 ありきたりな、視界の聞かない谷間の沢筋ではなく、このような開けたアプローチは、心地よい緊張感を与えてくれる。 とはいいつつも、実際、雨に濡れた私の心に、そんな余裕がったとは思えない。 ゆえに、この感想は、今付け足したものであるが…。 でも、いい景色だぁ…。 |
視界が開けているのは、林道の初め、周囲に田んぼが拓かれているあたりだけであり、まもなく、ご多分に漏れずこの道も、沢筋に入ることになる。 そこですぐに渡るのがこの橋、越鳥(えっとり)橋である。 何の変哲もないというよりほかはない、やや古びた橋だが、名前が、気に入った。 なかなかに、爽快ではないか? 語感も、字も。 由来を知りたいが、これはたぶん生涯かなわぬ希望だろう。 対岸に渡り、道はやや角度を強めながら、やや増水した沢に沿って続いてゆく。 |
ここの砂利道は程よく締まっており、はしりやすい。 ちょうどこの日も、森林管理局の文字の入ったワゴンなど、数台の車が、すれ違い、また、追い越していった。 「こんな天気でも、車の中からは、別にどうってことないのかもなー」と、雨の山に単身分け入るなどと、なんか大層なことをしているような気分に少し水をさされた、が、ホッとした気持ちもあった。 路傍に、今まさに“にょきにょき”と伸びてきたかのような、純白のキノコが密生しているのを認めた。 写真も撮ったが、なぜか激しくてぶれしており、(デジカメを今のFinePixF401に変えてから手ぶれによる失敗写真はかなり減ったのだが…)使い物にならなかった。 |
入り口の標識(地点)から約4km、越鳥橋で一度渡った沢を、再び渡る。 そこに架かるのがこの橋だ。 この橋から先は、また少し景色に変化がある。 今のデジカメになってから、それまでは、旅先で目にした文字情報の多くをメモ帳に控えてきたのだが、デジカメ内蔵のボイスメモ機能を多用するようになってきた。 特にこんな雨の日には、メモは非常に使い勝手が悪いので、メカが濡れるリスクを軽視できるなら、この機能は便利である。 たとえばこのような橋の名や竣工年度なども、できるだけ記録するようにしている。 そして、このボイスメモを使うことによるもう一つ面白さは、“リアルさ”である。 息遣いから、疲労感や、興奮が伝わってくる。寒さから来る声の震えまでも。 この橋で、再び強まった雨に、私は諦めに近いため息を漏らしていた。 |
そろそろ、傾斜がきつくなってくる。 周囲は、針のように細く、尖がった杉の森。 天然の杉林だと思うが、林道の周囲にこれほどに見事な杉林が広がっていることは珍しく、驚いた。 と同時に、雨にけぶる森の美しさに、息を呑んだ。 沢がすぐ近く、早瀬は音を立てている。 いよいよ、雨の量が森の蓄えの許容を越えたらしい。 もう、濡れる事にためらいはなかったが、この峠の先の行程をどうするかと、それが気がかりであった。 この林道を無事に通過しても、そこは、森吉の奥地である。 濡れた体での長旅が約束されていることは、非常に気が重い。 |
対岸の岸壁に、奇妙なものを発見。 これは…、洞窟? 素掘りの隧道が半ば埋没しているようにも見えるが、谷底であり、それは考えられない。 自然に出来たもの…多分、永い年月をかけ、この小川が削ったものと思うが、現在の水量を考えると、俄かには信じがたいのもまた事実。 | |
周囲の景色はさらに険しさを増し、道の両脇には断崖が続く。 辛うじて役目を果たす標識も、ひっくり返ってしまっている。 (一瞬、新種の標識かと思った。) |
唐突に現れた白い標柱。 ここまで、林道入り口(地点)からは、約6km。 意外なことには、先は舗装されている。 これまで登ってきた大舟木林道は、さらに沢に沿って直進するのだが、ほとんど使われてはいないようで、荒れている様子。 鷹森林道は、ここより右折することで始まり、峠を越え、森吉まで続いている。 ここは迷わず右折。 ちなみに、標柱には「峰越連絡林道 鷹森線 起点」「昭和47年〜昭和50年」「延長5211m 幅員4.0m」といった情報が記されていた。 | |
ここは、「上舟木風景林」と呼ばれており、それを記す案内板と、森の中を巡る遊歩道が見えた。 たしかに、あたりには立派なブナの林が広がり、沢筋とは思えないほどに視界の開けた、景勝の地である。 雨が降ってなければ、少しはここの空気を満喫したかったが、今はもうそれどころではない。 立ち止まっていては、寒さに体が弱る。 死んでしまう!!恐れもある。 |
ここから先は、舗装されているだけあって、容赦のない登りとなる。 10%を超える角度がしばらく続き、道幅の狭さが余計に角度を際立たせる。 速いペースで高度を稼ぐも、雲に視界を遮られ、峠の所在は皆目見当がつかない。 幸い、まだ体力的に余裕があり、一気に上り終える事が出来たが、雨の中、こんな場所で立ち往生はご勘弁願いたいものだ。 |
一番厳しい上り坂が終わると、再び砂利道に。 通行量はかなり少ないようで、轍の間には植物が目立つ。 地形から察した、まもなく峠だろうと。 紅葉の始まった美しい森のなか、二つ三つ、黙々とコーナーをこなしてゆく。 その瞬間が、確実に近づいていた。 高揚感が沸き起こる。 |
きたるべくして、その光景は眼前に広がった。 峠だ。 低い切り通し型の峠の景色は、森と一体化しており、途中の道なりのような険しさ微塵もはない。 地点からは、約2400mの登りであった。 海抜400mほどの峠は、源五郎岳(標高559m)と石倉山(標高570m)を繋ぐ鞍部に位置し、鷹巣町と森吉町を峰越しで結ぶ唯一の車道である。 ここは、見通しもきかず、特に何もない峠である。 と思ったが、見つけましたー。 | |
きのーーーーーーこ。 このキノコ、絶対食えるだろ。 ウマソー。 っていうか、これ、俺の大好きなナメコじゃないの? 峠の道端に、まるで天然の栽培場のような立派な群生が。 感激。 なんか、妙にテンションが上がったが、それは、私がキノコ好きであるからである。 別に採ったり食べたりはしないのだが、見つけるとうれしくない?? キノコの生える峠をあとに、いよいよ次回、水没を定められし地に、足を踏みいれる!! |
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