主要地方道54号線が山形県のどこにあるのか、ご存知の方はおられるだろうか?
多分、山形県に住む方でもお分かりにならないだろう。
まして、通ったことがある人となれば、ごく少数だろうと断言できる。
そんな、全く“主要”とは思えぬ主要地方道が、山形県の中央部、西村山郡の山中に眠っている。
世界的に有名なベントナイト(粘土の一種である)鉱山である月布鉱山で知られる大江町、そして月山や湯殿山の懐に抱かれた緑多き地、西川町。
山一つを挟んだこの二町を繋ぐのが、主要地方道54号線の役割だ。
この道のもう一つの名は、「貫見間沢線」という。
素直に「西川大江線」を名乗れなかったのは、すでに主要地方道27号線がその名を持つためだ。
結局、県道指定から長い時間を経た今日でも、殆ど整備されることも無く山中に残されたのは、この道の需要が少なかったということに他ならないだろう。
この道が三桁の一般県道なら、さしたる面白みが無いかもしれないし、珍しくも無い。
でも、多くの道路地図ではしっかりと色分けされ描かれている主要地方道だと言うのが、なんとも私の感性をくすぐるではないか。
今回は、マイナーすぎるこの県道を、全線、紹介しよう。
<地図を表示する>
最上川の支流のひとつである寒河江川に沿って東西に長い西川町を、県道26号線で西へと進む。 西川町役場にも近い間沢地区でこの県道は、対岸を走る国道112号線と合流して終点を迎えるのだが、目指す県道54号線はこの少し上流から入る。 その際、僅か500mほどだが県道291号線を通ることになる。 別に気にならない人が大半だろうが、私は既に違和感を感じだ。 何ゆえに、主要地方道と主要地方道を結ぶ僅かな隙間が、一般県道なのだろうか、と。 普通なら、ここは県道の重用区間として、主要地方道である県道54号線に指定されるのではないのか、と。 しかし、実際どの道路地図帳も、現地の標識すらも、県道54号線は県道291号線のために、県道26号線とは寸断されている。 この時点で、「あれ?」という気がした。 | |
そして、間も無く県道54号線の終点である(今回は終点から起点へ向けて進むのだ)、間沢の県道分岐点である。 手前から右の道が県道291号線、左が主要地方道である、54号線だ。 信号はおろか、青看も無い。 ただ、県道54号線の方向には「長沼大沼森林公園」という標識が立てられており、一応利用されている様子にホッとした。 | |
それではと、早速左折してみると、いきなり始まったのは勾配10%を越える、厳しい直線のぼりである。 しかし1.5車線の道の隅のデリネーターには、しっかりと「山形県」の文字がペイントされており、ここが県道であることを示していた。 急な斜面の所々には民家があり、生活道路として現役である。 早速のハードなのぼりと、25度を優に越えていた気温のせいで、もうフラついてきた。 なんと言っても、この日は前夜から走り通しである上に、既に“酷”道として悪名高い、国道458号線十部一峠攻略後である。 そもそも、そんな状態でなぜこの県道なのか謎と思われるかもしれないが、当初の計画には無かったこの道を急遽ルートに加えたのは、正に行き当たりばったり。ちょっとだけ余った時間に何をしようかと地図を見たとき、とても主要地方道とは思えないような細い細い線に無理やり県道の色が塗りたくられていたのを見て、思わず来てしまったのだった。 |
分岐から約1km。既に寒河江川の流れは眼下に遠くなり、対岸の山並みに走る山形自動車道と肩を並べる高さまで上っていた。 そこで、不思議な形に道が蛇行している。 主要地方道(しつこい?)をこんないびつな形に歪ませて、我が物顔にまっすぐ走るなにかの正体は、水路だった。 1車線分の幅しかない小さな橋には名前も付いていたが、失念してしまった。 寒河江川上流にある寒河江ダムに関した電力水路だと思うが、地図には無く不明だ。 | |
間沢から上ってきている一本の町道と合流すると、さらに勾配はきつくなった。 点在する民家の庭先を、1.5車線の道がうねるようにして登っている。 それにしても、熱い。 頭に巻いたタオルをびしょびしょに水で濡らし、滴る水でクーリングしながら走るのが、私の暑さ対策なのだが、この日のこの登りではそれすらも力不足だ。 |
厳しいのぼりのまま、一つの分岐点が現れた。 広いのは右の道で、2車線だが、非常に急そうだ。 左の道はいかにも集落道といった感じで、狭そうだ。 さて、県道はどっちだ。 片方は、県道ではなく、農道長沼公園線であるのだが…。 | |
さて、正解は左である。 これは、“険”道慣れ(?)している人には、意外と簡単だったかもしれない。 で、いかにも集落道らしかった県道は、本当に集落道のままであり、申し訳なさそうにポツンポツンと点在するデリネーターだけが、県道であることを示している。 しかも、緩和されるかと思った勾配は、緩和どころか、さらに激しさを増している。 もう、県もこの道のことは忘れたいのかもしれない。 少なくとも、主要地方道としては。 これまでのところ、デリネーター以外に県道らしいものは全く無いし。 | |
驚くべきことに、ここまでの道はバス道であった。 こんな、1車線の急勾配をどんな風にしてバスが上ってくるのか見てみたかったが、余りに運行本数が少なく、それは叶わなかった。 |
スタートから約2km、ここまで一方的な上りで、既に100m以上の高度を稼いだ。 狭い県道が、先ほど分かれたものらしい2車線の道(農道だ)に飲み込まれると同時に、目の前には長沼が広がっていた。 想像していたよりも開放的な景色に、少しばかり涼しさを感じた。 自然公園として整備されているだけあり、休憩するには良い場所だ。 | |
これが、農道との合流点である。 ちなみに県道は左の道で、標識も、停止線すらも無い。 優先道路は、農道らしい。 |
公園道路として改良された農道には、農道「長沼線」という立派な標識が設置されていた。 そこには、県道であることを辛うじて主張してきたデリネーターの一本も無く、もしかしたら、県道は農道に寸断されているのかもしれない…。 あるいは、考えたくないが、立派な農道の脇、湖畔の遊歩道として存在しているように見える車の入れない道(写真の左の道だ)が、かつての県道。 いやもしかしたら、現役の県道なのかもしれない…。 それはあんまりなので、一応ここは、県道が改良されているということに、してあげたい。 | |
長沼は大きくなく、300mほどで湖畔を離れる。 ここで、右に分岐があり、その道はさらに山中深くにある大沼に向かっているようだ。 正面の立派な道が(農道として整備された)県道であり、快適に走行できる。 そう、快適に走行できるたのは、これが最後だった。 |
芦沼田は、県道沿いの最奥の集落である。 バスの終点でもあるようだ。 ここからは、いま来た道と別の道で間沢方面に下りる町道があり、道なりに進んでいけば、そっちへと誘導されることだろう。 写真の分岐点、県道は、直進である。 | |
その、正面の道はいきなりこの有様である。 裏の田んぼに行く畦道か、はたまた裏山に行く林道のようであるが、主要地方道54号線の本領は、ここから先なのだ。 | |
妙に細まったデリネーターに、小さな「山形県」の文字。 やはり、この道が県道である。 この先、正面を遮る山並みを越え、隣町へと山越えだ。 大丈夫なのか、この道は。 不通だったら、泣くよ。 通行止めとかそんな標識すらないが、そもそもの車通りが少なく、県にも見捨てられていそうな道なので、“便りが無いのが無事の証”とは成らないのである。 それはそうと、失礼を承知で、かつ親愛の情を込めて言わせてもらう。 山形県って…、 秋田県と同レベルのど田舎のくせして、県道ばっかり多いよね。 秋田県ならただの林道や、町道レベルの道が、容赦なく県道指定されている様子。 その点、秋田県の県道は良く整備されているという印象だし、私的にはツマラナイ。 山形、最高ッスよ。 |
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