人工120万を擁し、東北唯一の大都市といわれる仙台。
この都心である仙台駅からわずか1kmという地点に、「謎の穴あり」 という情報が飛び込んできた。
流石に人口綢密の地だけあって、この穴に関する目撃証言をネット上でいくつか拾うことが出来た。
しかしそれらはみな心霊スポットとしての情報ばかりであった。
それら“心霊情報”が語るところによれば、穴の正体は
1.戦時中の高射砲の基地
2.亜炭鉱山
3.藩政時代の抜け穴
4.防空壕 …etc
など、多彩である。
また、それら情報の出所を踏まえれば当然とはいえ、一様に目撃者たちは「気持ち悪かった」「なにかいる」などと評しており、おそらくは都市のエアポケット的な地底空間なのだろうと思われた。
ただし、それらの情報は最新のものでも2003年頃までで、都市の中心部という立地を考えれば、現在も口をあけたままに放置されているとは考えにくいのではないか。
しかし、実際には、その不安は良い意味で裏切られた。
ともかく、謎の穴は実在したので、ここに報告しよう。
挑戦者あらわる!
飛ばない鳥は、穴に潜るトリ
行政機能や商業の集積著しい東部と、住宅や文教機能に特化した西部。
仙台市の特徴的なこの2つの都市シーンを分け隔てるのが、市街を貫流する広瀬川である。
穴の目撃情報によれば、その穴はこの広瀬川の河川敷の一角、愛宕大橋の近くにあるという。
だが、それ以上の情報を得られなかった私は、実際に捜索および調査をするべく7月28日、仙台市へと向かった。
写真は、愛宕大橋から200mほど上流の住宅地から見た広瀬川の様子。
対岸のビル群の奥には仙台駅など、市の中心部がある。
一方、此岸には愛宕山という古くからの参詣の地である小山があって、その景観は両岸相対するものがある。
穴があるのは、地形的におそらく此方の岸であろう。
そう踏んで、この辺りから捜索を開始した。
時刻は午前7時少し前である。
今回、山行が合調隊に志願した新参加者が一名。
東京都から参加の、トリさんである。
先日秋田で行った山行がのオフ会にも来てくれたのだが、実際に合同調査に参加するのはこれが初めてとなる。
彼女はまだ経験こそ浅いものの、関東で独自の廃道探索を行っている女オブローダーである。
本人曰く、「廃道が好き」とのこと。
私と細田と、このトリ氏の3人で、この探索は行われた。
ちなみに、このトリなる人物。
ハンドルネームは伊達ではなく、「生まれ変わるときには鳥になりたい。」と真顔で言うほどの鳥好きメルヘンガールである。
だが、鳥らしからぬその跳躍力には非常に不安があり、同行しているメンバーが真顔で駆け寄ってしまったほどの気合いの入った墜落を演じたこともある。(右画像)
ある意味、細田氏がオブローダーとして一人前に育ってしまった今、山行がにいちばん欲しいネタ要員としても期待大なのである。
本人も、まんざらではないようだし??
いや、このジャンプはちょっと真似できないよ。
噂の穴はどこにある?
国土交通省の宿舎の近くに車を停め、隧道に侵入できる準備を整えた後、河川敷へと出撃。
ちょっと我々の出で立ちはこの景色の中で違和感ありすぎだ(笑)。
と、とりあえず、愛宕大橋の方へと歩いてみる。
だが、よく整理された河川敷が続くばかりで、とても心霊スポットといわれるような穴が有るムードではない。
はてな?
河川敷はかなり古くに整備されたらしく、設置されたコンクリート製の階段なども、風化が著しい。
所々には埋め込まれた鉄筋が露出しているが、これも昔ながらのギザギザのついていない鉄筋だった。
おそらくは戦前の施工であろう。
やがて愛宕大橋の直下に達した。
しかし、排水溝があるほかには地下への入口と思えるようなものは見当たらない。
ちょうど朝の通勤ラッシュの時間に重なっており、橋上は殆ど渋滞に近い通行量だ。
また、堤防上の歩道を自転車にまたがった学生たちが頻繁に往来している。
平日の朝。
たまたま休みが重なったてここへ来ている我々なのだが。
なんだか… 申し訳ないような、虚しいような… いたたまれない気持になった。
穴もみつかんないし。
愛宕大橋と、そのすぐ下流にある愛宕橋の周辺をしばらく捜索したが、それらしいものを発見できず、当初想定していた範囲からは少し離れるものの、車を停めた場所からさらに上流の、山肌が直接広瀬川に接する一帯に向かってみた。
ここで見つからねば、折角来たのに無駄足になりそうだ。
だが、雰囲気的にはなんとなく、さっきよりもいい感じだ。
広々とした河川敷公園の先に、何か見つけられるだろうか。
おわッ!
樫の木 おじさん?!
なんか、気持わるいな。
でも、残念ながらこれは目指す穴では無さそうだ。
いくら何でも、あんな穴には入れない。
(後から知ったことだが、この穴は横穴墓という、古代の墓地遺跡であった)
さらに山裾に沿って上流に進むと、粘土っぽい茶色い崖が現れた。
そして、その下にはコンクリートの塀が続いており、一見何の変哲もない落石防止の柵のようにも思えるが…。
私はなにか感じるものがあって、朝露に濡れた草むらを掻き分けて、塀のそばに近付いてみた。
そして、さらに塀の裏へと…。
発見発見!!
あったぞ、穴だ穴。
これが噂の穴なのか?
どうもただの隧道っぽくはない。
コンクリートの坑口も、いかにも後から付けたしたっぽいし、あまりそそる構造ではない。
そして、ただですら薄暗い薮の奥に漆黒の口を開く穴の不気味さは、霊感が無い私でもいい気はしなかった。
戦中に防空壕として利用され、また人骨が出たなどと言ういかにもな噂もあるのだが、雰囲気的には確かにそんなムードもある。
無機質的なコンクリートの坑口の奥にはかなりの土砂が堆積しており、一瞬行き止まりかとも思ったが、光を当ててみると奥に続いているようだ。
坑内の土砂の凹んだ部分から地下水が流れ出ているが、この水の色が白い……。
別段臭いはないものの、これはかなり嫌な雰囲気……。
原因はなに? まさか、生活排水? それとも、産廃?
現地では余り話題にしなかったものの(っつーか、これから入るっていう穴のことなんだから話題にしろよ!俺たち)、今思えばこの水の色はかなり不快だ。しかも未だに原因不明だし。
洞内に侵入を開始する。
思いのほか奥行きがありそうだ。思ったほど土やカビの臭いもない。
コンクリートなのは坑門だけで、内部はまるっきり素堀のようだ。
入ってすぐの場所は小さなホールのように広いが、大量の土砂が置かれており、その一部に深いV字の切れ込みが入れられている。
水はこの切れ込みから流れだしているようで、洞内水没の危険を感じた。
また、土砂の上の平らな部分には、なぜか茣蓙が敷かれており、謎だ。
謎の穴の内部は確かに謎っぽい
案の定、内部は水没していた。
だが、決して深いわけでもない。
写真では青々とした水が1mもあるように見えるが、これは目の錯覚であり、精々水深は20cm程度と見えた。
ただ、目の錯覚の原因である両側の壁の喫水線跡を見るに、かつてはかなり深く水が溜まっていたのだろう。
これから先は推測だが、坑口の土砂に切れ込みが入っていたのは、大量に溜まってしまった水を逃すためではないだろうか。
白い水の原因……。
水底の泥が明らかに白い。
まるでバリウムのようだ。
だが、なぜ白いのかは分からない。
足でかき回してみると、白いのは表面だけのようで、中はただの茶色の泥だった。
たちまち水は泥色に変わってしまった。
さて、浅いとは言え水没している隧道。
私と細田氏は当然濡れるつもりで来ているので躊躇いはないが、合調デビューとなるトリ氏。
……流石に、この水の色では入りたく無さそうだ。
長靴なんかじゃ濡れる深さがあるし、そもそもトレッキングシューズだしね。
入っても待っててもお任せします。流石に姫様抱っこというわけにも行くまい。
とりあえず、待ちぼうけを食らって危険な場所でもないし。
とりあえず偵察代わりとばかりいち早く内部へ侵入した私は、白っぽい砂岩に穿たれた穴を奥へと進んだ。
内壁には数箇所、奥行き3mそこらの横穴が掘られ、奥の方は水が引けている。
何のための横穴なのか全く分からないが、或いは防空壕として利用された時期が本当にあったのかも知れない。
真っ直ぐ続く本洞は、すぐに水が浅くなり始め、20mほどで陸が現れだした。
この程度の水溜まりのために坑口で待ちぼうけは勿体ないと思い、トリ氏を呼ぶことにした。
ケンに徹していた細田とトリ氏を呼ぶ。
私が入ったことによって泥沼と化した水溜まりは、デビュー戦の場としてはあまりに不憫な気もしたが、まあ、廃道なんて綺麗な場所よりはキタナイ場所の方が多いのが普通なので、やむを得まい。
汚れるのが嫌ならば入らねば良いだけなのだから。
と、ちょっと意地悪なことを考えたりもした私の心配を他所に、彼女は不平も言わず、むしろにこにこ顔で膝丈ほどの沼地に進んできた。
まずは安心。
泥の海に取り残された、陶器製のお椀(左)と、石油タンクのようなもの(右)。
どちらも年代物な感じがする。
お椀を見たトリ氏もボソリ
…きもちわるいね…。
わざわざ肝試しの連中がネタで持ち込んだのでなければ、この洞内にかつて生活があった名残と考えるのが自然なのかも知れない。
これは防空壕説を裏付ける発見なのか。
陸になった洞内をさらに進むと、突き当たりが見えてきた。
だが、どうも行き止まりというわけでも無さそう。
左右に分岐していそうだ。
思いのほか、奥深い穴なのかも知れない。
次回、不快指数急上昇!!
腐臭漂う、その核心へ……。
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