隧道レポート 国道140号 駒ヶ滝隧道  後編

所在地 埼玉県秩父市大滝
探索日 2007.9. 3
公開日 2007.9. 10

駒ヶ滝隧道 二つの出口

出口その1 二瀬ダム堤体




 駒ヶ滝隧道のほぼ中間地点にある隧道内分岐。
まずは、ここを左折することにした。
この先は県道278号となる。
出口は近く、約50mほどで達する。



 脱出。
数分ぶりに静かな外の空気に接し、ホッとする。

 が!

今のトンネルって、自動車専用だったの?!

坑口にばっちり、標識があるんだけど…。
もしかして俺、 やっちゃった?



 どうやら、やってしまったようである …orz

いや! でも!
言い訳するとさ、秩父側の坑口には無かったぜ、この標識。
後でもう一度探してみたんだけど、やっぱりなかった。
ただ例の、工事で封鎖された遊歩道(封鎖状況)があったから、本来ならば歩行者(チャリも)は“事情を察して”そちらへ廻れってな訳だろう。

 そして、その遊歩道というのは、工事中の区間と二瀬隧道を通って、右の写真の歩道橋に出てくるようである。
この歩道橋の降り口が写真のフレーム外すぐ左にあって、トンネルに入らずとも二瀬ダムへと来ることが出来るようになっている。
複雑なので、次の地図もご覧頂きたい。



 現在地は、地図中央付近の「3875」という数字が書かれたそのすぐ左の信号機の場所だ。
歩道は地図に描かれていなかったが、私が書き足した。
また、この地点からは「道A」と「道B」の二本の道が分かれているように地図では描かれているが、現地での私は最後まで「道A」の存在に気付かなかった。
単に駐車場やダムの展望台スペースだと思っていた部分が、実は抜け道だった事になるが、ともかくこの「道A」は西側からの一方通行路で、現在地から車では入ることが出来ない。

 まとめよう。
この駒ヶ滝隧道は、実は自動車専用の隧道だった。
歩行者や自転車がとるべきルートとは、私と同じで東側から通り抜ける場合だが、まず遊歩道を通って現在地へ来て、そこからは「道A」で西へ抜けるのである。
これならば、駒ヶ滝隧道へ入る必要はない。(ただ何度も言うように、駒ヶ滝隧道東口に規制標識がないので、自転車は私のように入ってきてしまうケースが少なくないと思われる。歩道は一部階段だし…。)


 先ほどと同じ写真だが、ポイントをハイライトしてみた。
実は、普通に県道を素通りすると気づきもしないのだが、ここにも信号機が設置されている(地図には描かれているが)。

そして、これらの信号機はそれぞれ、「道A」から来たドライバーと、奥のダム管理施設から出てくる車のための信号である。
しかし、私がここに滞在している数分の間には、一度も変わることがなかった。
「道B」はトンネル専用信号で往来が管理されているが、その信号機は大分先のダム対岸にある。
だから、この坑口前はみな勢いよく通行していく(特にトンネルからも勢いよく車が飛び出してくるから、信号に従わなければ「道A」からの合流は危険すぎるのだが)。
はたしてここではどのような交通整理が行われているのか、数分間眺めただけでは、到底理解できなかった…。



 このレポの第1回で下から見上げた、その二瀬ダムだ。
今はダムの堤体そのものを通っている。
珍しい重力アーチ式ダムの堤頂が、そのまま県道278号となっているのだ。
路幅は隧道内より幾分マシだが依然として狭く、大型車同士の離合は不可能である。
だから、引き続き信号による片側交互通行の道である。

 右の写真は、駒ヶ滝隧道坑口を振り返って撮影。
坑口と道に覆い被さるように二瀬ダム管理所が建っており、これまた変わった風景だ。
本当にここは、意表を突く道路風景のオンパレードである。




 ダムの上から下流方向を見渡す。
臍くらいまでの高い欄干があっても、なお恐ろしさを感じる。
垂直ではないところが、余計にその高さ(95m)を意識させてくる。
この日は、堤体からの放水はゼロだった。
それもそのはず、これまで見たことがないほどに、秩父湖の水位は低かった。




 設計水位の下限に近いと思われる、この日の秩父湖の姿。異様に濁った水は、何かの作業が上流で行われていることを教えてくれる。
さらにもう少し下がれば、向かって右側の岸に沿って、約半世紀前に沈んだ林鉄が浮上してきそうだ。
正面の山を分水に湖は二方向に分かれているが、左が大洞川、右が滝川の本流である。
そのいずれにも、かつて森林鉄道が存在していた。

 私が本来進もうとしていた国道140号は、向かって右の山裾に白い擁壁を晒している。
トンネル信号機の姿も小さく見えていた。




 もう少しだけ県道278号を進んでみよう。

ここは、ダム堤の東詰。
弓形の堤体上を進んできた道が、突如踵を返すように反対方向へと曲がる部分だ。
地図で見てもかなり無理のある線形だが、実際には右の写真の通り、物凄い橋が架かっていた。

この、一番高い橋脚など、30mはあろうかという長足である。
もとより平地など全くない断崖絶壁に、よくぞこの屈曲した桟橋を建設し得たものである。
大変な難工事であったことは想像に難くないが、先ほどの「歩道橋」にさえ「二瀬橋」という大層な名前が付いていたにもかかわらず、こちらの桟橋は名無しのようである。少なくとも現地に名前の手掛かりはない。



 桟橋の終わりの辺りに、初めて見る制限標識があった。

 15km/h制限

ホームセンターの駐車場内とか、会社の構内とかでは端数のある速度制限標識を見ることはあるが、ここは明らかに公道(県道)である。
そもそも、公道で20kmを下回る制限速度標識を見ること自体が、初めてである。
自転車でさえ少し漕ぎ足に力を込めれば容易にオーバーしてしまう速度である。

この特殊な制限が、道路としては“特殊”な立地にあたるダム堤体上の道に適用されているのは、補助標識に「建設省構内」と書かれていることからも明らかである。
そういえば、福島県喜多方市の日中ダムでも堤体上の道に同じ速度制限が課せられていたのを思い出した。(写真)(ただし公道ではなかった)
もしかしたら、ダム堤体上は15km制限という内規のようなものが、建設省(国土交通省)にはあるのだろうか。


 ちょうどこの標識の真下の欄干に本県道のゼロキロポストらしきものが設置されている。
これは勘ぐりすぎだとは思うが、もしここが本当にゼロキロポストであるならば、奇天烈な速度制限を課せられたダム堤体上はあくまでもダム管理道路を借用しているだけで、本来の県道ではないのではないかという推測も成り立つ。
しかし、よく見るとこの標識はあくまでも「二瀬ダムから0km」と書いているだけだから、やはりゼロキロポストではないのだろう。

 ダム周りはネタの宝庫だというのが山行がの通説だが、ここも全く例に漏れない。素晴らしいネタ御殿である。




 7:34 【現在地:三峰側信号所】

 隧道内分岐から県道278号を進むこと約450mで、ようやくトンネル信号機が現れた。
対向車はここで待ち合わせするのである。
この距離だから、長い待ち時間もやむを得ないのである。

ちょうどここから少しの距離は2車線分の路幅があり、信号待ちの車列と行き違い出来るようになっている。
傍らにはダム湖を見下ろす展望所のような草地のスペースがあり、その隅に秩父湖の竣工記念碑が佇むが、駐車スペースはないので、もっぱら歩行者やサイクリストのみが立ち寄ることが出来る状況だ。





 停止線附近から振り返って撮影。隧道内分岐を示す青看には坑門の記号が一つ足りない気がするが、それでもデザインとしては見易くできており、流石プロの仕事だ。左折禁止であることを強く主張している。右方向に秩父と甲府が一緒に表示してあるのは、どうしても違和感を感じるがやむを得ないだろう。

私もここで引き返して隧道へと戻ることにした。
県道をそのまま進めば長い九十九折りの上り坂となり、最後は三峰山頂付近で終点のようだ。




駒ヶ滝隧道 その先


 ナトリウムライトイリュージョンへと逆走。

当然ここからは足を車に切り替えてのレポートだと、胸を張りたいところだが、迂回する遊歩道が通行止めである以上、もう隧道と通るほか戻りようがないわけ…。
「道A」の存在も知らなかったしね。  
と、ウダウダ言い訳終わり。

 隧道内分岐に戻る。
ちょうど村営のミニバスが国道を疾走していった。
県道側には停止線があり、一時停止の後に前方のカーブミラーを見て、自分で判断して進むようになっている。(左折は禁止)
洞内にまで信号はない。そこまで過保護ではないのである。
しかし、何の躊躇いもなくすっ飛んでくる本線上の車を見ていると、この交差点での一時停止忘れは相当にヤバイと感じた。
しかも、オレンジ一色の照明は車のヘッドライトを相殺し、カーブミラーがとても見えにくいのだ… 正直恐ろしい交差点だ。




 隧道内分岐を秩父側から来て直進すると、ご覧の景色。
出口近くまで、細い直線が続いている。

赤色灯に支配された洞内は、そこが非日常の空間であることを強烈に印象づける。
かつて新道がまだ無かった頃、奥秩父に憩いを求めた無数の都会人たちは、この隧道を潜ることではじめて、繁忙な日常からの離脱を実感したことだろう。

通路としての物質的な意義だけでなく、精神的にも隧道の果たしてきた意義は大きい。
無論それは正の面ばかりではなく、より奥地の住民にとっては村の発展を阻む壁のようにも感じられたであろう。
都市のエゴで建造されたダムにより林鉄という足を失い、水と地の壁により隔絶された奥地村落が、この奥秩父には無数にある。




 最後の急カーブである。
今度はカーブの部分も拡幅されることなく、殆どそのままの幅で左に急激に曲がっていく。
行く手の壁に白い反射が見えてくれば、間もなくカーブも終わり、あとは出口だ。



 そして、今度は出口部分が拡幅を受けていた。
カーブを抜けて最後の20mほどの直線区間が、2車線の幅になっていたのである。
結局、分岐分も含めて約400mの全長中、すれ違いの出来る幅に拡幅されているのは50mほどということになる。
新道が開通してしまった今となっては、再改良の可能性は低いように思われるが、個人的にはこれはこのままと言うことでお願いしたい。

旅を旅たらしめ、道路好きならば誰しもがワクワクする、素晴らしい隧道だと思う。



 隧道内を振り返って撮影。
すぐそこで一気に半分くらいの幅に縮小しており、隧道内に隧道があるようにも見える。
奥に目をこらせば、強烈な右カーブが待ち受けているのも見えるだろう。

 そして、この雁坂側の坑口前もまた、T字路になっている。
道なりに右折すれば雁坂方面、左折は「道A」であり二瀬ダムに通じているが、いずれも車向けの案内標識はない。 正面のガードレールの向こうは言うまでもなく秩父湖の湖面である。


 こちら側の坑口にも、色褪せてはいるが歩行者通行止めの標識が、自動車専用の標識とセットで取り付けられていた。
自動車以外は「道A」に進みなさいと言う指示が理解される。
しかし、これは標識の取り付け位置が悪い様に思う。
位置が坑門の外にあるので、一見「道A」が自動車専用のようだし、駒ヶ滝隧道に向けられた標識とは咄嗟に理解し辛い。
実際に走ってみると分かるが、道の左側を通るサイクリストの視線にこの標識は映りにくいぞ。



 驚くほどに低水位となった秩父湖。
現在は、新設なったばかりの滝沢ダムが試験湛水中なのだが、山を挟んで近接する両ダムの上流に導水管でもあれば、両河川が水量をシェアし合っている可能性もある。
はっきりしたことは分からないが。



 坑口前のT字路で進路を西に定めた国道は、奥秩父や雁坂峠への長程を再開する。
しかし、隧道までの幹線国道らしい2車線路も、坑口前のあの賑わいも、戻っては来ない。
この先新道との合流を果たすまでの6kmほどは、1車線の山道が延々続く。

秩父ダムの水管路を渡る控えめなこの橋は、駒ヶ岳橋。
駒ヶ滝隧道→駒ヶ岳橋とは、どんな由来があるのだろうか。



7:40 【現在地:麻生信号所】

 坑口から100mほど進むとようやく道が広くなり、トンネル信号がある。
ラッシュアワーであるはずのこの時間、停止線の先で待っていたのは軽トラ一台だけ。
しかも、長い信号待ちも慣れっこらしく、中のオヤジさんは運転席から外へ出て、空を仰いで一服中。
ようやく信号が変わったのを見てから、のんびりとエンジンをかけていた。

 奥秩父への国道140号はなおも険しく、でも、どこかのんびりと続く。

その様子もまたいずれ、ミニレポあたりで紹介したいと思うが、今回はここまで。