東北日本海側では男鹿半島に次いで大きく海へと突き出しているのが、青森県の西の果て、舮作岬である。
近年では、世界遺産登録された白神山地のお膝元であり、海の見える露天風呂が有名な黄金崎不老不死温泉を抱える一帯は観光地化してきているものの、もともとは、立ち寄る者も稀な、まさに僻地。
極寒・極風にさらされる、陸の孤島。 ハタハタ漁を初めとする漁撈に生計を立てる人々のみが僅かに住まう、そんな場所だった。
一帯のメーンストリートである国道101号線から、案内標識にしたがって、海側へ1kmほど走ると、黄金崎不老不死温泉にたどり着く。
立派な道が通っており、ひっきりなしに吹きすさぶ海風を除いては、最果てというムードではない。
目指す隧道は、この温泉の前を過ぎ、さらに海へと降りてゆく道にある。
岬は突端部まで段丘上にあり、まさに海岸線は断崖である。
この断崖を立派な道が下って行くがさすがに勾配はきつい。
そして見えてくるのが、ご覧の海岸線と、最果ての漁港艫作漁港である。
切り立った断崖が見て取れるだろう。
狭い海岸線に降り立つ直前、道は不自然なカーブで、張り出した巨岩を迂回している。
そして、その巨岩の下を貫くようにして、一本の隧道が目に飛び込んでくる。
これが、目指す隧道であるが、
…残念なことに、既にその命運は尽きていた。
立派な道を下っている最中にも、怪しいとは、感じていたが…。
何はともあれ、接近である。
隧道の直前、舗装は続いているものの、その上には葦原が広がっていた。
崖側から湧き出した地下水が小さな湿地帯を形成しているせいだ。
廃道には付き物の、不法投棄物も、ロープに「浮き」など、ここでは漁業に関するものばかりである。
葦の枯れ草を掻き分けて、やっと坑門に到着。
隧道の規模以上に大掛かりな閉鎖ではないか。
…ショボン。
しかし、現道が隧道のすぐ脇を削ってしまったのだと思うが、向こう側が見えすぎて、どうも迫力に欠けてしまう感は否めない。
この障壁、無理すれば乗り越えられぬこともなさそうだが、まず、反対側からのアプローチを試してみよう。
隙間から見る洞内は、壁面のコンクリートもしっかりしており、まだまだ現役の様に見える。
というか、味気ない景色。
反対側に回ってみて、ちょっと興奮。
うむ、こちらからの眺めは、なかなか廃隧道らしくてよい。
それに、隧道の前後にある、そして今では現道との間を隔てているコンクリートの屈強な壁は、よく見るに、まさしく防波堤そのものだ。
…なるほど、まさに渚に接し、高波しぶく隧道の景色は、さぞ絵になったことであろう。
できれば、現役当時の姿を見てみたかった!
こちら側は、障壁ありといえども、難なく脇をすり抜けることが出来た。
いざ、隧道に進入である。
しかし、この岩場、脆そうだな。
狭隘さもさることながら、直接の廃止要因は、この落石の危険だろうなー。
幅は、4mほど、完全一車線だ。
それにしても、高さが立派だ。(漁船を車に乗せて運搬できるように考えられたものだろうか)
なんか、鉄道の隧道のような印象も受ける。
非常にシンプルなつくりで、現役当時も無灯だったようだ。
もっとも、この短さなら照明は不要だが。
延長は、30mほどか。
路面は、簡易舗装のような感じで、アスファルトではなかった。
地下水の流入は無く、いたってドライ。
どうみても、まだまだ現役で通用しそうだし、古い隧道にも見えない。
扁額などが無く隧道名すら不明だが、便宜上「艫作隧道」とした。
外に戻り、現道から、隧道の入り口を眺める。
やはり、落石を脅威と考えたのだろう、坑門はロックシェードも兼ねていた。
そして、その役目を全うしていた。
隧道の先は、すぐに現道と合流し、まもなく艫作漁港に至り終点となる。
そのさきには、歩道すらない。
また、この日の漁港は無人であり、近くに集落もない。(もし津波があったら、背後はこの崖である。住みたくないな…)
来たほうを振り返ると、隧道のある岩塊の巨大さが際立って見える。
そして、このアングルの眺めは、漁港が現道をうまく隠し、まるでかの隧道が現役であるかのように錯覚させる。
これは、好きな景色になった。
廃隧道としては、規模も小さく、そう古い訳でもなさそうだ。
しかし、最果ての漁港との一体感は、なかなかに哀愁を感じさせる。
意外にアクセス性はよく、国道101号線からは車なら3分くらいだろう。
そんなわけで、もっと知られてもよい廃隧道だと思った。
隣県とはいえ、まだまだ情報が少ない青森における、当サイト初めての、廃隧道でした。
艫作隧道 (仮称)
竣工年度 1970年代? 廃止年度 2000年頃?
延長 約 30m 幅員 3.0m 高さ 4.0m
封鎖されているが隧道自体の保存状況はよい。
竣工年度 1970年代? 廃止年度 2000年頃?
延長 約 30m 幅員 3.0m 高さ 4.0m
封鎖されているが隧道自体の保存状況はよい。