橋梁レポート 旧鳥坂大橋 最終回

所在地 秋田県北秋田市阿仁
探索日 2009.11.14
公開日 2009.11.27


必死で吊り橋と格闘している最中、

しゃくるように見た下流側左岸の風景に、

ある違和感をおぼえた。



あれは、道?




橋とほぼ同じ高さに見えた、道らしきライン。

これをそのまま橋の袂へ延長すると、道は繋がっているように感じられた。


そして、私には心当たりがあった。

実は探索に出てくる前に、この旧鳥坂大橋の起源を知りたくて、手許にある昭和20年代の5万分の1地形図(阿仁合)を見ていたのだ。
そしてそこに本橋は描かれていなかったが、それに代わる旧道の存在していたことを知っていたのである。

この発見は、本橋の起源に関わるものだった。




【周辺地図(マピオン)】

右の画像は古地形図を加工したもので、赤く示したのが昭和20年代の「鳥坂林道」である。
「182」とかかれた独立標高点の近くを見ていただきたいが、鳥坂川本流に2本の沢が合流してくる複雑な地形の中を、2本の小さな橋を架して通過していたことが分かる。
また、この線の太さは軽車道を示すものである。

画像にカーソルを合わせると、最新の地形図に旧道を重ねて表示する。

便宜上、 A と B の2つの区間に分けたが、Aが純粋に廃道と思われる最新地形図に道のない区間で、Bは鳥坂林道の支線である雷ノ又(いかずのまた)林道と重複していると考えられた区間である。
ちなみに橋上から見えたのは、Aの最も南寄りの部分であろう。

今回はこの「鳥坂林道旧道」と呼ぶべき道を紹介しよう。





いきなりハイライトの旧林道



2009/11/14 15:48

この場所へ来た時には雨も上がり、遠くの雲の切れ目に青空をみて喜んだりしていたが、約40分の旧橋との格闘の最中再び雨が降り始め、いまや本降りである。
しかも午後4時という、新たな探索行動を起こすには微妙な時間。
これから1時間後にはすっかり真っ暗になっているはずである。

まあ、これから行おうとしている旧道は1kmに満たないので、やばくなったら引き返せば大丈夫だろう。

ということで、現橋の右岸側袂から旧林道へ分け入る。ここは旧橋との分岐地点でもある。





本降りの雨はカメラのレンズを見逃してはくれない。
タオルで拭いながら撮影を試みるが、時間的な薄暗さもあって写真写りは最悪に近い。
なにとぞご容赦願いたい。

写真は旧林道に入ってすぐの場面。
「場面」といえるほど特徴のある場所ではなく、ただの藪に限りなく近いが、一応は路盤の凹凸が残っている。
時期が悪ければ全く道を見出せないだろう。

ここから少し進むと、景色は一気に展開する。




これはなかなかアグレッシブ&クリティカル。

一歩でも足を踏み外したら、即座にあの橋の上から墜落したときと同じ状況が現出するのである。

もっとも、しっかりと地面に足をつけて歩いてさえいれば、踏み外すなどあり得ないのだが、そこはそれ。
オブローダーならば、積極的にこういう場面を楽しめるはずだ。
あの橋が架けられるまで、こちらが山人たちの通路だったのである。
流石にトラックを含む四輪の自動車は通れなかったに違いない。




振り返ればそこに、旧鳥坂大橋の勇姿が見えた。

この橋は、実際に渡ってみようとしない限りは、とても頼もしく見える。

床板の張り替えさえ出来れば、いまも無難に人を通すに違いないのだが、何ら観光地でもないこの北秋田の一渓流にあっては、我々のような好き者の他に注目する人はない。
やがて落橋の日が来ても、なお放置は続くものと思われる。






我々はいま、橋の上から見えた“道のライン”に居る。

蟻のように一列となって、辛うじて“命のライン”を繋ぐ。


間違いなくここが、この旧林道区間のハイライトだった。

→【通行シーンの動画】




足を踏み外さなければ危険はないが、何年も人など歩いていなさそうな小径には大量の落ち葉が積もり、その下には腐葉土が出来ていた。
雨に濡れた腐葉土の道は、全体が谷側へ傾斜していることもあって、とても良く滑った。

1メートル1メートルが、必死の行程だった。


そしてこの恐怖の区間は、写真のカーブで終息する。
その先はまた別の性質を持った場面だった。





15:58 《現在地》

旧林道は鳥坂川本流と雷ノ又沢の分水の尾根を回り込むと、進路を一旦南に転じる。
写真は振り返って撮影したもので、HAMAMI氏と細田氏の後ろにある杉のある尾根が分水である。

そして、道はここから九十九折りで下る。
下る先はどこかと言えば…




雷ノ又沢である。

旧林道はこの谷を短い橋で渡っていたように旧地形図に描かれているが、案の定と言うべきか、橋が残っている気配はない。

しかしともかく九十九折りの道形は鮮明に残っているので、それを励みに下っていく。




旧地形図だと九十九折りは1段だけしか描かれていないが、実際にはもう1段あった。
正味2段の九十九折りで谷底へ下る道は、かなりの急坂になっている。






谷底に到着。

ここで道は忽然と消える。
橋で沢を左岸に越して、更に下流へ進んでいたことは間違いないと思うが、橋脚はおろか橋台さえ残っていない。
土と木だけで作られたごく簡易な橋だったと思われる。




雷ノ又沢の清流は、今日一日の雨にもかかわらずさほど増水している様子はなく、我々は容易に徒渉することが出来た。

しかし、穏やかな渓といっても時間が経てば浸食は進む。
左岸にあっただろう道は完全に消えている。
或いは桟橋だったのかも知れない。

上陸する甲斐もないとばかり、我々は川の中を下流へ向かって歩いた。
そしてすぐに合流地点となった。




雷ノ又沢と鳥坂川の合流点は、絵に描いたような出合だった。

本流と支流の関係でありながら、水量も谷幅もほぼ同等。
そんな時間が悠久と流れた結果の風景である。

ここから先は、鳥坂川左岸での道探しとなる。




ちょうど倍くらいの谷幅になった鳥坂川を右手に下流へと進む。
水面から3mほどの位置に、幅1mくらいの微かな平場が続いており、我々はそこを歩いたのである。
それが旧林道の跡のようだった。

対岸は、岩壁ではないもののもの凄く急峻で、その上端附近に一筋のラインが見える。
ガードレールもないその道が現在の林道、さきほど車で通った道である。




渓相は依然として穏やかで、谷幅全体が河原のような感じである。
もっとも、今日はその大半が水没している。

道の方はほとんど斜面と一体化しているが、もう一箇所だけ大きな崩壊現場をやり過ごせば、その先は少し広い平坦地になっているようである。
まずはそこを目指して歩く。




ここは砂利山らしく、崩れた斜面の色は灰色。

ここをやや高巻き気味に迂回して進むと…




16:13 《現在地》

「B」区間の始まりである雷ノ又林道との合流地点にぶつかった。

ちょうど九十九折りの先端に出たので、このまま下の道を進む。

この雷ノ又林道は一応現役の道であるはずだが、ほとんど車通りはないらしく、未だ緑が深い。




林道を歩き始めるとすぐに鳥坂川を渡る。
旧地形図にもここに橋が描かれているが、これは架け替えられたものだ。
親柱に「昭和58年竣功」というプレートが嵌め込まれていた。

それよりも私の興味を惹いたのは、この橋の名である。
鳥坂橋」というのである。

鳥坂川に架かっている橋は、全部で6本。
下流から順に、秋田内陸線(鉄道)の「鳥坂川橋梁」、旧国道105号の「鳥坂橋」、国道105号の「新鳥坂橋」、そしてこの雷ノ又林道の「鳥坂橋」、先ほど渡ったのは「(旧)鳥坂大橋」、最も上流が「鳥坂大橋」となる。
全てが鳥坂の名を冠した橋なのである。これって相当珍しくないか…?



橋を渡ると右岸を一気に上って鳥坂林道との合流地点を目指す。

この辺りは旧地形図にある線形と同じようであるが、一応は車道として砂利も敷かれ、轍もある。
もっとも、それはひどく弱っているが。

鳥坂林道と合流する直前には、小さな田んぼが耕作されていた。
その傍らに、朽ち果てた「通行止」の標識が残されていた。




16:22 《現在地》

そして、約30分間の短い旧道探索は無事に終わった。

結果として分かったことは、旧鳥坂大橋が架かる前も林道は存在したが、それは自動車の通れるようなものではなかったということである。

旧地形図は昭和20年代のものだが、はたして旧橋の架けられた時期はいつだったのだろう。
旧林道の荒廃の度合いから見て、昭和30年代ではなかったかと思う。
そして、その橋は「鳥坂橋」を更新する大きな橋という意味合いで、「鳥坂大橋」と名付けられていた可能性が高いのである。








ちょ、 ちょっとナニしてんの?

細田さん?!





い、 石?


彼がナニをしたいのか、私にはすぐに分かった。
彼はこの一抱えもあるような大石を鳥坂大橋の上から投げ落としてみるつもりなのだろう。
それは何の生産性もない行動だが、高いところからものを落としてみたくなるのは、彼のよく知られた習性である。

問題は、わざわざ彼が橋のそばに落ちている石ではなくて、500mも離れた所から運びはじめた“不可解さ”である。




それでは、御覧下さい。

彼の努力の決勝点を。

→【橋から石を落とす動画】


…それにしても主任、よく「両足の複雑骨折」だけで助かったものだな…。

あと、後日細田氏にこの“不可解な行動”の理由を聞いてみたところ、「私が見つけてきた橋なのに、自分は恐怖で渡ることが出来ず、店長とHAMAMIさんだけを危険な目に遭わせてしまった事への、贖罪という気持ちがあったかも知れないス」…という、なんとも深いご回答を頂いたことをお伝えしておこう。
…どこまでイイヤツなんだ、細田…(T_T)





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