ミニレポ第201回 津軽二股駅と津軽今別駅

所在地 青森県今別町
探索日 2014.11.12
公開日 2014.11.18

これは今だけ?! 新幹線軌道に合法立入


【周辺地図(マピオン)】

先日地図を眺めていたら、面白い場所を見付けた。
青森県の津軽半島に、JRの駅同士がもの凄く近接している場所がある。
JR東日本が営業している津軽線の津軽二股駅と、JR北海道が営業している海峡線(津軽海峡線)の津軽今別駅である。
二つの駅は、地形図上で100m以内の距離に隣接して描かれている。

JR東日本とJR北海道は同じJRグループではあっても別会社なので、駅名が別々なのも、隣接するJRと私鉄の駅が別の名前を名乗っているようなものと勝手に納得するが、調べてみたわけではない。

というか、ここにこうして二つの駅が並んで存在する理由を真面目に解明していこうとしたら、それこそ津軽線や海峡線が誕生してきた経緯を解き明かす必要があろうし、私の手には余るだろう。

ここはミニレポである。
私は全く物見遊山的に、“変わった風景が見られるかも”という動機で立ち寄ってみただけであり、何かを解明するつもりはないことを予めお断りしたい。

だが、それでもこのレポートは一見の価値があるかもしれない。
少なくとも平成26年11月時点の光景は、一見の価値があった!





2014/11/12 6:43 《現在地》

駅、でっか!!!

これが津軽二股駅? それとも、津軽今別駅か?? 答えは、どっちも ノー!

明らかに建造中のこの巨大な建物は、2年後の2016年(平成28年)に開業が予定されている北海道新幹線の「奥津軽いまべつ駅」なのであった。
ここから見ると、なんか飛行場のようだな…。
とても高い渡り廊下が、一際目を引く。そしてその先に横たわる横長の建物が、新幹線のホームである。一番手前にあるのは、屋内駐車場か。

さて、私が訪れようとしている在来線の駅だが、ここから左に視線をずらしていくと見えた。



左端の黄色い建物が在来の駅で、津軽二股駅と津軽今別駅の駅舎を兼ねているようだ。
そしてさらに、道の駅今別も兼ねている。
この三つの“駅”を兼ねた建物には、「アスクル」という名前が付けられていた。

残念ながら道の駅は新幹線工事のために休業中であったが、二つの鉄道駅は通常営業中だ。

続いて、「アスクル」の入り口(写真の★印)に向かった。




6:45 《現在地》
もう目の前に津軽二股駅のホームが、津軽線の線路とともに横たわってますな。
そしてその単線の線路を、踏切のない渡り通路で渡った先にあるのが、津軽今別駅のホームに昇るための屋根付き階段通路である。
どちらの駅にも改札は無い模様。
自動券売機なども見あたらず、「とりあえず乗ってくれ」スタイルだ。

新幹線駅の工事が進むすぐ足元で、このローカル感満載のスタイル。たまりませんな。



「アスクル」の壁面には、四つもの駅名が列記されていた。

ここに新幹線駅が開業することが決定したあとに、この建物は作られたのだろうが、そんな真新しい建物には見えない。
新幹線計画が一朝一夕のものでは無いと言うことが、微妙に古ぼけた壁面や建物全体のデザインに滲み出ていた。

「アスクル」入り口の自動ドアに向かう。
北国の建物にありがちな二重ドア(風除室を兼ねるもの)だが、奥のドアは開かなかった。
前述したとおり、この建物は現在改装工事中なのである。




「アスクル」の二重ドアの間の空間に、二つの駅の利用者に対する機能が凝縮されていた。
一応ベンチもあるので、待合室としても機能している。
ただし暖房などは無いので、たぶん寒い。

そして、確かに別会社の駅が二つあるということが、統一感のない時刻表などのデザインから感じ取られる。
壁の左半分にJR東日本津軽線の津軽二股駅関係、右半分にJR北海道津軽海峡線の津軽今別駅関係の掲示がされていた。
順に内容を見ていこう。



→これらは、津軽二股駅の時刻表と運賃表。

津軽線内の蟹田〜三厩間を毎日5往復の運行があるようだ(一本だけ青森まで行く)。
旅行の自由度を担保するには明らかに少ないはずなのだが、今どきのローカル線としては、結構ありがちな本数かも知れない。
運賃表にも要注目。
蟹田まで320円、青森まで970円というのを、憶えておいて欲しい。




←そしてこっちが、本州にはみ出してきたJR北海道、津軽今別駅の時刻表&運賃表である。

こっちはもう、津軽今別駅なんぞ重視していない感が、もろに出ている。
現在、津軽海峡線は青森と函館の間で一日10往復の旅客列車が運行しているのだが、そのうち津軽今別に停車するのはたった2往復(4本)だけらしい。
止まらないよりはマシという程度である。(ちなみに津軽海峡線を走る列車はすべて特急列車で普通列車は設定されていない)
しかも、青森方面の時刻が12:39と19:37、函館方面の時刻が9:05と15:45というのは、津軽二股駅を走る列車との接続を考慮していない。

このように、津軽今別駅は停車する旅客列車の本数だけをみれば全国有数の閑散駅だ。
そこに津軽線よりも遙かに長大な特急列車(のみ)が停車するというミスマッチが興味深い。

そして運賃表にも驚きがあった。
ここから乗って、北海道上陸後の最初の駅である木古内で降りれば、たった1640円だけで良いという驚き。下の【ご案内】の欄に書いてあるが、木古内〜蟹田駅の各駅間だけは運賃だけで特急列車に乗れる特例があるのだ(以前あった快速列車が廃止されたことの救済措置らしい)。
個人的感想ではあるが、本州と北海道の間を1640円で移動できるというのは、安い。
輪行袋に自転車をぶっ込めば、1640円で北海道サイクリングを…(じゅるり)。
ちなみに、津軽海峡線と並ぶ渡道手段である東日本フェリーの運賃は、最も安い大間〜函館間の最安プランで1810円(青森〜函館間は2220円)である。
しかし船は自転車を乗せるのに+820円かかる。

あと、津軽今別駅から蟹田への運賃は340円、青森までの運賃は860円(+特急料金510円かかる)なのだが、津軽線を利用した場合の運賃(蟹田320円、青森970円)と遠近で捻れの関係にあるのが興味深い。
蟹田〜青森間は、津軽線と津軽海峡線が全く同じ線路を共用していて、距離も同じ筈だが、なぜかこうなる。
鉄道料金についてはよく分からないが、なぜこうなるのか、詳しい人のご教示を待ちたい。

皆さまからの教えを待っていたところ、多数のお答えを頂戴しました。
本職の方からのコメントもありましたので、以下にその全文を転載させていただきます。とても興味深い内容です。
コメントを下さった皆さま、本当にありがとうございました。


JRの駅係員です。
JRの路線には幹線と地方交通線と路線を2つの種類に分けて、また営業キロ・換算キロ・擬制キロ・運賃計算キロと4つのキロ数を使い運賃計算をします。
計算体系が複雑なのでここでは詳しい内容は割愛します。

はじめに、津軽海峡線は愛称であり(首都圏では湘南新宿ライン、近畿圏ではJR神戸線などが当てはまります)、本来の鉄道路線名称ではありません。
本来の鉄道路線名は、

青森〜(中小国)〜(津軽二股)〜三厩間は津軽線(地方交通線・JR東日本管轄)
中小国〜(津軽今別)〜木古内間は海峡線(地方交通線・JR北海道管轄) ※「津軽海峡線」ではなく「海峡線」

として定められています。
ここの分岐点に関しては厳密には説明が違います。Wikipediaが詳しいので、詳しい内容は、
http://www.wikiwand.com/ja/%E6%B4%A5%E8%BB%BD%E6%B5%B7%E5%B3%A1%E7%B7%9A
をご参照ください。


愛称の津軽海峡線、津軽今別駅から蟹田への運賃は340円、青森までの運賃は860円の件ですが、
津軽今別〜(JR北海道管轄の海峡線)〜中小国〜(JR東日本管轄の津軽線)〜蟹田・青森と2つのJR会社をまたぎます。そのため計算方法は、
「全利用区間のキロメートル数に対応する基準額」+ 境界駅からJR北海道(・JR四国・JR九州)内のキロメートル数に対応する加算額の合計」となります。
上の「境界駅」はこの例でいくと「中小国」駅です。

●津軽今別→蟹田は
・全利用区間のキロメートル数(この例では営業キロ)は17.4キロ、端数は切り上げて18キロ
・対応する基準額は「B表 本州3社内の地方交通線の普通運賃表」を用いて320円
・境界駅(中小国)からJR北海道内(津軽今別)のキロメートル数(この例では営業キロ)は13.0キロ
・対応する加算額は「D表 JR北海道内の地方交通線の加算額表」を用いて20円
上記を合計して、320円+20円=340円となります。

●同様に津軽今別→青森は
・全利用区間のキロメートル数(この例では営業キロ)は44.4キロ、端数は切り上げて45キロ
・対応する基準額は「B表 本州3社内の地方交通線の普通運賃表」を用いて840円
・境界駅(中小国)からJR北海道内(津軽今別)のキロメートル数(この例では営業キロ)は13.0キロ
・対応する加算額は「D表 JR北海道内の地方交通線の加算額表」を用いて20円
上記を合計して、840円+20円=860円となります。


津軽線、津軽二股駅から蟹田への運賃は320円、青森までの運賃は970円の件は
津軽二股〜(JR東日本管轄の津軽線)〜蟹田・青森とJR東日本のみの利用となります。そのため計算方法は、
営業キロを用い、「B表 本州3社内の地方交通線の普通運賃表」に当てはめます。

●津軽二股→蟹田は
・利用区間のキロメートル数(この例では営業キロ)は19.6キロ、端数は切り上げて20キロ
・対応する運賃は「B表 本州3社内の地方交通線の普通運賃表」を用いて320円

●津軽二股→青森は
・利用区間のキロメートル数(この例では営業キロ)は46.6キロ、端数は切り上げて47キロ
・対応する運賃は「B表 本州3社内の地方交通線の普通運賃表」を用いて970円

新入社員の研修で習いましたが、コンピュータで簡単に金額が出てしまうので、改めて計算方法を理解するよい機会となりました。
ありがとうございました。

下のページを参考にすると計算ができます。

https://www.jr-odekake.net/railroad/ticket/guide/02.html#020
2014/11/20 追記



外へ出た。そして改めて、

津軽二股駅津軽今別駅 のワンショット。

津軽今別駅の構内では、新幹線駅が重なるように建設されつつあり、
従来以上に二つの駅のスケール感に差が広がっているようだ。



津軽線の蟹田方面の眺め。
この路線は昭和33年(1958)に開業した。津軽二股駅も同時開業である。

左上方に見える津軽今別駅の開業は、津軽海峡線と同じ昭和63年(1988)である。
それまではここには津軽二股駅だけが存在した。

奥の巨大な建造中の建物は、平成28年(2016)に開業が予定されている北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅。

ここには約30年ごとに新しい鉄道が導かれ、新しい駅が誕生しているのである。
ただし、奥津軽いまべつ駅の開業は、同時に津軽今別駅の終業を意味することになろう。
津軽二股駅がどうなるのかは分からないが、据え置かれるものと思われる。




そしてこれが津軽二股駅。

ホームは片側一面だけで、狭いホーム上には屋根も待合室もない。
ただ、乗り降りをするだけの極めて簡素な施設である。
そこそこホームは長いが、このホームの長さに見合う長さの列車が止まることは、もう無いだろう。

ちなみに昭和50年の航空写真を見ると(→画像にカーソルオン)、当時はもっと駅らしい本屋や倉庫?らしきものが何棟かあった事が分かる。
至ってどこにでもありそうなローカル駅だったのだ。
列車交換可能な敷地があった気配がある。



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待っていても一向に列車が来そうな気配もないので(当然のように辺りには人もいない、工事関係者を含めて)、線路を跨いで津軽今別駅のホームを目指す事に。

両駅の間には15mほどの高低差があり、そこを結ぶのが、ご覧の屋根付き階段通路である。
無骨な鉄の骨組みを持つ薄暗い通路は、旧湯檜曽駅を彷彿とさせた。
階段も急で、バリアフリーのバの字もない。
すなわち現代的ではない通路なのだが、これが津軽今別駅のホームに至る、たった一つの道である。




階段通路を上りきると、突き当たりが見えてきた。

案内表示によると、突き当たりを左折すると青森方面の上り線ホームで、右折すると函館方面の下り線ホームらしい。

ただし、この階段通路の先は、開業当時の津軽今別駅の構造物ではない。
ここから先は、津軽今別駅があった場所に新幹線の奥津軽いまべつ駅を建設しているために臨時で置かれた、仮設の津軽今別駅ホームである。
したがって、新幹線開業と同時に廃止される施設ということになる。



まずは右折して下り線ホームへ行ってみる。
通路は地上ではなく鉄骨で組まれた足場の上にあり、微妙にペコペコした踏み心地のコンパネ通路となっている。
まもなくプレハブの待合室が現れたが、中の空気は冷え切っていた(ベンチと時刻表があった)。

さらに進むと短い階段を介して、仮設の下り線ホームに達する。




鉄骨とコンパネで拵えられた仮設下り線ホーム。
狭い片面のホーム上にはベンチはおろか駅名板さえなく、いかにも仮設らしい乾いた雰囲気だ。
線路の向こう側にある大きな建物は、建設中の新幹線ホームである。
本来の下り線ホームはあそこにあった筈だが、跡形も無い。




仮設下り線ホームから見下ろす津軽線の線路と、津軽二股駅。

巨大な新幹線駅の旁らに、現在の姿のままで津軽二股駅が据え置かれるとしたら、それはそれで面白い鉄道特異点の景観になりそうな気がする。
というか、たぶんそうなるのだろう。
北海道新幹線と津軽線は事業者が異なるし(だから並行在来線として廃止される心配はない)、二つの駅を一つにするような工事が始まる気配は見られない。




津軽今別駅の青森側隣接地の地上でも、なにやら盛んに新幹線関係の工事が行われていた。
あれは保線基地か何かだろうか。
新幹線と同じ軌間のレールが複雑に分岐しながら現在線の下から伸びていた。
なんかワクワクする。

続いては、上り線の仮設ホームへ向かうことにしたが、
そこからがハイライトだった!



階段通路の出口から見る、仮設上り線方面へ向かう通路。

しばらく線路沿いを直進してから、右に曲がっているのが見えるが…。

右折地点まで進むと、

驚きの光景が広がった!



突き当たりの建物が、上り線の仮設待合室である。
そしてそこに至るまで、仮設通路は線路を4度跨いでいる。

一番手前の線路にだけ踏切が設けられているが、これは津軽海峡線の下り線である。
軌間1067mmのこの線路は、新幹線開業後もこのまま残されて貨物列車が走るものと思われる。

奥の3本の線路は、すべて北海道新幹線用である。
こちらは軌間が1435mmあり、まだ新幹線車両の試験走行も行われていない、
本当に敷かれたばかりの線路だ。列車は走らないので、踏切もない。



これから私は、生まれて初めて新幹線軌道に足を踏み入れる。(ミニ新幹線は除く)

この体験が合法的にできる場所は、きっと珍しいだろう。
開業後は(非常時を除いて)合法的には歩けない場所である。
もちろん、今はまだ新幹線軌道ではないからこそ許されるのだが、
それでもこの体験には希少価値があると感じた。



そしてもう一つの貴重な体験は、新幹線のホームを軌道面に立って眺められるということだ。

内装以外は概ね完成しているがらんどうの新幹線ホームを、間近に見る事が出来た!



明かりの付いていない新幹線駅、不気味だけど、格好いいなぁ。

このまま映画の撮影に使ったら、凄いシーンが撮れそうだ。
(11月22日から1週間、ヨッキれんはトリさんと映画に出ます!  →チケット



新幹線もえ〜!!

でかい構造物萌え、でかい線路萌えである。

俺は今、未来の日本の大動脈に立っているンだ!!

この先約5km、6本目のトンネルが、かの有名な青函トンネルだ。



そして行き着く、小さな小さな仮設待合室(と仮設ホーム)。

この仮設待合室なんか、線路と線路に挟まれた異常な立地にある。
線路好きなら一度はおいで。ただし賞味期限は短いかも。


以上、にわか新幹線ファンのヨッキれんが今別町からお伝えしました。

完結。



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