その51美山湖 水没旧道2004.4.29撮影
 秋田県協和町 


 協和町を貫流する淀川の源流である唐松地区に、1997年完成した多目的ダムが協和ダムだ。
そしてこのダムによって誕生した湖が、美山湖である。
袋小路の山中にある閑静なダム湖には毎年ニジマスなどが放流され、現在では太公望達に人気のスポットとなっている。

ダムの湛水域にもともと人家はなかったが、船岡林道が沈んだ。
その一部は、水位の変動に伴い地上に現れ、そしてまた沈んでいく。
今回は、美山湖の水没旧道をお伝えしよう。



 JR羽後境駅のある協和町の中心地から協和スキー場方面へ県道28号線、宇津野からは県道316号線へ、それぞれ淀川沿いを道なりに進むこと15kmほどで、協和ダムへ着く。
正面の山並みは標高1000mちかい太平山地の壁であり、反対側には西木村や田沢湖町がひかえているものの、越える道はなく袋小路だ。
これ以上奥には集落もなく、釣り人や林業関係者、それに山菜採りくらいしかこの奥へ進む人はいない。




 まだ新しいだけあって小綺麗なダムである。
ダムサイトは車両通行止だが、歩くことはでき、対岸を行く美山湖林道へ至る。
ちなみに、この林道とはダム上端でいずれ合流する。
本ダムは、洪水調節・上水道・用水の確保を目的に建設されており、比較的大規模な重力式ダムのわりに、発電はしていない。
上流の流長は極めて短く、流水量が少ないのが原因にあるのだろうか。

ダムサイト付近からは、一直線に水面へと落ちていくアスファルトの道があるが(写真右の道)、これは旧道ではなく、かつて旧道とのアクセスを行う目的で作られた物のようだ。
現在は封鎖されている。




 対岸の美山湖林道。
あちらは一車線の未舗装路だが、此方側は一応県道316号宇津野唐松線だけあって、舗装されている(ただし荒城大橋まで)。
しかも、二車線だ。
絶対にオーバースペックだと思うのだが。
まず車なんて殆ど走ってないし。




 ダムの中盤付近に掛かる、沿岸で最大の橋「荒城大橋」である。跨ぐのは荒木沢。
そして、この橋を渡った先で道は左折する岩城林道と分かれる。
なお、岩城林道は、荒木沢の支流である岩木沢に沿った道である。

って…、「木」と「城」が同じ読みなのだが、混在していて訳分からん。
しゃれっ気のつもりなのかもしれないが、迷惑だ。




 荒城大橋から湖畔を見下ろせば、そこには旧道の橋が見える。
あからさまに林道然とした質素な橋だが、未だ太公望達に利用されているのか、現役だ。
時期によっては水没もあると思うのだが。
この旧橋へのアクセスは簡単で、岩城林道に入るとすぐに荒城公園があるので、この公園へと左折すれば、あとは湖畔まで運んでくれる。
途中に車止めがあり、一般車は進入できない。

では、私もいってみよう。



 荒城大橋を潜り湖畔へと至る。

立派な親水公園となっており、余りにも知名度がない分、のんびりするには良さそうだ。
対岸の山の中腹には場違いな鉄塔が写っているが、あれは盛秋幹線と言って、秋田と盛岡とを繋ぐライフラインである。
この淀川沿いの山越えは、現在それを成す道はないものの、唯一この鉄塔だけが突破していく。
その姿は雄々しくさえある。
なんせ、道無き山肌に地形を無視したような鉄塔が延々と続くのだから。
そして、それが山の向こうへと消えていくのである。
無論、西木村側からもその壮観な眺めは見られる。



 これが、旧道の荒木橋である。
林道として好ましい橋は、かつてここを通う森林軌道が廃止された後、トラック輸送用に開設されたものだろう。
とすれば、昭和40年代の竣工だろうか。
船岡林道自体は、昭和20年には既に宇津野から唐松付近まで延伸していた、歴史ある車道である。
現在その全線は県道化している。



 この日の水位は高くないようだが、水面からは5mほどの高さにあるこの橋も、ごくたまに沈むことがあるのだろう。
一帯には水没地独特の雰囲気がある。
このままダムサイト方向へ戻っても、確実に浸水してしまうはずだが、とりあえずその浸水点までいってみることにした。




 100mも行かぬうちに、もう道は怪しくなってきた。
水たまりの目立つ、土っぽい砂利道。
すぐ左手には、青い水面。
数名の釣り人の姿も見える。
遠くにはダムサイト。






 そして、あっけなく道は水没していく。
もう、これ以上は行けない。
引き返しだ。

今度は、岩木橋より上流へ走ろう。
一旦橋まで引き返す。



 旧荒木橋から、さらに上流へと旧道を進む。
この先はフカフカのススキの絨毯に道は覆われ、チャリでの進行もままならない。
完全な廃道である。
夏場などは、まず通り抜けできないだろう。

ハッキリ言って、うんざりの展開だ。
疲れる。



 淀川をここで渡り、左岸に旧道は遷る。
この橋は変わった名前の橋である。
その名も、モグラ橋。

元来は船岡林道のコンクリート橋である。
今は、前後をススキや笹原に阻まれ、容易には接近できない。
この橋から現道を見上げれば、そこにはモグラ沢橋が。
この奇妙な名は、現道にも引き継がれたのである。





 左岸に遷ると、ますます道は怪しいムード。
腰丈ほどの笹原が何処までも続いている。
かつて道があった場所には、人一人分ほどの僅かな地表が見えており、辛うじて私はチャリと共に進むことを許される。
正面には次第に険しさを増すV字の峡谷。
その奥にはだかるのは郡境の山並みである。
既に淀川は湖ではなく流れている。
対岸には現道が、右には一段高いところを、美山湖林道が通っている。




 踏み跡が確かになってきた。



 かなり、右手の美山湖林道のガードレールが近づいてきた。
その距離、僅かに20m。
もう、その気になればあちらへ移ることも出来そうだ。
しかし、私は最後まで旧道を辿らんと、廃道に汗をかく。
ほんの1mほどだが、潜水橋の跡らしきコンクリが露出していた。
そして、ここを渡れば、いよいよ旧道も終了だ。




 合流点は穏やかな接続であるが、確かなガードレールが隔てる。

美山湖の旧道は、これにて終了。
この先美山湖林道を500mほど進むと、県道316号線の終点である、朝日又橋に着く。



2004.5.3作成
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