ミニレポート <第85回>  山行が特選怪奇譚シリーズ 日暮れ坂に光る眼
公開日 2005.11.29





 旅を続けていると、思いがけぬ体験をすることもある。

 例えば、見知らぬ街の夕暮れに、

 何か、目に見えぬ気配を感じることはないか。



 このお話は、

 私の不思議な体験と、それにまつわる数枚の写真である。







 山形県庄内地方の某町、古くから霊山と崇められし峰の麓に位置するその町の片隅に、幾つもの坂が点在する地区がある。

坂は、広大な水田と山上の里を結んでおり、坂の両側に集落があれば、それは峠となる。

このお話は、そんな峠に始まる。


  −いま、日が暮れた。




 坂道をひとしきり登ると、

その頂は、隧道だった。

押し黙ったままの森のなか、

明らかに異質な赤が、煌々と漏れている。




 戦後間もなくに建設された、

 綱 取 隧 道 。


坑口の正面上部には、立派な扁額が。

右脇には、竣功年度が刻まれている。

 昭和二十六年四月竣功

と、そうあった。





 いま、ここにいるのは私一人。

家路に急ぐ誰かが通りかかることもない。

ナトリウムの燃える化学反応が、

生き物の胎内のように、洞内を赤く染めている。

歩行者一人分だけの、狭く土埃にまみれた歩道がある。

しかし、明るいのは出入り口だけで、長い洞内は、殆ど真っ暗だった。

私のチャリを漕ぐ金切り音だけが、闇に響いた。





 隧道を抜けると、そこは一面の緑の原野だった。

しかし、よく見るとそこかしこには、

放棄された畜舎が、あった。


どこからか現れた二匹の野犬が、

まるで憑かれたかのように、私に吠えかかり、追い立てた。

私は、何か嫌なものを感じ、立ち去った。



 宵の明星が、光の失われ行く空に、残り香のような光芒を点す。

人のいない道が、下りに転じて続いていく。





 主なき民家が建ち並ぶ一角。

茂る夏草の影に何かが潜んでいたとしても、

ときに、それが、「妖怪」と呼ばれてきたモノだとしても、

あるいは、ありかもしれない。


 私の、 遭遇  は、刻一刻と近づいていた。




 失われた陽の幽かな残照を、

遠くに灯る、街の灯りが送る。


 人の刻は おわり

 その主役を、 夜の住人 に


 いま あけわたす。




 “W坂” とよばれる 道。

 齢経りし櫻の並木道。


 その先に、私は何か光るモノを見た。

 それは、眼。


 一目見て、人の眼ではなかった。







  で
  た
  |



 それは、
明らかに人ではない 何か たちの姿だった。
いまだかつて、こんなにいるのは
見たことがない!




 なんということか!

 もふっ もふっ もふっ

 もふっ もふっ もふっ 
 もふっ もふっ もふっ

 もふっ もふっ  もふっ…


   (注)掲載した写真は、御払い済みです。

2005.11.29 作成

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