ミニレポ第247回 新潟県道451号石打停車場塩沢線の「変な交差点」

所在地 新潟県南魚沼市
探索日 2019.11.05
公開日 2019.11.20

通行方法の指定は無いけれど……


新潟県道451号石打停車場塩沢線は、魚沼地方有数の“迷走県道”である。

当県道は、JR上越線の石打停車場を起点とし、そこから魚野川左岸の山麓に沿って北上、旧塩沢町の中心地である塩沢地区までを結ぶ、全長約9.5kmの一般県道だ。
全線にわたって、国道17号および関越自動車道が並行路線となっており、長距離の通過交通は大半がこれら幹線道路を利用するため、当県道が分担するのは、沿道集落に関する交通にほぼ限定される。

もちろん、こうした生活道路が県道になっていることは全く珍しくないのであるが、それにしてもこの県道の北側半分(大沢〜塩沢間)は迷走が目立つ難解なルーティングになっているうえ、区間内に1本のヘキサもなく、【卒塔婆標識】もたった1本だけということで、フィーリングのみでのトレースはほぼ不可能と思われるほどだ。

そもそも、この県道の認定は、少しばかり不可解だ。
道路法において、県道の認定にはいろいろな要件があるが、仮にそれを満たしても自動的に県道になれるわけでなく、別に内規のようなものが国土交通省の通達として存在する。その中には、「交通の流れに沿うように」という項目があるにもかかわらず、この県道は、起点の石打駅を出発すると、最寄り集落や幹線道路にそっぽを向いて、交通の流れとしてほとんど縁もゆかりもなさそうな塩沢地区へ走ると、石打駅と同じ上越線の3つ先の駅である塩沢駅の間近で終点を迎えるのだから、これはいわゆる停車場線らしからぬ“ひねくれ者”な県道だと思う。(こういう県道認定のルールなどに興味がある方は、拙作『国道? 酷道!? 日本の道路120万キロ大研究』を読んでみて欲しい)

おそらく、国道17号の山側の集落を結ぶ県道が1本欲しいという地元の要望が先にあって、半ば無理矢理に県道認定の要件を満たすべく、石打駅とかけ離れた塩沢という地方都市を結びつけたのだと感じられる。かの田中角栄のお膝元だからなどと勘ぐってしまうところだ。

……まあ、そういう話は今回の本題ではない。今回は、この県道の迷走ぶりを象徴するワンシーンである、ひとつの交差点に焦点を当てようと思う。



右図は、この県道の終点周辺を拡大した地図だ。
地名としては南魚沼市塩沢で、平成17(2005)年に南魚沼市が誕生するまで、塩沢町の中心市街地だった。
塩沢駅のすぐ近くの県道82号十日町塩沢線上に、県道451号の終点があるように見えるが、実際の終点は国道17号の塩沢小入口交差点であり、そこまでの約800mは県道82号に重複している。

今回紹介したい “迷?交差点” は、前述した県道82号と県道451号の交差点である。
県道451号の単独区間の終点となる交差点だが、ここが、きっつい! 県道451号の利用者が、進行方向によっては非常に戸惑うに違いない交差点だった。

右の道路地図の画像では、べつになんてことのない普通の十字路の交差点に見えると思うが……。

この地図を頼りにしていると、間違いなく、県道451号を見落とすことになるだろう……。

それでは、迷路県道の入口となる“迷交差点”を、ご覧いただこう。


次にご覧いただく現地1枚目の写真は、この交差点に東から入る道より撮影したものだ。
この場合、交差点を直進すれば、県道451号へ入ることになるはずなのだが……。



2019/11/5 11:54

なにかがおかしい。

県道451号は見えるが、その手前を横切っているはずの県道82号との間に――



高低差があって、
道路地図に描かれている十字路は、存在しない!


この交差点、本来なら、次に掲示する「地理院地図」のように描かれるべきだ。




県道82号は、アンダーパスのためのスロープになっていて、県道451号との丁字路には直接繋がっていない。

その代わり、アンダーパスの両側に平面の側道があり、このうち西側の側道が県道451号と繋がっている。

この地図だと、県道451号と県道82号の接続地点は、西側側道と本線の接続点であるため、

極めて鋭角の接続になっている。酷道で有名な百井別れを彷彿とさせる角度だ。


この側道を含めた県道指定の正確なところを調べてみると――




『南魚沼市地理情報システム』より転載のうえ著者加工

上図は『南魚沼市地理情報システム』で南魚沼市道を表示させたものであり、
全ての市道が赤と黒の実線で描かれている。したがって、これらの実線が表示されていない道は、
市道ではない道ということになり、具体的には林道や私道や県道だということになるわけで、
チェンジ後の画像に表示したとおり、西側側道の一部が確かに県道451号であることが伺える。
この部分以外の側道は、その名も「側道西山線」という路線名の市道に指定されているようだ。

つまり、地理院地図の表現は正確だったわけだ。


ここまでの内容を踏まえ、側道である「市道・側道西山線」を時計回りに経由して、県道451号へ進んでみよう。




側道である「市道・側道西山線」と、それと丁字にぶつかる「市道・塩沢西山北山線」の交差点から、北側を見ている。
ガードレールに取り付けられた反射材による矢印表示(デリニエータ)があるので、塩沢西山北山線から来ると、この交差点は左折しなければならないように錯覚するが、デリニエータには道路の通行方法に対する法的な拘束力はないので、右折しても違反にはならない。もちろん、別に進行方向を指示する道路標識や道路標示があれば別だが、ここにはそのようなものもない。

とはいえ、ここを右折しようとするのは、通常のドライバー心理からすると、いかにも逆走的であり、躊躇われるだろう。実際にも危険がありそうだ。
というわけで、塩沢西山北山線からこの交差点に入ってきた場合、県道82号へ行くにも、451号へ行くにも、一旦左折するのが標準的な動線になるかと思う。




というわけで左折すると、このような景色である。
すぐ先を関越自動車道の高架橋が悠々と跨いでおり、そのまた少し先にJR上越線の線路がある。
県道82号のアンパスは、これら2つの横断交通路をまとめて潜り抜けるものになっているが、側道である市道は、前者をくぐるものの、後者には跳ね返される。
踏切除去が目的だろうから、これは当然であろう。

アンパスは、かなり最近に建設されたものに見えるが(机上調査で確認できた)、関越道は昭和59(1984)年、上越線は大正14(1925)年にこの区間を開通させているので、年代的な開きが大きい。
関越道が建設された時点で、ここにアンパスを作る計画は存在したようで、交差部分だけは、側道を入れても十分な径間の高架橋になっていた。



丁字路から約100m、高架橋をくぐると間もなく、右折してアンパスを渡る、とても幅の広い橋が現われる。
これを渡れば、側道の旅は折り返しとなる。
ちなみに、橋には銘板などはなく、名前は分からない。

写真は橋の上から振り返って撮影した。
県道451号とぶつかるまで、あと100mほどだ。




ところで、この橋もちょっと奇妙な存在だ。

右は『南魚沼市地理情報システム』に表示されている最新の航空写真で現地を見たものだが、前後の側道とは釣り合わないほどの広幅員(2車線+α)を持つこの橋は、市道ではないことになっている。 まるで、将来ここにも広幅員の道路が計画されているかのような姿だったが、前後に高圧鉄塔と関越道の橋脚があるので、その可能性は皆無だ。

これはあくまでも、図中に紫のラインで描いた道(おそらく農道だろう)をまっすぐ通すために架けられている模様。
ただ、この農道も未舗装で、通行量はほとんどなさそうだった。
農道の利用者(爆走系軽トラ)が、このだだっ広いだけで白線も敷かれていない橋を、前後の農道の進行方向のまま斜めに通行するシーンを想像すると、なんか奇妙でおかしかった。



というわけで、敢えて農道の軍門に降らず、道路法上の道路だけで通行を完結させんと志すならば、もう少しだけ遠回りして、30m先に見える上越線の線路脇までいく必要がある。
それが、市道・側道西山線のルートになっている。
普通の人は、どうでも良いと考えるだろう。
場合によっては、無駄な税金を使っているなどと、怒り出すかも知れない。

……ほんとうにどうでも良い気がする。

赤矢印の位置にあるのは、アンパス内の歩道に通じる階段の入口である。
ただ……。




この階段通路も、滅多に使われることがないらしく、使用感皆無である。
新しいのに、薄汚れていて、屋根などは建設以来一度も掃除されていなさそう。完備された手摺りが物寂しい。

だが、それもやむを得ないことだろう。
アンパス内の歩道から、わざわざこの場所に上がってくる理由が見当たらない。
側道西山線沿いには、一軒の家もないのだから。
将来的に分譲される可能性も、関越道の高架橋の絡みもあって、低そうだ。

無理矢理利用者を想定するとしても、駅から歩いて田んぼへ来る人が居るならばといった程度で………、ああ、あと子どもの遊び場にはなりそうだ。



妙に豪勢だった農道橋とちがって、あくまで市道は1車線。
わざわざ広い橋を蹴って狭い市道に殉じる通行人は少ないらしく、また市もそのことを十分承知しているようで、この最後の「コ」の字部分だけは、路肩の刈り払いがされていない。
おかげで、舗装路なのに両側から覆い被さってくるススキがうるさい。


とても、楽しい……。




12:00 《現在地》

市道・側道西山線の起点へやってきた。
1枚目の写真の地点から、大きく「コ」の字に迂回すること300m、やっと反対側へとやってきた。

ここから左に入っていくのが、県道451号石打停車場塩沢線であるし、直進方向の側道の続きにしか見えない部分も、同県道の一部である。

例によって、この丁字路にも一切進行方法を規定するような標識類がないので、左の道から来た場合、右折も左折でも自由な状態である。



12:02 《現在地》

私はそのまま直進し、40mほど先の交差点へ。そして振り返った。
ようやく辿り着いた、県道82号と451号の分岐地点だ。

ここには、青看も、卒塔婆標識も、まったくない。
県道451号が県道だと分かるものは、何もない。

冒頭でも書いたとおり、ここは県道451号の終点ではなく、実際の終点は800m先の国道17号との交差点である。
この交差点から終点までは県道82号と重複区間なのだが、忠実に走ろうとすると、この交差点でUターン同然の曲り方をしなければならない! ひどい!




普通、こういう形の交差点だと、両側の側道は一方通行になっている。

だが、ここにはそれがないので、自由に走行することが許されている。

県道82号を向こう側から来て、この場所でUターンして県道451号へ入ることも、危険かも知れないが禁止されていないし、その他どんな通行方法も可能だ。

……まあぶっちゃけてしまうと、この県道82号という道、作りは立派だが、主要地方道としては交通量が少ない。
この地点から少し山側へ向かうと、すぐに1.5車線の山道になり、やがて冬季閉鎖区間となるのだ。
アンパスは、関越道と上越線で分断されてしまった旧塩沢町の東西を結ぶものとして重要なのだろうが、それでも交通量は多くない。
だから、いろいろな通行方法が許されているのだろうと思う。 

…ようは、緩いんだな(笑)。




みているそばから、いったー!!

腐っても県道。何の案内もなくても、県道451号なのである。
県道だから行ったわけでなく、この先の集落に用事があるだけだろうが。

それにしても、動きが早かった。
右折レーンも何もない交差点を、ほとんど減速せずの勢いのまま、
正面衝突コースで対向車線を横断すると、逆走にしか見えない右側側道へ突入していった。
間違いなく、ジモピーでしょう。そうでなければ、この動きはできない。



12:04 《現在地》

私も、彼の後を追って、同じ動きで県道451号へ向かうことにした。

ここが、側道との丁字路から臨む県道451号の起点方向だ。
どこにでもありそうな1.5車線の舗装道路で、変わったものは何もない。
この先、起点である石打駅前まで約9km、大して険しいわけではないのに、
迷走だけはすごくする道のりがまっている。その紹介は、また気が向いた時にでも。



県道82号との交差点を振り返ると、こんな風景だ。
この先の側道部分が特に狭いので、すれ違えないから、要注意。
一方通行っぽいくせに、実際は対向車が来る場合もあることを、お忘れなく。






なかなか、個性的な交差点だった。

なぜ、このような変則的な県道の接続になったのか、わざわざ調べるまでもなく予想は付いた(県道82号のアンパス建設でこうなったのだろう)が、一応確認まで、ごく簡単に調べてみた。


右図は、平成17(2005)年と昭和51(1976)年の航空写真の同ポジ比較である。

前者では、現在のアンパス道路が盛んに建設されている様子が描かれている。
着色した県道82号と451号のラインは現在のものを描いているが、このアンパスの建設によって2本の県道の接続地点が変化したことが、昭和51年版と比較することで、はっきり分かる。

昭和51年版だと、現在の塩沢商工高等学校前の交差点が、2本の道路の分岐地点になっている。
現在は県道451号である区間の一部は、県道82号だったこともわかる。
また、アンパス建設により降格した県道の一部は、今回のレポートの冒頭に私が立っていた市道・塩沢西山北山線になったことも判明した。

もっとも、この比較では、アンパスの建設によって2本の道路の接続位置が変わったことは示せるが、この段階で既に県道82号と451号が存在していたかどうかは、未確認である。
ただし、昭和61(1986)年発行の道路地図を見たところ、どちらの道路も一般県道として黄色く描かれていたので、路線名や路線番号は違うとしても、アンパス建設以前の両県道が昭和51年の図の形で接続していたことは間違いないといえるだろう。

県道451号は、将来的にもあまり利用度は高くならないという予想がされているか、アンパスの建設によってかなり不案内な接続方法を余儀なくされてしまった。
とはいえ、地元の人は大して不便を感じても居なさそうなので、接続方法が大規模に改良されることもなく、ずっとこのままになりそうだ。



完結。


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