ミニレポート第288回 新潟県道5号新潟新津線 亀田跨線橋 前編

所在地 新潟県新潟市江南区
探索日 2024.03.23
公開日 2025.02.26

 隙間があったら潜り込むのが、“ワルぬこ”流オブロード術!


2024年3月に「ミニレポート第281回 吉野川市道の希望橋」を公開したところ、このような「橋on the橋」が●●にもあるぞ、というようなありがたい情報が複数の読者さまから寄せられた。今回紹介するのもその一つだ。
なお「橋オンザ橋」というのは、文字通り2本の橋が上下に重なり合っている状態であるが、特に、両者の間隔が極端に近接していて、下になった橋が事実上利用不可能になっている場合を、私はそう呼んでいる。
特異な状況なのは間違いないが、各地で稀に目撃される“廃橋の一形態”である。

そしてさっそく本題だが、今回紹介する「橋オンザ橋」は、新潟県新潟市江南区内の田園地帯の一角にある。
その名を「亀田跨線橋」といい、新潟県道5号新潟新津線が、JR信越本線を跨ぐ道路橋だ。

前回紹介した“希望橋”が、山間地の市道が小渓流を跨ぐ小規模橋であったのに対し、今回の亀田跨線橋は、遙かに利用度も重要度も高い幹線道路の橋であり、下をくぐる線路もまた重要だ。
果たして本当に、そのような重要な橋が、イレギュラーである「橋オンザ橋」となっているのか。
もしそうだとすれば、なぜなのか。


少なからず疑問を抱きながら、現地へ向かった。





2024/3/23 8:16 【周辺図(マピオン)】【現在地】

例によって現場の近くで自転車へ乗り換えた私は、広大で平坦な新潟平野を南北に駆ける県道新潟新津線を北上開始、あっという間に、目的地である亀田跨線橋の南詰に到着した。この写真の地点である。

県道新潟新津線は、地元にお住まいの方なら誰もが知る歴史の長い幹線道路だが(だからこの橋の“事情”についても、おそらく皆ご存知だろう)、近年では広域交通路としての役割は並行する国道へ譲っており、ローカルな役割にシフトしている感じだ。それもあってか交通量の割に歩道の整備は進んでおらず、2車線の道幅にも余裕を感じない。センターラインも消え気味である。

さて、早くも目の前に現出せんとしている亀田跨線橋であるが、(チェンジ後の画像)遠望で行く先をズームしてみると、なるほど確かに違和感がある。皆さんも感じただろうか。写真だと伝わりづらい所もあると思うが。
私は、違和感を一旦は胸の中に収め、橋の上へ進むよりも先に、左の脇道へ逸れて、橋の側景を確かめることにした。
「橋オンザ橋」を見定めるには、側景を見るのが圧倒的に手っ取り早い。急がば回れの精神である。



……で、脇へ回り込みつつ見てみると……

亀田跨線橋が見えるな。

うう〜〜〜ん?  白いガーダー橋っぽいな。

なんとなくの違和感はあるが……、橋オンザ橋なのか、これは……? ちょうど橋のところが建物の屋根に邪魔されている。

あと、橋は1本だけでなく、メインの跨線橋へ登っていくスロープの途中にも見えるな、短いやつが。



う!



マジだったわ!!!

確かにこれは紛れもない「橋オンザ橋」。

最初に見えたクリーム色のプレートガーダーのすぐ下に、全く色の調和のない青い塗装のプレートガーダーが架かっていた。
下の橋と上の橋の間には僅かに空間があるが、下の橋は間違いなく廃橋だろう。
しかも、複線の線路を斜めに跨いでいるだけあって、“希望橋”なんかよりも遙かに巨大だ!

しかしまあ……、
滅茶苦茶強引だな!!!
役目を終えた跨線橋を撤去することをせず、その前後の築堤を再利用して、旧橋の上に新しい橋を架けるだなんて、普通じゃないぞ!

これはなんとしても、渡らなければ。

もちろん、下の橋をな!



これから私は、亀田跨線橋の旧橋とみられる、現橋の直下に架かっている橋を目指すが、そのアプローチルートとしては、橋の前後にあるスロープ部分の土堤を使うことにする。
画像のピンクのラインのイメージだ。
最短距離で向かっても良いが、スロープの途中に架かっている橋も一応確認したいので、このラインのように向かうことにした。

なお、自転車は役に立ちそうにないので、ここに残して行く。



なるほど……。

スロープの途中に架かる橋の直下には、コンクリートで蓋をされた大きな暗渠型の灌漑用水路らしきものが流れていた
暗渠を跨ぐ築堤があり、その築堤の天面が、この先の跨線橋部分の旧橋(下の橋)へ続く旧道時代の路面の位置を示唆していた。(チェンジ後の画像の黄破線の位置)

つまりここでは、旧道の路面の上に新たな築堤を盛って嵩増しをすることで、跨線橋部分の現橋へ至る高さを稼いでいるのである。
だが、既存の水路を渡る暗渠上での嵩増しをすると、増大した重量で暗渠を破壊するリスクがある。それを回避するために、暗渠の上には橋を架けたものと推測する。
なかなか凝ったことをしている。

なお、レポートの冒頭で跨線橋へ続くスロープを【遠望した】ときに、私が感じた“違和感”というのは、まさにこのことだった。
普通の一般的な跨線橋のスロープに比べて、妙に勾配が急に見えたという違和感があったのだが、それもそのはずで、もともと有ったスロープに盛土をして、旧橋の直上に架けた現橋へ繋げているのが、その原因だ。
なかなか凝ったことを……、いや、なかなかに乱暴なことをしたものだと思う。

ピンクラインのルートで、築堤上へ。



いてて! いててて!

幹も枝も棘だらけのオブローダー泣かせの樹木が、この“嵩増し橋”の周りに数本生えており、さっそく私を泣かせた。

それはともかく、この橋の様子を見て、私はこれがいわゆる本設構造物ではないことを察知した。
この剥き身の鉄骨の粗削りな雰囲気は、どう見ても、仮設構造物である。
これまで当サイトでも様々な場面で登場した道路界の名脇役こと、仮設構造物が、どういう経緯からか(調べればすぐに分かるが)、工事中の枠を越えて、県道5号新潟新津線の本線として、トゲトゲの藪が育つくらいの時間を継続的に活躍しているらしい。

そしてこの流れからすると、亀田跨線橋として現在使われている橋も、仮設構造物である可能性が極めて高い!



この寒い季節でなければ、深い草に包まれなければ歩けなかっただろう築堤の斜面を跨線橋へ向かって前進する。
従来の路面の高さはすぐそこだが、その上に工事現場などでよく見る鋼矢板(シートパイル)で両脇を固めた垂直の築堤が嵩増しされており、現在の路面はその上にある。進むほど旧道との落差は増しており、現道の勾配が加算されていることが見た目にもよく分かる。

鋼矢板の連なりが尽きるところが、現道である“仮設”亀田跨線橋の始まりの位置であった。



ここから、現道は橋になっている。
遠望における現在地は【ここ】だ。
遠目に見た印象よりも、遙かに無骨だ。
というか、完全に仮設橋の顔をしているといえる。

私が立っている位置が、本来の路面であったはずだが、鋪装が剥がされ、道であった面影は、ほとんどない。
だが、このすぐ先には、旧橋がそっくりそのまま残っているように遠望では見えていた。
私の目的地は、もうすぐそこだ。



おお!見えた! 旧橋の雄姿が!

見事に現橋の真下に収まっているな(赤矢印の位置)。
反対側はまだ分からないが、こちら側の道路端はぴったり一致していて、旧橋の桁の上面と、現橋の桁の下面が、接触しそうなほど近い。
が、あくまでも近いだけで接触はしていない。現橋を支えているのは、旧道の入口をどっかりと塞いで置かれた、とても巨大なコンクリート体である。
旧道の橋台の上に置かれたこの躯体が、頭上の現橋の実質的橋台となっているのである。

以前の“希望橋”でもそうだったし、基本的にどの「橋オンザ橋」もそうだと思うが、老朽化した旧橋に新橋の荷重を直接乗せることはまず考えられない。
旧橋は自重だけを支える状態で放置され(ようするに死に体だ)、別の安定した何かに新橋の荷重を担わせるのである。
ここでは、旧道の橋台が(=旧道の築堤を含む)その役割を担っていた。

次に私は、ピンクラインのように進んで、反対車線側へと向かった。



よしよし! こっち側からの方が、旧橋へアプローチしやすそうだ。

旧橋と、その上に乗っかっている現橋の位置関係は、チェンジ後の画像にそれぞれ着色して示したようになっており、現橋の方が長いのであるが、単純に長いだけでなく、橋の軸方向と橋台面が作る角度にも違いがある。
旧橋は、橋台面と軸線が直交しない“斜橋”だったが(それも、なかなか見ないくらい大きな鋭角が付いている)、現橋は単純な“直橋”であるために、現橋の橋台が邪魔をしている旧橋アプローチの難易度は、橋の左右で差が付いているのである。

今は“容易な側”から、アプローチを試みている。



8:23

よっし! ここから潜り込める旧橋へ!

旧橋に残された空頭高は現橋の桁まで約1mほどであるが、さらに空間を狭くする現橋の排水パイプが張り巡らされているために、潜り込むためには“ぬこ”の動きが必要だった。
しかし、ここには旧道の橋だけでなく、ガードレールや当時の路面も残っている様子。
潜り込み甲斐がある!

しかも、“希望橋”に比べて遙かに広大な空間が私のために死蔵されているぞ。
現道を車が通る度にエンジンの傍で聞く大きな騒音だけでなく、ズッコンバッコンという不快な振動もある(特に大型車)だけに、あまり居心地が良いとは言えないが……

突入じゃあァァァ!!






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