廃線レポート  
真室川森林軌道  その1
2003.12.31



 真室川森林軌道について、探索時に私が持っていた情報は少ない。
それは、現地が遠く、私の町の図書館ではほとんど情報が得られなかったためだ。
私に与えられた情報には、以下の二つがあった。

一つは、私がこの探索を計画した原因であり、また、本路線について知るきっかけとなったWEBサイトの存在である。
それは、おなじみ『山形の廃道』だ。
そして、サイト内で公開されている「真室川町の歴史民族資料館に存在する路線地図」の画像を、作者様の好意によりお譲り頂いたものが、今回唯一の“軌道の描かれている地図”であった。

そして、もう一つは、「JTBキャンブックス刊 全国森林鉄道」の巻末に収録された全国の軌道リストである。
そこには、真室川営林署の管轄する路線として二本が示されている。

   小又線  (2級) 延長12.4km 昭和6年〜39年
   大沢川線 (2級) 延長8.9km 昭和18年〜40年


このデータに、頂いた地図(下)と、現在の地図を見較べて、可能な限り出発前に経路を予想した。

推定される経路は、殆どが現在の道路と異なってる。
途中には3本の隧道が、ほぼ等間隔に描かれていて、それぞれの延長が80・120・180mということも、地図から分かる。
特に、最も西よりの180mの隧道の前後は、付近に道路もなく、かなりの困難が予想された。

路線の起点は奥羽本線の釜渕駅、左の図は今回探索部をトリミングしているが、終点は鮭川の最上流部にあったようで、その付近は現在、高坂ダムに水没している模様。
また、ダム付近からはさらに西側の郡境部の山域へと延びる路線も描かれており、この支線を、併走する河川名から「大沢川線」と断定した。
となると、本線の正式名称は消去法により「小又線」となる。
地図を良く見ると、途中に「下小又」と書かれた場所を通過しており、この名を裏付ける。


 それでは、実際に真室川森林軌道「小又線」の探索の成果を、紹介していこう。
今回探索の対象としたのは、鮭川沿いで、国道344号線からのアクセスが容易な高坂地区から、山中を隧道と共に貫き、小又、三滝を経て、起点釜渕へと至る部分だ。

情報の少ない状態からの、体当たりでの軌道跡探索は、これまでに無い多くの困難を伴うものとなった。


真室川町 差首鍋 高坂地区
2003.11.30 9:37


 今回の探索の起点は、真室川町差首鍋(さすなべ)地区。
真室川から酒田方面へと向かう国道344号線から、並行する鮭川を渡って、さらに対岸の丘へと伸びて行く2車線の道が、目印となる。
この道は、秋田青森県境の「青秋林道」と並び、林野行政の無駄としてしばしば話題に上ったこともある「大規模林道真室川小国線」の一部である。
ただ、建設凍結という結末からずいぶん経って、人々の記憶からその名が消えかけた昨今になって、その名は消え、新たに「緑資源幹線林道」という新たなレッテルを与えられ、堂々たる青看にも、違和感のあるテーピングで名前を変更した痕跡が残っている。

橋を渡りそのまま進めば、山を越え小又へ抜けるが、軌道を探索する目的の私は、橋を渡った先ですぐ、川沿いを左へ曲がる。



 国道が対岸頭上を迂回するほどの鮭川の狭窄部を、町道は切り立った崖の底を抜け、まもなく真新しいアスファルトも眩しい道となる。
再び景色が開け、遠くに県境部の丁(ひのと)山地を見晴らすようになると、そこが高坂集落である。
集落に突き当たると、道は二手に分かれる。
左が、鮭川上流の高坂ダム方面へと続く道で、かつて軌道も敷かれていたはずだ。
右は、「不動明王の滝」という案内板が立てられているが、谷地ノ沢に沿って上流へと向かう道であり、今回の軌道探索は、当初予定通り、ここから先について実施することとした。
右折する。



 しかし、早くも問題に直面。
手持ちの道路地図は10万分の一。
自宅で確認してきた2万五千分の一地形図でも、軌道痕跡は確認できず、現地には何かしら痕跡があるだろうと、乗り込んできたわけだが、何の変哲も無い農村に、おなじみの軌道痕跡は見当たらず、本当にこのまま谷地ノ沢の上流に向かってよいのかも、確信がもてない。
一帯には、似たような地形の鮭川支流が点在しており、しかもそれらの間に連絡路が無いことから、一度入る沢を間違えれば、多くの時間をロスしてしまうことが予想される。

これまで私が探索してきた軌道と決定的に違うのは、現役当時の地形図を見ていないということだ。
手持ちの「絵地図」のようなイラストでは、このようなマクロな場面での判断材料としては、弱すぎる。

早速、「山形の廃道」さん譲りの“奥の手”である、現地聞き込みを、開始することになった。
まずはあの、ビニールハウスの脇にしゃがみ込んだお爺さんだ。

 「すみませーん。」

 「お仕事中、申し訳ありません。」 (←もろ、営業スマイル&丁寧語)

 「この辺りに、森林軌道は、走っていませんでしたか?」



高坂地区の軌道痕跡
9:52

 声を掛けてみてびっくり、出るわ出るわ…。
決して饒舌ではないお爺さんの口から、次から次へと語られる、在りしころの軌道の姿。
まずは、安堵。
よし、ここに軌道は通っていたのだ。
できる限り多くの情報を、ここでゲットしなければ、次はどこで情報が得られるか分からないので、お爺さんのペースに合わせながらも、決して流されぬよう、こちらの質問も織り交ぜて、情報を収集してゆく。
お爺さんはたいそう上機嫌で、すぐ傍にあるという「痕跡」に案内してくれるという。
私が了解せぬうちに、さっさ森のほうへと歩き出す爺さん。
どこまで連れて行かれるかのかと、少し不安を覚えながらも、自転車でついて行く私であった。


 すると、1分も歩かぬうちに、立ち止まる爺さん。
道の脇の谷地ノ沢の沢底を指差している。
そこに目を遣ると、水量の少ない沢底を遮るようなコンクリートの巨隗が横たわっている。
相当に風化し背も低くなり、また傾いているが、それは明らかに橋台である。
対岸の杉林となった川原にも、もう一つの同じ様な橋台が認められた。

お爺さん曰く、かつて軌道はこの地点で谷地ノ沢と、今我々が居る林道を跨いでいたのだと言う。
廃止後もしばらくは橋はあったが、危険防止のため、30年位前に落とされたとのこと。

これは意外であった。
通常、沢沿いの低地を軌道が通り、その後林道などとして再利用されているケースは多いが、ここでは集落を離れるなり早速軌道は山中へ分け入り、沢を高い位置で跨いでいたというのだ。
それだけ、この先で越えねばならないサミットが高いのだろうが、今後の探索の困難を予感した。



 軌道は、この林道をも沢と一緒に跨いでいたという。
丁度、写真に写る斜面の上部に、釜渕・小又方向のレールが続き、対岸の山中に、今来た高坂方面へのレールが続いていたということになる。
方角的には無茶な感じがするが、高度を稼ぐために途中で進路が180度反転しているのかもしれない。
残念ながら、この一帯の軌道の経路は、まだまだ分からない部分が多い。
とりあえず、まだ他にもこの「巨大橋梁」の痕跡がないかと、辺りを探索してみることにした。
お爺さんには悪いが、一人でじっくり調べたいので、丁寧に礼をして、帰っていただいた。

よし、本当にこの斜面の上に軌道があったのか、登って確かめてみよう。



 急な土と草の斜面を、ツタや木の枝を頼りに、無理やり登攀。
直登すると、そこには確かに軌道の痕跡と思しき、浅い掘割りが存在していた。
それは、杉林の奥から橋の袂へ続き、



 そのまま、空中へと消えている。

50mも離れた対岸には、残念ながらここから見る限り軌道の痕跡は見つけられなかったが、お爺さんの証言や、現地の状況からいって、ここで軌道が谷地ノ沢を渡っていたことは間違いないだろう。

なお、背後に杉林の奥へと軌道跡が伸びていたが、全く歩道としても利用されている痕跡が無く、落ち葉や刈られた下枝などによって埋没した上に、崩落によって原形を失いかけていた。
探索開始時刻が遅かったこともあり、惜しかったが、今回はこの先の探索は見送った。
もし行うなら、かなりの覚悟を要するかもしれない。


 道路へ降りた後、一旦お爺さんの家の側まで引き返し今度は、お爺さんの証言によれば、軌道跡だという道を辿って、先ほどの橋の、川に阻まれたどり着けなかった対岸を目指すことにした。
写真の道は、お爺さんの家の脇から南へと伸びる畦道で、ここも軌道の痕跡らしい。


 暫くアップダウンの無い畦道を山沿いに走ると、見覚えのある景色に戻ってしまった。
写真に写る眼下の綺麗な舗装路は、さきほど高坂地区へと向かってくる際に通った道に他ならない。
どこか途中から、向かって左側の山中に分け入らなければ、橋へはどうしても繋がらないはずだが、人の姿も近くに無く、時間も無いこともあり、この部分の探索も断念した。

ただ、写真を見る限り、私が通っている道も、軌道由来という感じがするのだが、如何だろうか?
もしかしたら、橋へと向かう軌道のほかに、鮭川沿いを下流へ向かう軌道もあったのではないかと思える。





 今回の探索は、初っ端から難しい。
そして、軌道が想像以上に複雑な3次元的経路をとっていた事もあり、読者の皆様はもう、何がなんだかという感じだろうと思う。
実は、私もそうだ。
いまだに、ここの軌道の取り回しは、よく分かっていない。

次回からはさらに上流部、谷地ノ沢奥の稜線を隧道越えし、万助川へと続く部分を紹介してゆきたいが、その前に地図でおさらいしておこうと思う。
まだまだ未完の地図だが…。






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