廃線レポート  
森吉森林鉄道 その5
2003.10.19



 森吉町は阿仁前田から、小又川に沿って上流を目指していた森吉森林鉄道。
その終端は、かつてマタギ衆ですら神の領域と畏れた森吉山の奥地、粒様沢にまで達するという。
廃止後30年余りを経た現在、沿線の風景はダム建設を契機に急速に変貌を遂げつつある。

阿仁前田から東へ約20km、昭和28年竣工の森吉ダムに川は遮られる。
更なる上流へと向かうには、いよいよ県道を離れ、軌道跡に全てを賭けねばならない。

 森吉森林廃線レポート、これより本番突入!!


湯ノ沢温泉
2003.10.8 11:43


 しばし対岸に消えてしまったきりの軌道跡のことは忘れ、県道を上流目指し走った。
約3kmほどで、下流に建設中である森吉山ダムの工事以前は長らく最奥の集落であった平田地区にたどり着く。
ここには湯ノ沢温泉が湧いており、杣温泉という民宿と、一軒の国民宿舎がある。
現在では集落は消え、これら宿泊施設のみが、寂しく山間に存在している。

写真は、国民宿舎森吉山荘。
いまから9年前の1994年の夏、チャリ馬鹿トリオの3人でここに泊まった事は忘れられない。
思えば、それ以来一度もここには来ていなかった。



 宿舎前を通り過ぎると、道は二度分岐する。
一度目は、森吉山の奥座敷といえる森吉山麓高原へと向かう道。
この道は、数年前のジャンボリー開催によって酷い林道から2車線の高規格道路に生まれ変わったらしい。
が、未走である。
この分岐を過ぎてすぐに、再び右へと分かれる道がある。
これが、森吉ダム(下流に建設中なのは「森吉山ダム」、紛らわしい!)建設以前に利用されていた道であり、ほぼそのまま森林鉄道の跡地利用である。
道は、森吉ダムまで続いている。
比内町へと抜ける県道は左だが、私はここを右に進む。


森吉ダムへの道

 県道から外れると、今までの気持ち良い二車線道路から見るといかにも古そうな、荒れた舗装の1車線になる。
小又川に沿って、緩やかに上流を目指す。
途中一度小又川を跨いで、分岐から正味4kmほどで、森吉ダムに突き当たる。

写真は、ちょうどその中間地点。
まったく人家も無いが、道の両脇にはススキの原が広がり、ここにも以前は集落があった気配を感じさせる。



 道の先に重力式ダムの巨大なコンクリート堤体が見え始める。
ちょうどこの辺で、一本の赤く塗られた橋が対岸へと渡っているのが見える。



 この橋は変わった形をしている。
まるで、プラレールというおもちゃで作った高架橋の如くに、激しくカーブを描いている。
橋脚は全部で4本。
5径間のプレートガーター橋といってよいだろう。
その華奢な橋脚と、やはり薄っぺらな橋桁。
その上にまるでとって付けたように乗せられた歩行者用手すり。

直感した。
これは、軌道の痕跡である。
そして、

目指す道はこの先である、と。



 だが、はやる気持ちを抑え、まずはこの道の終点である森吉ダムまで行ってみよう。
この橋からダムまでは200mほどしかなく、間もなくダムの堤体が立ちはだかる。

軌道が現役だった当時にここを訪れた経験をお持ちの“下野爺”さんの証言によれば、ちょうど今私が立っている位置も、軌道の引込み線があったという。
それは、森吉ダム竣工以前の本線だった場所に違いないだろう。
そして、ダム湖が完成してからは、これを迂回するために、先ほどの橋を通る、付け替え線が建設されたのだ。


森吉ダム 
11:55


 行き止まりには、森吉ダムの他にダムの管理事務所と小又川第四発電所がある。
それらは無人ではなく、ちゃんとここを職場にしている人もいるようで、何台かの自動車が駐車している。
そのうちの一台は、なにやら重厚なガレージの中に納まっている。
シャッターも設置されており、ガレージとして利用されているのは間違いなのだが…、

でもこれって、ロックシェードでない??



 総貯水量37.2百万立方メートル、堤高62.0mは、重力式コンクリートダムとしては、別に珍しくもない規模。
だが、昭和28年に完成した当時は、県内の重力式ダムとしては唯一の物であった。
発電と防災を目的に建設された多目的ダムで、この完成によって砂子沢集落は水没し、さらに上流にあった大杉集落も孤立のため廃村となった。
当時既に大杉付近まで伸びていた森林鉄道も、このダム湖の誕生によって大幅な路線変更を余儀なくされている。
これから探索しようとしている軌道跡は、まさしくこの時に誕生したものである。


 放水路から流れ出る膨大な量の水は、この先100km以上の長旅を経て、米代川河口から日本海に注ぐ。
ここからの眺めはなかなか予期せぬ物があり、見ごたえがあった。



 堤体の下に管理事務所があり、長い階段で堤体上に上れるようになっていた。
無断で進入できるのかは分からなかったので、私はパスしたが。
スゴイ階段だったし…ね。

それよりも、写真奥に写るロックシェード。
さきほどガレージとなっていた部分の奥だが、豪快に横穴が開いており、そこからは赤茶けた水が流れ出している。
これは、ただのロックシェードではなく、隧道から延伸された物ではないか!

俄然気になり出す。
だが、この赤茶けた水…。
そして、無人ではない管理事務所の脇という場所…。

躊躇わないわけがない。


 結局我慢できず、入りました。

速やかに用意してきた長靴に履き替えると、流れ出る水流(深さは微々たる物)に逆らって、内部へと侵入。
やはり、そこは隧道そのもの。
森吉ダム竣工以前の軌道の通り道だった可能性が大だ。
現在は、どういうわけかヘドロが大量に堆積しており、まるで錆のような赤茶けた水が洞内を満たしている。
水路として利用されているのか、放置されているのか?



 振り返って撮影。
コンクリートで内壁はしっかりと施工されており、仮設の路線ではなく、ちゃんと“本線”上の隧道だったことを連想させる。
ガレージへと続く部分には扉が設けられ、通り抜けは出来ないようだ。
私が侵入に利用した側面の大穴は、人為的に開けられたものに見える。

さて、足元の許す限り、奥へと進んでみたい。
再び進路を奥へとる。


 入り口から僅か20mほど。
足元の水かさが増し、そればかりか堆積したヘドロは長靴をすっぽりと覆い隠すほどになってしまった。
残念ながら、これ以上の侵入は諦めた。
ここに空気の流れはなく、特に音も聞こえない。
完全に廃止された隧道のようだが、その闇の先はうかがい知れない。



 左の写真は、上の写真の明度を無理やりに上げたものである。

肉眼では殆ど確認できなかった幾つもの放棄されたドラム缶と、さらにその奥の内壁…なんと素掘りである…を確認できる。

はっきり言って、後悔している。
もっと奥まで探索すればよかった。たとえ泥にまみれてでも。
この探索時は、これを“大事の前の小事”と捉えていたところがあり、ダム以前の軌道跡であるとの認識も、不思議と薄かった。
しかし、今思えば、これはあの「仙人隧道」と並びうる、湖底へと続く隧道…まさしく良物件ではないか!

よって、この隧道(“森吉ダム隧道”とする)はいずれ、再調査を実施する所存である。

不本意だが、今回のレポートではここで撤収だ。



橋を渡り、いざ!
12:08


 少し来た道を戻り、あの橋の前まで戻ってきた。
いよいよ、今回最大のテーマであった、太平湖畔を貫く軌道跡へと、第一歩を踏み出す。
チャリをヨロヨロと進ませる。
下草は刈られており、何とか進めないことはない。

さあ、橋を渡ろう。


 手摺が設置されており、そのお陰で鼻歌混じりでここを通過することが出来た。
しかし、以前の写真では手摺が写っていなかったりするので、廃止後に通路として利用されている証かもしれない。
これは、幸先の良いスタートだ。


が、橋を渡り切った時点で、チャリを捨てる決心がついた。
早くも。


信じがたいほどの濃い藪
12:10


 橋を渡った私の前に立ち塞がったのは、それはもうおぞましいばかりの、深い藪であった。
私は、これを恐れていたのだ。
このような、自分の背丈よりも高いような藪に阻まれることを恐れ、真夏はじっと我慢してきたのである。
木々の紅葉も始まった今ならばと思い立って、来ては見た物の…これでは。

これでは、さすがにチャリは全く現実的でない。
チャリをつれて入山できるほど、この先は甘くはないのだということを知った。

ああ、いいだろう。
万世大路、米沢側。
錦秋湖は水没隧道群に、仙人隧道。
そして、森吉森林鉄道。

私にチャリを放棄させた、つわものどもよ…。
受けて立とうじゃないか!



 この日は既に藪をたっぷりと経験しており、多少の藪には動じない筈だったのだが、チャリ無くしてもなお辛いこの劇藪には、再び表情が消えた。
やはり探索の時期を誤ったのだと思った。
これ以上深入りして、まず間違いなくここを戻ってくる羽目になるのに、大丈夫なのだろうかと、真剣に恐くなってきた。
手探りで進む藪のどこに、熊が、猛毒を持った蛇が、蜂が、いやーなヒルが潜んでいるかも分からない。

恐い。
藪恐い。


 苦しくて足元に視線を落とすと、地面に埋め込まれた木材が見える。
こっ、これは枕木。
間違いない、等間隔に埋め込まれた四角柱の材木は、枕木に違いない。

この段階で早くも、ここが軌道跡であることを確信できた。
前後も分からないような藪にあって、これは大変に心強い発見だった。
だが、こんな藪が続いたのであれば、さすがに断念せざるを得ないだろう。
生きて帰れる気がしないもの。
絶対迷って死ぬ。


ブル道?に合流
12:18


 入山から約10分。
一向に進まない劇藪にやる気を失いかけていた私だったが、前方の景色に変化が現れた。
ここまで、橋からは推定500mほど。
小又川の左岸を下流に向かって歩いてきたようだ。

目の前に現れたのは、沢沿いの急斜面を強引に切り開いたような仮設道路。
私的には“ブル道”と呼んでいるものだった。
藪は終わり、この先の道はブル道となるのか。




 合流した道は、長らく利用されていないらしく、轍もない。 左に進めば、ブル道らしい超急勾配。多分これは軌道じゃないな。
正面の道は、これまでの藪道の延長線上であり、これが軌道跡と読んだ。

そこは、これまでとは一転して、まるで樹海の中だ。
複雑に捩れあい、それでも天を目指して伸びる異形の木々が乱立している。
もしかして、すごい所へ入っていくのか。
期待が持てる展開に、体温が上昇するのを感じた。


 巨大な木々が、急な斜面にも、切り立った岩肌にさえも根を下ろしている。
右手を見下ろせば、約30mほど下に小又川の波濤が見える。
このあたりは車道として利用された時期もあるのか、比較的状況がよく、それだけに周囲の景色を堪能することが出来た。


 幅3mほどの軌道跡は等高線をなぞる様に、それでも徐々に徐々に高度を上げながら、続いている。 この展開は期待以上だ。
景色も良いが、そればかりではなく、先ほどの藪が嘘のように、歩きやすい。
この調子ならば、意外に今回の探索で最後まで言っちゃえるかも…。

このとき、まだまだ余裕があった。


道が不鮮明に
12:24


 なおも、小又川の鬱蒼とした左岸を進んでいるが、これまでの緩やかな上りが、川原に降りてしまいそうなくらいの急な下りと転じた。
これが普通の廃道探索ならば、峠を越えたんだろうなと、喜ぶところだが、今回は事情が異なる。
なにがなんでもダムの堤体よりも高い位置まで行かなければ、軌道跡ではありえない筈なのだ。
しかし、道はこれしかないようだ…。

闇雲にこの樹海に足を踏み入れようものなら、間違いなく、戻れなくなりそうだ。
だが、このまま進むのは、どう考えても、目的から遠くなりそうだ。

どこかに突破口はないのか?!

悩みながら辺りを伺う私の目に、気になる物が飛び込んできた。
それは、思いがけず、頭上にあった。



 今いる場所より、さらに30mくらい上部に、妙に整った崖があるではないか。
苔むして森の一部と化しているように見えるが、いや、これは明らかに人工物以外ではありえないだろう。

気になる。
なんなんだ、あれは?
もしあれが軌道跡だと仮定したら、ではこれまでの道はなんだったのか?
軌道跡は複数あるということなのか?

林道ならば九十九折で上っていくという展開が考えられるが、勾配やカーブに滅法弱い鉄道において、この急な斜面を九十九で登っているとは考えられない。

あそこに行って見なければ、謎は解けないだろう。
決心して、崖に取り付いた。


 岩肌や蔦を頼りに、何とか急な崖を上ってゆく。
足を踏み外せば転落は免れまい。
興奮と同時に、冷たい恐怖感もあった。

見えてきた人工物の全体像。
やっぱり、これは人工的に作られた物に間違いない!
コンクリートを材料にした築堤のようだが、上部のほうからだいぶ劣化が進んでいるようである。
しかし、規模の大きな人工物である。


上にはやはり
12:32


 上りきると、そこにはやはり草生した路盤があった。
ここも軌道跡に間違いないらしい。
そして、ここにはなんと、一本の電柱と思われる物が現存していた。
金属製のまるで脚立のような形をした物体で、高さ3mほど、天辺には白い小さな碍子が二つちゃんと付いている。
これも軌道と関係した遺構なのだろうか?

私の興奮度は、マックスに限りなく近づきつつあった。



 コンクリートの築堤上に立って、太平湖側を見る。
そこにはたくさんの枕木が残存していた。
一面の苔に覆われた擁壁と、一拍置いて接するやはり苔に覆われた枕木。
路盤上には、縦横に枝が走り、根がのたうつ。
廃止後、半世紀にも満たない時間で、森はここまで元の姿を取り戻していた。

このとき、私の興奮度はついにマックスに達し、以降長くこのマックスは続くことになる。
断念のそのときまで。

さて、この先どちらへと向かおうか。
下の軌道跡とこの場所との関連が未だ不明なのだが、位置的には上ってきた場所から左へ進めば太平湖畔へ、右へと進めば入り口方向へと続いていそうな気がする。
その勘に頼って、まずは一旦右へと進むことにした。
下の軌道跡の顛末も気になるし。





 右へと進み始めた私は、僅か30歩ほど進んだだけで、立ち止まった。

眼前には、予想していなかった光景があった。
隧道である。

湖畔方向へと進めば隧道が現れることを予期していたが、これは予想外だった。
しかも、明らかに耐用年数を過ぎたような、全く持って威圧的な坑門のご様子。

こんな穴に、私は入らねばならないのか。
結局は、頼まれなくたって入るくせに、それでも一応躊躇してみたり。
いや、本当に躊躇しているんだ。
ただ、一方で好奇心に負ける自分がいるわけで…。

だが、この隧道は、思っていいた以上に

     ―――長かった。


その6へ

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