廃線レポート  
森吉森林鉄道跡 奥地編 その1
2003.11.3



 森吉森林鉄道。

「全国森林鉄道(JTBキャンブックス)」によれば、その全長は33.9kmとある。
国鉄阿仁合線(現:秋田内陸線)阿仁前田駅付近の貯木場に端を発し、小又川に沿って東進。
途中、森吉や小滝などの集落を経由しつつ森吉山北麓を通過、その終点は小又川源流に近い大杉集落にあったという。
さらに、途中からは幾つもの支線が延び、またその支線からも事業線と呼ばれた一時的な軌道が敷設されるなど、往時の森吉町には、県内の他の木産地に勝るとも劣らない遠大な鉄道網が存在していた。
それらは全て、昭和43年までに廃止されている。

この森吉森林鉄道には森林鉄道としては珍しい、ダム建設に伴う路線の付け替えという一大転機があった。
昭和28年に完成した森吉ダムの建設の際に、ダム下部の平田地区から終点間近の大杉地区まで小又川沿いにあった軌道を、湛水域から逃れるため、その南側の山中に付け替えたと言う記録が残っている。
「秋田県土木史」によれば、その付け替え軌道の延長は6300m、新設された橋梁は7本。
さらに、これは公式の記録では無いのだが、そこには少なくとも7本の隧道が存在していたという(「森吉山麓風土記」より)。

付け替え後、この路線が現役で稼動したのは、僅かに15年。
巨費を投じトンネルと橋梁で山河を貫いた新鋭の軌道跡は、一度も地形図に描かれることなく廃止。
その後転用されることもなく、その殆どが人跡まばらな山中に取り残されたのである。

この区間の遺構として最も知られたる物としては、森吉ダムが生み出した人造湖である太平湖を跨ぐ巨大な鉄橋が挙げられよう。
奥森吉最大の観光地である小又峡への唯一の足として湖を往復する観光船は、一日に数度、この鉄橋を潜る。
錆び付いた鉄橋が影を落とす蒼い湖面と、燃える様な紅葉の赤。もしくは萌える緑。
この完璧といえるコントラストにさらなる情感を加え、景色を一幅の絵画へと昇華させしめた鉄橋だが、いまだ、鉄橋上の様子は明らかではない。
すぐ傍に見えるのに、そこは、未知の世界なのである。
まして、鉄橋の前後にあるはずの長大な隧道など、異界の如きだ。


この軌道跡にロマンを求め単身乗り込んだ私だが、前回の初探索では、湖面すら見ぬまま、暗き隧道の内部で無念の撤退となった。

そして、10月30日。
駆け足で過ぎ去ろうとしている秋に追いすがり、本件に関しては今年ラストとなるであろう探索を企てた。
今回は、水没隧道突破を諦め、付け替えられた軌道跡を、終点側の大杉地区から辿ってみたい。
最終目的は軌道網の全容解明だが、まずは、湖面を渡る鉄橋を到達目的地と定めた。

まずは、大杉への道を、駆け足でお伝えしたい。


比内町 大葛
2003.10.30 7:48


 比内町大葛(おおくぞ)は、米代水系である犀川の上流部にある集落で、大館と鹿角八幡平方面を結ぶ短絡路として重宝される県道22号線と、森吉町へと抜ける県道309号線が交わる交通の要衝である。
10年ほど前までは、鹿角へ抜ける峠は不通であり、森吉へと抜ける道も酷い林道であったというが。

もっとも、交通量は平日の朝ともなれば極少であり、大葛集落の中心より少し外れた分起点は、さびしい佇まいだ。
私は、ここを直進し、森吉へと向かう。


 道の駅ひないを出発して以来、時折小雨がぱらつく不吉な天気。
この日の天気予報は「曇りのち晴れ」となっていたが、天を覆う雲は低く、周辺を取り囲む山々の頂は皆曇の中だ。
気温も10度を少し上回る程度であり、十分に厚着をしているとはいえ、雨に打たれたら無事ではすまない。

今回は特に、雨は嫌なのだ。
整備された道を走るだけならいざ知らず、前回の経験から言って、この森林鉄道の探索は薮漕ぎと無縁ではありえないのだ。
さらに、今回のターゲットは、川や沢にも縁が深い。
増水など、予期せぬ障害が私の探索を拒む恐れもあるし、隧道内の出水量なども心配である。

とにかく、雨が早く上がってもらいたい一心だった。
祈るような気持ちで、大葛からさらに犀川沿いを南下する。



砂子沢峠越えの上り
8:34

 県道309号線に入り約7km。
しばらくは沿道に続いていた田畑も途切れ、犀川は戸沢と泥繋沢という二つの沢にその源を求める。
県道は戸沢に沿って森吉町境の砂子沢峠を目指す。
この変から勾配が一気に強まり、いよいよ体内ヒーターが稼動し、一枚二枚と衣服を脱ぎ捨ててゆく。

…ウソです。
温かくはなったけど、ジャンパーのボタンを外しただけでした。
しかし、ここの上りは、結構きつい。



 県道309号線比内森吉線は、大葛から森吉町の阿仁前田までを結ぶ全長50km弱の路線で、平成7年に指定を受けたばかりの県道としては比較的新しい道だ。
しかし、そのかなり以前から林道としては開通しており、比内側が萱ノ戸沢林道、森吉側は砂子沢林道などと呼ばれた。
余談だが、昭和40年代に、あの田沢林道と“スーパー林道として整備される覇権”をめぐって争ったのも、この路線である。
そのせいか、当時の本の中には、この道を「太平湖スーパー林道」として紹介している物もある。

いよいよ戸沢も行き詰まり、稜線へ向け一気にスパートをかける。
この先峠までの2kmほどの上りが、本路線で最大の難所と言える…少なくともチャリにとっては。



 この部分の線形はなんとも形容しがたい物がある。
一つ一つのカーブはヘアピンであったり、S字であったり、九十九折であったりと説明できるのだが、全体の形としては…キノコ型?
まあ、とにかく奇妙な線形を描きつつ、落葉が進む山林を縫って登る。



 いよいよ最後のヘアピンコーナー。
距離こそたいしたことは無いが、平均10%を越えるUpが集中的に続くので、なかなか堪える。
先述の通り、個性的な線形の道ゆえに、3週間前に続いて二度目の走行でも飽きは感じない。
もっとも、前回は逆から下ってきたのであるが。

しかし、それにしても、この天候は不安だ。
周囲にそそり立つ山々の標高は800m前後だが、それらすら山頂は曇の中だ。
霧雨が断続的に降り注ぎ、全身はじっとりと濡れつつある。
しかも、この雨は前日いっぱい降り続いた続きであり、今日の水量は、いかほどだろうか…。

さあ、いよいよ峠だ!

砂子沢峠
8:47


 やや深い切通が現れると、そこが峠となる。
海抜512mの砂子沢峠だ。 いかにも分かりやすい峠の姿に、ホッとする。
峠より先は森吉町であり、この先に降った雨は全て太平湖に流れ込み、小又川、阿仁川を経て、やはり米代川に注ぐ。
ここまでの景色からは一転して、森吉側はなだらかな山容であり、峠付近の山林もつまらない杉の植林地が中心となる。
この地点から、前回の探索の中心地である平田地区までは、本線をあと18kmほども進む必要がある。(直線距離は8kmも無い)
太平湖畔の県道が執拗にグネグネと蛇行を繰り返す為である。

一息整え、すぐに下りに向かう。
直線的な下りはすぐに、私を大杉…今回の探索の起点…へと誘った。



その2へ

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